魔王とタライと細身の男

次郎次

第1話



 白塗りの厳かな宮殿の中、足音が小うるさく響き渡る。

 足音はステンドグラスの窓を叩き、祭壇へ届き、悪魔のような造形をした石像からこだまする。

 足音の主はやけに苛立った様子で、物々しく赤黒いマントを翻すと、大柄な体躯をその場に現した。


 如何にもあくどい顔つきの、恐らくは男であろうその人物が視線を横に流すと――


「アィダッ!」


 ――と、格好つけようとしたがつけきれない、なんとも間抜けな声を漏らした。


 突然、頭に衝撃を受けた男は、落としてしまった視線を上げる。

 直後に後頭部へと痛みが走り、凶悪な爪の生えた手の平で頭部をさする。

 見た目からして正義の味方っぽくはない顔つきで、大きな体に凶悪な武器の象徴である爪も獣のようで、『魔物』と形容するに値してもいい男。

 そんな扱いを間違えれば恐ろしいことになりそうな男に対し、一体全体、何者が何のためにそんな不意打ちを喰らわしたのか。


 小気味良い、乾いた軽い金属音からしていたことから、何か硬く平たい金属状のものがぶつかったのだろうと、男は後方へ注視した。

 怒気が混じった表情は、自分に不遜を働いた存在を決して許さぬという決意がうかがえる。ぴくぴくと目尻に力が込められ、憎々しげに睨みつけ


る。

 しかし、その男の怒気は、原因を目の当たりにした直後から、穴の空いた風船のように一気に萎びてしまっていた。


「……は? なぜ我にタライが」


 そう、タライだったのだ。


 男の眼前で、いまだに男への襲撃の余韻を残してクワンクワンと鳴り回るタライ。

 すぐ後方に転がっているこのタライこそが、男に不意打ちを喰らわした犯人、原因であることは明白であった。


 なぜタライがこんなところに。否、何故自分の頭にぶつかってきたのかと、男は頭部をさする手を次第に和らげながら推測する。

 しかし、元々見た目通りの直情的でまっすぐな男なのだろう。

 不可思議をそのままに捨て置けるかと言わんばかりに、男は真っ直ぐタライへと歩み寄る。


 別段、タライは変わった風には窺えない。再度動きだす様子も無いタライを、男は無造作に手にとった。

 タライをひっくり返して底を眺めてみたり、内面を指でさすってみたりするものの、やはり変わったところは見られない。


 男はおもむろに天井を見上げた。男の頭にぶつかったのなら、必然的にタライは上から落ちてきたことになる。

 とすれば、天井に何か仕掛けがあるのかと男は疑ったのだ。

 だが、天井は自分の無実を証明するばかり。てがかりどころか、定期的に補修されて小奇麗さを保たれている白塗りの天井に感心するばかり。


 男は眉をひそめて視線を落とした。

 その時である。


「はっはー! かかったな馬鹿めが!!」


 大柄な恐ろしい風貌の男の背後から、耳をつんざくような晴れやかな大喝。

 男がマントを翻して背後に視線をやると、柱に寄りかかるようにして、細身の男が立っていた。


「なんだ、『魔王』というからどんな奴かと思いきや。

 そんなしょうもない罠にかかる程度だとは思わなかったぜ」


 やたらと見下したような発言の後、細身の男は柱から手を突っ張り姿勢を戻す。

 細身の男は、大げさに角の生えたカブトをかぶっており、銅板で作ったような、胸部から腹部にかけてを曲線で覆っているプレートアーマーと思


われる物を身に着けていた。

 足には鋼板で作った具足を履いており、とりあえず防御力のありそうなものを有り合わせで身に着けているようにも見える。

 というより、装備している男自体がさほど鍛えているようにも思えず、細い体に防具のアンバランスさも相まって、一言でいえば『不格好』であ


ったのだ。


 これまた変な奴がきたぞ。

 そう言いたげに、面倒そうに口をすぼめるのは、大柄の魔物らしい風貌の男。

 というより、細身の男が言い示す限りでは、男は魔王であるらしかった。


「おい……」


 魔王はそう呼びかけようとして、ハッと我に返る。

 今呼ぼうとしていたのは部下である魔物たちや側近の誰かなのだろうが、魔王は思い出したのだ。

 そういえば今日は年に一度のお祭り騒ぎ。『ハレバレ人類崩滅フェスティバル』の開催中なのであると。


 この祭りは一年に一度、魔王側と交戦状態にある人類を滅ぼさんと、魔物や直近の部下たちも含めて、全ての魔族が飲み食い暴れて歌って踊って


、死ぬほど楽しんで鋭気を得る日。

 この日ばかりは皆が無礼講であり、宮殿(正しくは魔王城とされるもの)から少し離れた位置で、普段の仕事も忘れて休む日なのだ。

 即ち、人類側が攻め込むには絶好の機会である日。

 今まで人類が侵攻してこなかったのは、祭りの日程を知らなかった等、様々理由があるのだろう。


 かくいう魔王も残務を終え、祭りに参加しにいく途中であった。

 この日ばかりは魔王も一魔族として楽しむ日であった。

 魔王という殻を脱ぎ捨て、『スゲー楽しい!! イャッホホォウ!!』と勢いに酔ってはしゃぎまわる日であった。


 とどのつまり、油断している瞬間であったのだ。


「どうしたどうした魔王さんよ!

