けものフレンズ12話side C

荒野豆腐

あの日のゆきやまちほー

 その日の温泉旅館は騒然とした雰囲気が漂っていた。

 ボス…ラッキービーストによる救援要請がきっかけである。

「ぼくも行くよ!」

「キタキツネまで出ていったら留守を任せる子がいなくなるでしょ!」

「だってぼくもあの子たちが心配だもの!」

「あなたねぇ!」

 騒ぎの中心にいるのはギンギツネとキタキツネである。かばんを救出しに行くことは即座に決まったものの、では誰が救出作戦に向かうかという話になってから温泉旅館を空けることに難色を示したギンギツネと何が何でも救出に向かいたいキタキツネの意見が衝突したのである。

「だからわたしが二人を助けに行く!あなたはお留守番!それでいいでしょ!」

「よくないよ!ぼくだってあの子たちが心配だもの!ぼくも助けに行く!」

 普段はなんだかんだで最後は渋々ながらもギンギツネの言うことを聞くキタキツネだが、今回は一歩も譲ろうとしない。そんなキタキツネに対してギンギツネも次第に苛立ちをつのらせていった。

「あなたまでここを離れたら設備の管理をする人がいなくなるでしょ!」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!一人で行ってギンギツネ何かあったらどうするのさ!?」

 ヒートアップしていく二人だったが。

「こらこら二人とも。熱くなるのは温泉だけで十分だよよ…」

 そんな彼女たちを制止する声があった。

「カピバラ!?」

 二人が振り返ると温泉の常連であるカピバラがいつものようにふにゃっとした笑顔で立っていた。カピバラはのんびりとした口調で言う。

「いいんじゃないかなぁ?二人とも助けに行っても」

「ええ、でも…」

 カピバラは難色を示したギンギツネを制すと

「ここのことはわたしがやっておくよよよ…大丈夫、いつも二人の仕事を見てるからね」

「でも、どうしてそこまでしてくれるの?」

 不思議なそうな顔をするキタキツネにカピバラは笑いかける。

「だっていつもお世話になっているからね。それに…」

「それに?」

 カピバラは旅館の縁側に出て夜空を見上げる。そこにはそれぞれ強い輝きを放つ星々が集まっていた。

 カピバラは糸目がちの目を開くと二人の方を振り返る。


「困った時は助け合うべきだよ」


「カピバラ…」

「ほら、二人とも早く助けに行ってあげなよよよ…」

 カピバラはもういつもの表情に戻っていた。

 ギンギツネとキタキツネは暫しお互いに顔を見合わせていたが。

「ありがとう。いってきます」

「うん、いってらっしゃい~」

 頭を下げた二人にカピバラは鷹揚に手を振った。

「二人ともやっぱり優しい子だねぇ」

 かばんたちのことも心配で旅館のことも気がかりだったギンギツネと、そんなギンギツネが危ない目に遭ってしまわないかと不安だったキタキツネ。

 二人が連れ立って出ていくのを見届けるとカピバラは両頬をぺちんと叩いて気合を入れる。

「さ、わたしもがんばらなくちゃね」

 そう言ってカピバラは設備の点検や掃除に取りかかるのだった。

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