ケンカ×スパート

Act.22 あの人は変わってしまったの

「みゆ姉、あさみん! 3人目集まった!」


 0時を回った深夜。静けさを増す学校の雰囲気とは程遠い、明るいトーン。

 ガラッと部室とドアを開けながら羽織が叫ぶ。


「はい、ついさっき蒼クンが連絡くれました。刃香冶ばっこうやさんですよね」

 実優さんは机でノートに何かメモしていた。


「オレも聞きましたよ! 風見先輩、おめでとうございます!」

 隅の机でデスクトップをいじっていた恭平が振り返る。鎌野と伊純さんのインタビューを文字に起こしていたらしい。



「もうっ! なんでまとすけ言っちゃうのさ!」

「いいだろ別に」

「良くない! アタシが言いたかったんだい!」

 話を聞きながら、ニコニコしている実優さん。


「ハオちゃん、蒼クン、出場者を集めてくれて、ありがとうございます。無事開催できそうで嬉しいです」

「いやあ、みゆ姉、アタシも嬉しいです! ミスコンやれますね!」

「はい、頑張って準備しましょうね」



 うん、俺も嬉しい。これで、文字通り役者は揃った。

 あとは、俺達が準備を頑張れば、半日後にはミスコンをやれる。


 恭平が席を離れて、カメラを用意する。


「風見先輩、3人目の方、連絡先教えてもらっていいですか? 取材行ってきます」

「あ、カノちゃ……ばかのんね、いつでも炭酸部の部室来ていいってさ」

 ばかのんと言い直されてるあたり、ちょっとかわいそう。



「おお、わかりました。炭酸部かあ。的野先輩、やっぱり部員同士でキャッキャウフフしながら炭酸かけあったりしてるんですか?」

「そんな波打ち際みたいなことしてるわけないだろ」

「えっ! それじゃ何のために炭酸部入ったか分からないじゃないですか」

「かける以外の用途を見出せよ!」

 飲むとかさ調べるとかさあ!