 こんな隙を狙ってくるとは思わなかったかい。危機管理がなってねえぜ!」


「……フン」


 魔王は鼻を鳴らして余裕な雰囲気を出してみるものの、確かに危機管理や隙については細身の男の言う通りだ。

 言い返すこともできないので、とりあえず魔王は、先手を取って意気揚々な細身の男に問いかける。


「貴様、どうやってここまで入って来れた。

 警備のものはどうしたというのだ」


「へっ、お前さん魔王なのに知らねえってかい。

 今日は魔物どもが集まって、何やら知らねえが祭りをやってるらしいじゃねえか。

 警備なんか全員そっちに行っちまってて居もしなかったぜ」


 そう、それは魔王も分かりきっている。

 そしてその祭りが、本当に魔物全員で参加して、士気を高めるためのものだとも知っている。

 だが形式上効くしかないじゃないか馬鹿者めが、何やら知らねえがと言ってるお前もまとめて滅ぼすためにやってんだよと、魔王は風情もへった


くれもない男に心の中で一人突っ込むばかりだった。


「へっ、そんな世間知らずの魔王様に朗報だ。

 城に魔王一人、勇者が一人とくれば、何が始まると思う」


「……何?」


「察しがついたようだな。

 『最後の戦い』だよ」


 得意げに、芝居がかったセリフ回しをする細身の男を前に、魔王は目を細めた。


 というより、さっきの魔王の『何?』という反応は、察したわけでも、男のセリフ回しにそれらしく乗ったわけでもなかった。

 細身の男が自らを呼称したと思われる単語に、非常に違和感を覚えたからだった。

 そう、『勇者』という単語に、魔王は首を傾げたかったのだ。


 恐らく雰囲気が盛り上がっていると思っている細身の男は、高揚しているらしく、ポーズを決めて魔王の正面十数メートル先に佇んでいる。

 まさか、まさか自分の事をそう呼んでいるのかと思いつつ、魔王は細身の男に、試しに呼びかけてみる。


「……『勇者』よ、愚かだな。

 我が倒せると思っているのか」


「ああ、勝算もなく突っ込む程、俺は馬鹿じゃねえ。

 国から託された未来を勝ち取るために、故郷を守るために! 応援してくれる奴らのために! 魔王、俺はお前に勝ってみせる!!」


 ああ、本当にこいつは自分の事を勇者だと思っているし、口ぶりからして周囲からもそう呼ばれているのか。

 そう魔王は思い、脱力していくのを感じていた。

 服が上手く着れない違和感が、ただのボタンの掛け違いだったことに気づいた時のような。魔王はそんな気分だった。


 魔王はため息をぐっとこらえて口を開く。


「して、勇者よ。貴様武器も何も持っていないように見えるが、どうやって我に立ち向かう気だ」


 この疑問は、魔王が細身の男を勇者として見ていなかった理由の一つである。

 細身の男は大げさな鎧をこれ見よがしに身に着けているものの、肝心の武器にいたっては丸腰の状態だったのである。

 鎧の下に身に着けるは、どうみても村人の布の服。武器が隠されている様子も無い。


 この疑問に対し、細身の男はにやりと笑う。


「短絡的だな。目に見える武器だけが、敵を倒す武器ではない。

 俺が勇者になってからの信条だ」


 何やら頓珍漢な事を宣いはじめたと魔王は思っていたが、可能性は確かに在ることに気づく。


 この細身の男はまさか格闘家、拳闘士であろうかと。

 それならば剣などなくても拳一つで敵は倒せるし、聞いた話では鍛錬に鍛錬を重ねた肉体には、やがて気功とやらが宿り、トーヨーのシンピとか


いう不思議な力が働いて、常人の数十倍の力を発揮できるのだとか。

 だが、どうみてもこの細身の男はさほど鍛えている風体ではなかった。

 鎧が不格好に思えるほどなのだから、細い腕から繰り出されるパンチも恐らくへなちょこだ。


 それならば、何かしらの術師であろうかと。そう魔王の脳裏によぎったが、それも魔王自身によって即座に否定された。

 魔王に挑もうとする術師であるならば、術の媒体とするために、それなりに高名な魔法具は持っているであろう。

 そもそも術師ならば、体から溢れる魔力の匂いを魔王は感じ取れるはず。なのに細身の男からは、それらは欠片ほども感じられなかったのである



「不思議そうだな。

 なら、今その武器をみせてやる」


 魔王の怪訝な顔を見てか、細身の男は宣う。


 すると、細身の男はゆっくりと腕を持ち上げ、魔王を力強く指さしたのだ。


 魔王にはその行動の意図するところが読めなかった。

 特に力も感じないし、指先から何かが放たれる気配もない。

 指先に何か機械を仕込んでいるのかとも魔王は思ったが、感じ取る限りでは、細身の男は指先まで生体まるのままである。


 ただのハッタリなのかと思うところであるが、魔王は念のために、一応の簡易的な防護としてマントを自身の前に出す。

 ここまで自信満々なのだ、もしかしたら得体のしれない特殊能力をもっているのかもしれない。

 よくよく考えれば普通の人間が知り得ないような祭りの日程を把握していたことだし、魔王が思う程愚かな男ではないのかもしれない。

 あれほど魔王を倒すとか勝算がなければとか豪語しているのだ。確かに勝算なくして一人で乗り込んでくることなど考えられないし、勇者と名乗


りながら仲間を一人もつれていないというのは明らかに異質。

 回復役や、盾役や、頭脳役が必要ないという裏返しであり、それが男の得体の知れなさ、また戯言かと思われていた発言の信憑性が高まる。

 予想外にやる男だったのかもしれない。

 魔王は冷や汗をかきそうになっていた――


「アィダッ!」


 ――ところで、またも魔王の予想も裏切り、格好もつかぬ間抜けな声をあげてしまう。

 攻撃は細身の男の指先からではなく、どうやら魔王の頭上からされたようだった。


 しかし、魔王にはこの攻撃に覚えがあった。

 即座に背後へと魔王が振り向くと、案の定、見覚えのある物体がくわんくわんと音を立てて転がっている。


「た、タライ……!?」


「そうさ、それが俺の武器ってわけだ」


 そう、タライだったのだ。


 魔王は思い返す。

 そういえば、タライの謎を推敲している間に割り込んできたのは、『引っかかったな!』等と私が犯人ですと名乗り出てきていたこの細身の男。

 全てこの細身の男が仕掛けていたということなのだろう。魔王にとっては、なんとも不愉快極まりない。


「なんてバカみたいな武器を……」


「罠と言い換えてもいいかもな。上を見てみな」


 細身の男の申し出に魔王は少し不審に思ったが、細身の男から意識を切らさぬまま天井を見上げてみる。


「見ろ、何もないだろう!」


「……何もないではないか」


「つまり魔王! お前は自分でバカみたいだと捨て置いたこのタライによって、倒されるというわけだ!

 発生源がどこなのかもわかるまい!!」


「手品師であるかな?」


 馬鹿にしたように、細身の男に視線をもどした魔王の頭に、平たい金物の音が響く。

 衝撃で魔王の首への負担が加速する。


 後方では、恐らくはタライ同士がぶつかったのであろう金属音が鳴っている。

 細身の男が、即座に二つ目を落としたということだろう。


「分かった、分かったから一旦落ち着くのだ。

 三度も打ち付けられては流石に我とて首筋にこたえる」


「思い知ったか、悪の首領めが!