「あの、園田先輩、また一緒に行ってもらっていいですか?」

「はい、もちろんです。ドレスの試着もありますからね。蒼クン、ハオちゃん、ちょっと行ってきますね。1時間かからないで戻る予定です」

「いいですけど……みゆ姉、だいじょぶですか? 夜あんまり強くないって言ってたから……」


 心配そうに聞く羽織。確かに、インタビューが終わる頃にはもう1時半くらいになりそうだけど……。


「そうですね、その時間まで起きていたことはほとんどないんですけど、頑張ってみますよ」

 いつも通り笑って答える実優さん。ピースなんて珍しい。

 ミスコンできること、よっぽど嬉しいんだなあ。




「蒼クンとハオちゃんは、企画の見直しですか?」

「そうですね、特技披露とか急に用意しろって言っても難しいと思うんで、全面的に直します」

「アタシもまとすけと一緒に考えます! 台本も直さなきゃいけないし!」


 当日の司会は羽織。この場で台本も直していけるのは助かる。



「わかりました。帰ってきたら残りの作業について会議しましょうね。じゃあ恭クン、行きましょうか」

 ノートを鞄にしまって、ドレスと靴の入った紙袋を持ちながら、実優さんが恭平を呼ぶ。


「じゃあ的野先輩、行ってきますね!」

「おう、頑張ってこいよ!」

「あさみん、頑張ってこい!」

 激励しながら2人を送り出して、椅子に座った。





「さて、企画どうするかなあ」

 手を後ろに回して、首の辺りで組みながら呟く。


「ホントにかなり直さないといけないね、これ」

 椅子をガッタンガッタン前後に揺らして、羽織が返事をする。



 ドレスを着てもらって投票するだけのミスコンじゃつまらないし、出場者の内面の魅力も引き出したい。

 そんなコンセプトから、ミス水代コンテストではバラエティー的な企画を盛り込むことにしている。



「一問一答ならできるよな?」

「うん、できるはず! 元の出場者にも質問は教えてなかったし」


 ノートで扇ぎながら答える羽織。よし、そこについては今のままでいけるな。


 出場者全員に登場してもらった後、オープニングを飾る企画が、一問一答。

 20個の質問にポンポン答えてもらって、全部終わった後に、気になった回答についてさらに詳しく話を聞くコーナーだ。



「ただ、後の企画は難しいだろうなあ」

「ナッツとかに準備してもらう時間ないしね」


 ため息をつく羽織。考えてることは一緒か。


 一問一答の他には、出場者が撮った日常の写真を見ながらトークするコーナー、出場者に特技を披露してもらうコーナーを用意していた。

 でも、写真なんて急に用意できないだろうし、特技も準備に時間がかかったりする。いや、ばかのんは最悪コーラ一気すればいいけどさ。



「とりあえず、代わりに何の企画やるか決めてくか」

「そだね。出場者に手間かけさせないで、アタシ達だけで準備できるもの考えよ!」

 こうして、実優さん達が戻るまでの会議テーマが決定した。







「ううん、難しいなあ」

 ボールペンを銜えて、誰に言うでもなく漏らす。


 意気込んで会議を始めたものの、これといった案はすぐには浮かばず、暗礁に乗り上げる。

 さっきみたいに険悪なムードではないけど、2人して黙り込んでるのは同じ。


「困ったぜい……」

 腕を組んで考え込む羽織。コイツがこのポーズをして名案が出たことは一度もないけど。


「やっぱり見てて面白いものがいいよなあ」

 せっかく観客もいっぱい集まるし。


「まとすけ、神経衰弱とかどうかな?」

「いや、そういうことじゃなくてさ」

 ミス水代候補集めて、やることがトランプって。


「もっとこう、出場者の性格や内面とかが分かる企画がいいと思う」

「出場者の内面がわかる神経衰弱!」

「ただくっつけただけじゃん!」

 むしろどんなゲームか教えてほしい。


「性格や内面かあ。そうすると喋ってもらうのが良いよね、やっぱり」

「そうだな。でも、普段の生活のことはパンフレットに書くだろうから、トークの内容は変えないとな」

「ふうむ、むむむむ……むむ……」


 頭から煙がブスブス出てる相方を見ながら、俺も長考に入る。


 何かいい案ないかな……。




「あ、ノート!」

 しばらく時間が経った頃、突然そう言って羽織が立ち上がった。


「ノート?」

「まとすけ、しばし待たれよ!」

 鞄を漁って、青いノートを出す。ものすごい勢いで、パラパラ捲り始めた。


「どこだどこだ……確か6月頃に……あった! まとすけ、前に企画決めたときにボツにした案、どうかな?」

 ノートを開きながら聞いてくる。


「ボツにした案……って何だっけ?」

「サイコロ振るやつだよ」

「おお、あったな!」


 サイコロの面にお題を書いて、振って出たお題の話をしてもらう。

 写真のコーナーと迷ったけど、出場者が自分で写真選ぶのも楽しいだろうと思って、写真の方を選んだんだっけ。


「うん、うん、こっちはサイコロさえ準備すればいいんだもんな。トークはその場で考えてもらえばいいし」

「ナッツとかみんな、急にお題出されてトークとかできるかな?」

「まあ多分な。分かりやすいお題にしておけば大丈夫だろ」

「ん、そだね! よし、じゃあ1つはこれに決まりだ!」


 2人で盛大な拍手。羽織が壁の黒板に「サイコロトーク!」と赤のチョークで大きく書いた。

 ううん、チョークでも綺麗な字だ。


「まとすけ、6つのお題も今考えちゃおっか」

「おう、そうしよう。思いつきでどんどん言っていこうぜ。『ビックリした話』とかどうかな?」

「良いと思う!」


 ビックリ~ビックリ~♪と適当に節をつけて歌いながら、黒板に書き足す。


「羽織は何かないか?」

「アタシはね、んっと……あ、『ペリーが黒船で来たときの話』ってどうかな?」

「俺が言ったのと方向性が違いすぎませんかね」

 それ誰が何の話するんだよ。


「あ、ペリーより後の方がいいかな? 開国後の日本の貿易についての話とか」

「時代の問題じゃないんだよ! 出場者関係ないでしょ!」

 それただの歴史クイズでしょ!


「例えば『最近、感動したこと』とかさ。出場者が自分の話をしやすいお題にするんだよ」

「自分ってホントに死んだ方がいいなあと思ったこと!」

「ミスコンでそんな話聞きたくない!」

 ツッコミも交えながら、お題の案を書き出していった。




「そろそろみゆ姉とあさみん戻ってくるよね?」

「ああ、そうだな」

 腕時計を見ながら答える。もうすぐ1時半か。


「戻ってきたらみゆ姉達にどれがいいか聞いてみようよ!」

 黒板を見る羽織。そこには、サイコロトークのお題候補が15個くらい並んでいた。

 おい、なんでまだペリーが入ってるんだよ。



「いったんサイコロはここまでにして、次の企画の案決めるか」

「おう、そうしよう!」



 羽織の返事に相槌を打つように、スマホが震えた。



「恭平からだ」

 右手のボールペンを持ち替える。



「おう、どした?」

「大変です! 園田先輩が……」

「実優さんがどうした!」

 反射的に大声を出した。



 何だ、実優さんに何かあったのか。何があったんだ。

 まさか、疲労で倒れたりしたんじゃ……。


「おい、恭平! 実優さんがどうしたんだよ! 具合が悪いのか!」

「いや、その、なんというか……大変なんです……」


「だからどう大変なんだよ! 熱でもあるのか!」

 羽織も、受話器に近づきながら心配そうにしている。

「あ、いえ……と、とにかく、取材終わったんで、部室戻ります!」


 そう言って、電話は切れた。


「あさみん、何だって? みゆ姉に何かあったの?」

「分からない。アイツ、はっきりとは言わなかったからな」




 コンッ コンッ

 部室をノックする音。


 俺も羽織もすぐに分かった。

 に違いない。



「今行く!」

 走って開けに行く羽織。

「みゆ姉! だいじょぶ!」

 ドアを勢いよく開けると、恭平が実優さんをおんぶしながら入ってきた。



「実優さん! おい、恭平! 何があったんだよ!」

「いや、15分前あたりから急になんですけど、その……寝惚けてるというか……」



「ふあ~蒼クン~、たっだいまですう~。ふにゃあ~ハオちゃんも~、ただいま~」



 知らない人が、そこにいた。

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