 お前のこれまでの悪行を清算する時だ!」


 細身の男は勝ち誇ったように笑う。

 毎度丁寧に磨かれているのであろう、いやらしいほどに白い歯を見せて、自分こそが勇者だとみせつけている。


「むかつくし小癪で面倒だなもう……」


 魔王は細身の男に聞こえぬようにつぶやいた。


 妙な部分へのこだわりに、魔王は少々イラついたが、いちいち構っていては時間ばかりがかかってしまう。

 それこそ正直なところ、細身の男に関わり合いになりたくない魔王にとっては致命的だ。

 祭りに参加する時間がどんどん遅れていることからも、魔王は早く切り抜けたかったのだ。


「なあ、勇者よ。

 今宵は良い月であろう。このような風情のある夜に醜く争い合うのはいかがなものか。

 我も無益な事は避けたい。今日は止めにしようではないか」


「バカを言うな! まだ真昼間だ!」


「そうであるな……」


 ガン、と魔王の頭頂部に金物の会心の音がする。

 魔王の首に負担の波が押し寄せる。


「ふむ、まあしかし勇者よ。

 争うだけが我々の本当の道なのであろうか。

 我は常々思っていた。なぜ魔物と人類という存在が生まれたのか。そしてなぜ、二種族間で忌み嫌い、争い合ってしまっているのか。

 種族としての生き残るための本能と結論付けるのならば、簡単な理由だろう。だが姿形は違えど、我と勇者のように言葉は交わせるのだ。

 地方の村では、人型の魔物と人類の禁断の恋愛が生まれたという話も聞く。

 つまり種族間でも理解し合える可能性もあるというのに、根本的な要因は分からぬままやっているのだ。

 我は思うのだ。例えば我々を創造した、我々より上の存在が居るとすれば、そやつらの手のひらの上で、我も勇者も踊らされているだけで――」


 魔王の頭に衝撃が走る。

 しかも一つではなく、なんと三連続。

 リズムよく奏でられた金属音は、周囲から反響して、宮殿内を不思議な音色に包み込む。

 魔王の首は痛みで包み込まれている。


「訳の分からない話をするんじゃねえ!」


 魔王にとっては誤算だった。

 この勇者を名乗る細身の男。予想以上に物事を他方から見て、思考する能力が欠如している。

 というかうすうす勘付いてはいたが、大分バカっぽい。話もまともに聞いてくれない。

 タライを落とす能力一つで乗り込んできたところからして、予測しておくべきだったと、魔王は涙目になって悔いた。


「もう戦いは始まっちまってんだからよ。

 どっちかが死ぬまで終わりはしねえんだぜ。

 覚悟を決めな!」


 タライを落としているだけの細身の男は、大きく勢いづく。

 魔王は正直もう色んな意味で勘弁してほしかったが、何とか早く場を終わらせるために頑張るのだ。


 ひとしきり瞼を開けて閉じて、瞳の潤みを取り去るようにぱちくりと、悟られぬように気持ちを落ち着かせて魔王は顔をあげる。


 勇者は胸を張り、相変わらず魔王に指をさしている。

 覚悟を決めなと言われようが、魔王の方はもうそれどころではない。

 足に力を込め、脱力しかけていた腰に気合いを入れて、落ち込んでいた肩を張り、魔王は姿勢を正した。

 そして、今日幾度目かになる翻しの後、後方に見える純金づくりの立派な椅子に向けて歩き出す。転がっているタライを蹴り弾きながら。


 マントに、今まで隠れていた紋様が露わになる。

 円形に三本線の爪痕と、牙の形を周囲に添えた、魔物たち魔王群を象徴する紋様だ。

 これを背に負う事が何を意味するのか。それを知る魔王こそが魔王なのだと言わんばかりに、座に向かって歩く魔王の姿は雄大だった。

 カリスマという奴だろうか。


 勇者も流石にその姿には気圧されたのか、魔王が座に着くまでは、黙ってそれを眺めていた。

 しかし魔王が椅子に座り、足を組んで肘掛けに腕を置き、頬杖を着いたあたりで金物がぶつかる音が魔王の頭部に響いていた。

 根性と風情がまるでない。


「まあいい勇者、ここまでの無礼は許そう。

 単に、人によって合う合わないの相性が我と勇者とで悪いだけなのだろう。

 我をここで倒そうとすること。そして本気で滅しようとしているならば、よく考えてみるがいい」


 よくもここまで耐えることが出来ている魔王は、相当な器なのかもしれない。

 青筋が浮かび上がりそうなほどに、眉がぴくぴくと動いている。頬杖をついた手の指先は、せわしなく頬をなぞる。のは置いておくとして、いま


だ冷静にあろうとする魔王は頑張っている。


「考えるまでもねえんだ!

 村でも皆言っていたぞ、魔王、お前の悪行三昧をな」


「ほお?」


 うってかわって、魔王は眉間の力を解き、手を組みなおして勇者を眺める。

 指でそわそわと手の甲を叩く様は、何かを待ちわびているかのようだった。


 悪行三昧が噂になっている――

 魔王からすれば、結構に名誉なことかもしれない。

 真向からの敵となる人類に対して、魔王とは人類の敵の象徴。確かに魔王らしく魔物を人類側に向けて解き放ったり、天候を操って不利益を与え


たりもしていた。

 それが話の一つとなっているならば、自分の成したことがしっかりと影響を与えている、無駄にはなっていないということ。

 実感とは、人から自分の話を聞くことから大きく得られるものだ。

 楽しみに聞くのは不謹慎と思われるかもしれないが、魔王は緩む口元を締めて耳を傾ける。


「バダリ城の王に対する反乱はお前が裏で操っていたこと!

 そもそも反乱の原因となった王の悪政はお前が裏で操っていたこと!

 うちの村の村長が旅人から金銭を盗み取り巻き上げていたのはお前が裏で指示していたこと!

 ホーメン城の結婚率が下がっているのは、魔王、お前が魔術で俺たちの価値観を操作していること!

 聞けば、捕まった盗賊達は皆口をそろえて、お前に騙されたと言っているそうだぞ!

 そうやって人類同士を憎みあわせて、汚い手で俺たちを苦しめるんだ!」


「……」


「だからお前は俺が倒す!

 お前はいてはいけねえってこったぜ! 分かったか!」


「ちょ、待て、少し待て」


 話を聞いていくうちに、魔王の瞼は徐々に落ち、閉じていた。

 あれだけ関心を寄せていた瞳を見せることすらできない。組んでいた手は解かれて、力なく膝を叩く。


 予想していた話と大分路線が違っていたために、魔王は頭を痛くしていた。

 そもそも魔王が行っていたのは、そういう直接的な扇動などではなく、あくまで間接的なものばかり。

 王の悪政がどうの、反乱がどうの、盗賊がどうのなどは、魔王には全く身に覚えが無かったのである。


 なぜだろう、面倒な中に嬉しい気分になれるかもしれないと、儚く淡い期待を寄せていたというのに。

 蓋をあけてみれば、ぎっしりと人間の膿が詰まった箱を見せられて、『お前のせいだぞ!』とぶつけられる始末。

 変に持ち上がった気分のせいで、魔王の落胆の度合いはひとしおだった。


「それは……、まあ、我ではない」


 どう否定をしようかと魔王は思索していたが、相手は人の話を聞かない代表取締役の勇者様。

 否定の仕方も、もはや諦め気味だった。


「嘘つくんじゃねえ!

 全て本人達が言ってたらしいからな、証拠は取れてんだよ!」


 当然勇者は噛みついてくる。

 それは証拠にならないだろう。そう魔王は言いたかったが、無駄だと悟ってつぐむ。


 魔王の視線の先には数多のタライタライタライ。

 この勇者が人間の罪と一緒に魔王に押しつけてきた代物。これからも人間達はこういう風に、人に自分の罪を押し付けて生きていくのだろうと。

 肝心なところからは目を逸らして生きていくのだろうと、魔王は静かに蔑み思う。


 魔王は肘掛けの先端に手をかけた。


「もういい、分かった。甘んじて受け入れよう。

 しかして勇者よ。我は正直、今日は気分が乗らないのだ、というよりも気分が悪いと言った方が良いか」


「へっ! そんなの関係ねえぜ!

 今日を逃せば、それこそまた人々が悲しむことになるんだ! 逃がさねえぞ魔王!」


「いや、逃げる」


 魔王はそう言うと、肘掛けの先端にかけた手に、思いっきり力を込めた。

 すると肘掛けは後方に向かって、ガチャリと硬い音を立てて動いたのだ。


「なっ!」


「では、さらばだ。運が良ければ、また会おう」


「待て!! 卑怯だぞ!」


 なんと、魔王の座っていた椅子が、周辺の床ごと切り取られたかのように下へ沈んでいくのだ。

 恐らくは、あの肘掛けの動作が起動のきっかけだったのであろう。

 勇者が驚いている間にも、魔王の姿はみるみる内に下へ沈んで消えていく。

 下には隠し通路でもあるのだ。見えない位置まで行ってしまえば、祭りの日程も把握し、魔王城にまでのりこんできた細身の男も容易には追えな


いだろう。


 勝ち誇っていた気持ちの油断をついて、魔王は逃走に成功したのだ。

 というよりも、椅子にたどり着いていた時点で、この結果は決まっていたのかもしれない。


 細身の男は口惜しそうに、魔王と椅子があった位置に指を向ける。

 そして当たり前のように、ぽっかりと空いた穴の中に落とすのだ、例の、アレを。


 タライタライ、タライを更に落としてタライの上にタライを重ね、タライとタライを掛け合わせてタライを落とし、タライタライタライと連続で


穴に落としてはタライやタライをタライと一緒に穴の中へタライ。とにかく無数のタライだ。死ぬほどの量のタライだ。どこからこれだけの質量を


生み出しているのかも分からぬレベルで、大量のタライを穴の中に落としまくっている。まるでタライの廃棄処理場にタライをとにかく突っ込んで


いるかのようで。

 穴の底では凄まじい音と悲鳴が響いており――


「やめんか馬鹿者がコノヤロウ!!!」


 ――すぐさま魔王と椅子が、大量のタライと共に元の位置まで上がってきてしまっていたのだった。

 運が良かったために、また会えたのだろうか。


 穴に敷き詰まっていたタライは、上に持ち上げられて壁がなくなり周囲に散乱する。

 なにも知らない魔王の側近が見れば、大量の洗濯物でもしていたのですか魔王様、と神妙な顔で心配をされることだろう。

 魔王の首と精神に負担がかかる。


 遂に怒鳴り散らされた細身の男は、逆に魔王に怒鳴り返す。


「逃げるからだろうが!!

 ここまで汚いしょうもない奴だとは思わなかったぜ!」


 魔王はため息をつき、ジンジンと痛む頭を撫ぜる。


「どうしたら諦めるんだ勇者よ。

 いい加減飽き飽きしてきたのだが」


「だから俺は最初から言っているだろう。

 魔王、お前を倒すために来たんだぜ、俺は」


 確かに細身の男は一貫して、そう宣っている。

 しかし唯一持ち寄ってきた武器がこれでは、根本的に無理なのだ。


「いいか勇者よ。いくらお前が無限にタライを創造できようが、我は死なん。

 いくら上からぶつけようが、タライをもってひっぱたこうが、少々痛い程度で倒されるはずがない。

 何故理解できないのだ。逆に、気分が乗らないから見逃してやる、だから帰れというメッセージが何故伝わらないのだ。

 我はもう疲れてきているんだが」


 魔王もここまでくれば逆に必死だ。

 こうまで話が通じないと、というか空気を読んでくれないと、魔王とてノイローゼになってしまう。

 まさかそれが細身の男の作戦だとでもいうのだろうか。そんな嫌な作戦を声高に実行して、倒したというつもりだろうか。


 しかし勇者は、そんな魔王の逆心配を余所に、指を差したまま不適に笑うのだ。


「なあ魔王、このタライがどこから来ているか教えてやろうか」


 急に細身の男が、自らのタネを明かすなどと言う。

 真偽を確かめる術などは無いが、魔王は一応、黙って耳を傾ける。

 というか面倒くさくなってきていたので、魔王はあまり口を挟む気になれなかった。


「実は俺の家は魔物調教士の一族でね……。

 タライはその技能を活かして出しているわけだ」


「……どういう意味だ」


「魔物の中に、空間転移を得意とするスライムが要るだろう。あいつを利用してんのさ。

 無色透明の液体のくせにすばしっこいやつでね。捕まえるのには苦労したぜ

 しかも転移させられるのは、そのスライムに適合した物体一種類のみだけじゃねえか。それが金ダライときたもんだ、笑ったぜ」


 魔王も確かにそのスライムの事は知っている。

 幾分偏食家のスライムで、細身の男が言っている『適合する物体』というのはそのスライムが好む食材のことであろう。

 そして取り込んだ分だけ、異空間から吐き出すことが出来る。すばしっこいというのは本当のことであり、魔王達も詳しい生態を知り切れてはい


ないのだ。

 だが、細身の男はそれを調教して操っていると言う。

 にわかには信じがたかったが、魔王もこれだけのタライを目の当たりにしているのだ。


「つーわけで、今も天井にはその無色透明のスライムが潜んでいるわけだ。

 おっと、攻撃しようとしても無駄だぜ。逃げ足は抜群に速いからな」


 細身の男が得意げに話している間にも、魔王に向けられた指。

 恐らくは、その動作がスライムへの目標示唆であり、命令の一つなのだ。


 魔王は合点がいっていた。

 指先に魔力を感じなかった理由も、男自体に力を感じなかった理由も。

 更に言えば、何もない天井から急にタライが幾多も降ってきていた理由も。

 そんなスライムを使役していたのであれば、そのような芸当も可能ではあろう。

 しかし――


「だからなんだ、結局はタライだけではないか」


 ――そう、魔王が知る限り、偏食家のスライムは、本当に適合した一種類の物体しか食べない。

 タライの中に武器を仕込もうが爆弾を仕込もうが、食べた後にそれだけを的確に吐き出してしまうのだ。

 故になおさらスライムを使役しても、繰り出せるのはタライだけだということだ。


 魔王は嘲笑っていた。

 ここまできて、所詮はハッタリだったということを細身の男自身が漏らしたのだ。

 これ以上はない、という安堵感から、笑みがこぼれていた。


 だが、笑んでいたのは細身の男も同様であった。


「あめえな!」


 細身の男が魔王に向けていた手を返し、下へ向けて指へさす。

 なんの命令かと推測しようとしていた魔王に、即座に異変が起きていた。


「な、なんだこれは!」


 体中に謎の粘液がしたたり落ちる。それも大量に。

 この液体の正体は考えるまでもなかった。細身の男が潜ませていると言っていた、スライムそのものだろう。

 ドバっと、思いっきりスライムの体液を被った魔王は、焦り両腕についた液を払う。

 しかし粘度の高い液体がそうそう簡単に取れるものではない。両手を広げ見て、嫌な感触を魔王は味わっていた。


 そしてふと、妙な匂いに気づく。


「なんだ、この匂いは」


「揮発性の高いオイルの匂いさ。よく燃える、高級品のな」


 声の主である細身の男は、いつの間にか手に固形の黒く小さな塊を持っていた。

 そしてもう片方には、ざらざらとした質感の厚紙。

 それを目にした魔王は、細身の男が何をしようとしているのか一瞬で察してしまっていた。


 恐らく、黒い固形の物体は火薬であり、ざらざらとした質の紙に強くこすりつけ、摩擦をかけて火をつけようとしているのだと。

 武器や魔法具を隠し持ってなどはいなかったが、小さな物体と薄っぺらい紙の一つや二つは隠し持っておけたということか。


「このスライムにはもう一つ性質があってな!

 無色透明である上に、近くにある液体に順応して、体にその液体の性質を学習して取り込んじまうんだ。そして時と場合に合わせて、学習した性


質をとっかえひっかえできる偉い奴だぞ。

 高級なオイルのプールに何か月も浸らせて生活させてたんだ、つまり、今は可燃性のスライムだってことだぜ」


 流石にまずいと思ったのか、魔王は両手をあげて、細身の男を制止する。


「待て、勇者よ。貴様それでは、せっかく調教したスライムごと燃やすことになるぞ。

 ここまで貴様に助力を尽くしたスライムに情はないのか」


「仕方ねえ犠牲だ……!

 ここまでやってくれるんだ、感謝はしてる!

 だが魔王! 何を犠牲にしてでもお前をやらねえと、皆が幸せになれねえんだ!」


 だが、やはり細身の男は聞く耳をあまり持っていない様子であった。


 まさしく絶体絶命の極致であろう。

 油まみれの体に、目の前には今にも着火しようとする細身の男。

 一瞬でも手が動けば、1秒と持たずに火だるまになってしまうだろう。


 そんな追い込まれた状況のなか、魔王は表情を無にして、姿勢を正して言うのだ。


「問おう、勇者よ。

 貴様が一番欲しいものはなんだ。

 我の力があれば、どんなものでも叶えられようぞ」


 スライムに塗れた状態からの、豪壮な雰囲気を漂わせる振る舞い。

 どのような状況に陥ったとしても誇りを失わない、魔王としての矜持。この場合は、渾身のハッタリではあるが。


「俺が欲しいのは、平和と名声と皆の幸せよ!

 魔王、てめえを倒さねえと手に入らねえもんばっかりだ。だからお前を倒すんだよ!」


 細身の男が吠える。

 火種ごしに、燃え滾る瞳が在る。

 メラメラと敵を睨めつけて、爛々と光っている。


 止めるのは容易では無さそうであった。


 垂れるスライムオイルが鬱陶しく、顔を少々手で拭いながら、魔王は何とか声を絞り出す。


「ま、待ちたまえキミィ」


「口調おかしくなってんぞてめえ」


 濁った咳払いが響く。

 早々に化けの皮を剥かれた魔王は、再度口を開く。


「き、貴様は躍起になっているが、滅多やたらに人を殺害に及ぶなどと、言動に疑問を抱かないのか」


「うるせえ! そもそも魔王、てめえは人じゃねえし、人類存亡の戦いをチンケな言い方で汚すんじゃねえ!

 村の皆が俺を待ってる。覚悟しろ!」


「貴様は……」


 魔王は項垂れた。

 この細身の男は接敵した当初から、こちらの意見をまともに聞いている気がしない。

 暖簾に腕押し、ヌカに釘というやつであろう。凝り固まった観念を全力で押し出してきている。


「……いいか、もう一度言うが、よく考えてみろ。

 本気で我を滅するということ、殺すということ。それによって何が生まれるかということ。

 覚悟しろと貴様は言ったが、貴様自身は本当に覚悟を背負っているのか?

 我からできる最後の忠告だ。理解できるか」


 魔王はあくまで真摯に、細身の男へと問いかける。

 言葉でわかり合おうというのか、真意の程は分からないが、とにかく細身の男のやろうとしていることで何が起きるかを伝えようとしている。

 それくらいは考えて欲しいものだったが、細身の男は、やはり――


「魔王めが!! 死ねぇぇえええーーー!!」


 ――固形の黒い物体を、ためらうことなく紙に擦り付けたのだ。

 

 火花が散り、黒い燃料に即座に火が灯り、揮発していた油が熱を拾ってすぐに引火する。

 こうなってしまうと、火の回りは驚くほどにはやい。

 哀れ、可燃性となっていたスライムは瞬時に燃え始め、それを纏っていた魔王にも炎が襲い掛かる。

 情の欠片も無いこの行動に何を思っていたのか、スライムはもはや意思すらもっていないかのように、静かにその身を焦がして、炎の中へと溶け


込んでいった。


「……これが、貴様の、罠とでも、言うつもりか、馬鹿めが!!」


 炎に巻かれ、魔王は顔すらまともに見れないようになり、のたうち回る。

 物々しいマントは燃えて、炎の気流に乗って、徐々に剥がれ落ちて浮いていく。

 顔から指の先に至るまで、まさに火だるまという名にふさわしかった。


「ぐぁぁああああーーーーー!!!」


「思い知れーー!!

 魔王めーー!!

 糞野郎がぁああ!!!」


 細身の男がけたたましく吠える。

 遂にやってやったぞ、という袁叫。目の前で人類の敵が燃え盛り、悶え苦しんでいるという現状。

 つまりは、この攻撃がまさしく魔王を殺すに至れる方法であったということ。

 魔王とて生き物であり、炎に燃やされ続ければ絶命するであろうということ。まさに、苦しんでいる様がその証明であるといえた。


 細身の男はひとしきり叫んだあと、小さくガッツポーズをとる。

 自分の手でやったのだ。魔王が燃える前に何かを言っていたが、細身の男にとってはただの戯言。

 元来、目的のためには手段を択ばない性格の細身の男には、魔王の問いかけなど意味のあるものではなかったのだ。


 細身の男は満足げに口角をあげる。

 これで自分は真の勇者となり、世界に平和が訪れる。

 王の悪政はなくなるし、反乱も収まるし、盗賊はいなくなるし、わが村の村長が乱心することもない。

 まだ外は明るく、遠方では祭りの余興であろう花火のような音が轟いている。

 魔王城にたどり着いた時同様、帰路も楽に見つけることが出来るだろう。


 細身の男は笑う。


 この熱いままの魂と共に。


 細身の男は腕を上げて勝鬨をあげる。


 犠牲となった者たちに届けるように。

 この熱い体と共に。

 熱い体と、熱い体が、細身の男の体は熱かった。


「……はっ?」


 細身の男は体の異変に気づき、足元に目をやる。

 火だ、足元に火がついている。

 炎が回り、鋼板でつくっていたはずの具足から発火したそれはズボンへと即座に燃え移っている。

 回りが異様に速く、まるで細身の男自体が燃料を被っているかのような。


「あ、あぁあ!!?

 なんで俺にも火、火ィが!? ひ、ひ、ヒィイイイ!!

 火、火が!! 熱い! なんだこれはよぉおヒイイイイイ!!!?」


 慌てふためき、細身の男が火を振り払おうとする。

 しかしそんなもので消えるなら、魔王がすでにやっているはずである。

 とうの魔王は細身の男より離れた先で、燃え盛り、もはや動かなくなってしまっていた。


「やれやれ……、我は散々忠告したのだ。

 貴様が何をしようとしているのか、よく考えろと」


 途端に、柱の陰から声が響いてくる。

 細身の男にはこの声は聞き覚えがあり、それはまさしく、先に火だるまになり死んだはずの魔王のもの。


 細身の男は目を見開き、熱さが痛みに変わり始めたことによるもがきで顔を歪ませながら叫ぶ。


「なんでっ! 魔王お前がっ! へ、平気な顔して!

 火っ、俺がこんな目にィ!!」


「何故とは。あれほど聞く耳を持たなかった貴様が、容易く聞こうとするのだな。

 まあいい教えてやる。

 我が椅子で姿を消した際、何もしていなかったと思うか?

 スライムの事を知っている我が、貴様がどういう行動をとってくるか想像していなかったと思うか?

 タライしか使っていなかった貴様が自信満々だった事に、我が疑いを持たなかったと思うか?

 つまりは、そういうことだろうが」


「なんだそりゃあよおお!! ああああああぁぁいてぇえ熱い!! ああああああああ!!!」


「我には、身代わり人形を操作する魔術も、貴様に反射する呪印を人形に埋め込む事も、柱の陰に空間移動する術も容易いことなのだよ。

 もちろん、貴様を一瞬で消し飛ばすこともな。

 感謝するのだな。あくまでお前に温情を与えていたのは、タライが遊びの範疇に収まっていたのもあるが、我の気まぐれでもある。

 気分が乗らなかったのは本当のことなのだ。」


 先ほどの魔王と思われていた人形がしていたように、もはやのたうち回るしか出来なくなった細身の男を見下ろし、余裕綽々に吐き捨てる。

 細身の男は声も出せなくなってしまったようだった。

 全身を焼かれるというのは、それほどの地獄ともいえる苦しみなのだ。

 それを敵とはいえ、平気で実行した細身の男が味わうのは、当たり前の話だったのかもしれない。


「『なんだそれは、なんで、何故』。あれほど言ったのに、覚悟が出来ていないのは貴様だったな。

 他者を殺めたり、苦しませていいのは、同じことをされる覚悟のあるものだけだ。

 故に貴様は下手に牙を剥いたせいで抵抗され、自分の業に焼かれているわけだな。

 お遊びに留めておけば、死ぬことも無かったろうに。

 我は殺されても仕方がなくはあるが、それはお前に殉じた哀れなスライムの分だと思え」


 細身の男にこの言葉が届いているのか、定かではない。

 しかし、全身の神経を焼かれ、もがいて呼吸しようとしても出来ず、苦しみを脳髄に叩き込まれている男は、これ以上ないほど魔王の言葉通りな


のだろう。


「バカな男だとは思っていたが、所詮人を貶めて悪と断じることしか出来ないお花畑そのものだったか。

 対話すらできずに、世間に流されるままに思考を放棄した貴様には、お似合いだったな」


 魔王はマントを翻して歩き出す。

 人類に終止符を打つための祭りに、遅れながらも参加するために。

 腐れた世界を手にし、粛清と再製を行うために。









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魔王とタライと細身の男 次郎次 @bakudann20

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