Act.7 ナイショの企画が動き出す

「舞台の、ですか?」

「そうそう! フィオレンティーナとして出るなら恥ずかしくないでしょ! 普通に話してほしいときはアタシがカツラや衣装脱がしてあげるから、そのときだけナッツに戻ればいいし!」


 確かに、それなら出てもらえるかもしれない。当日の司会は羽織だから、トークするときだけ脱がせればいい。毎回押し倒したりしなきゃいいけど。


「……そっか、でも、うーん、明日はビラ配ったりして舞台の宣伝したいんですよね。いっぱい見に来てほしいし……」

「お、そしたらミスコンの企画内で宣伝しろよ」

「おお! まとすけ、ナイス提案!」


「企画内で自分のアピールタイムあるからさ。そこで『演劇部やってます』って言って、舞台の紹介すればいい。ミスコンは1000人くらい人集まるからさ」

 学内だけじゃなくて、学外からも注目のミスコン。集客力は折り紙つきだ。


「うんうん、ナッツの仲間も一瞬ステージ上がってもらってさ、みんなで紹介しちゃえ!」

「ITEDOKEのときより人集めたいんだろ? だったら結構いい宣伝のチャンスだと思うぞ」

「わあ、そっか、1000人に紹介かあ……」


 少し嬉しそうな鎌野。心が傾いているように見える。


 と、自分でそれを打ち消すように首をブンブン振った。



「うん、ごめんなさい、すぐには決断できません。部長の許可も必要ですし、それにやっぱり出るの恥ずかしいし……。今日の練習があと2時間くらいで終わるはずなんで、それまで返事待ってもらえませんか?」

「あ、ああ……」


 マズい。これは2時間後に「ごめんなさい、やっぱり……」ってなるパターンだ。

 でも、これ以上強く押してもダメだろうな……。


「わかったよ、ナッツ。とりあえず練習頑張って! 終わったら連絡してね!」

「うん、ありがとう、風見さん。的野君もわざわざありがとう」

 もう断った後のような挨拶をして、フィオレンティーナに戻る鎌野。


「その格好、なんか中世っぽくないなあ」

 羽織が、鎌野が着替えている服を見て首を傾げる。うん、言われてみれば幼稚園生が汚れてもいいように着るお遊戯服みたいだ。


「馬鹿なことを言わないでちょうだい! これはコットといって、中世ヨーロッパの平民の服装よ! 肌着の上に皆これを着ていたんだから! 私は貧しいフィオレンティーナ、貴族の服など着られないのよ! 嗚呼、なぜこの私が魔女にされなくてはならないの!」

「ほお、コットっていうのか。勉強になるなあ」

 おい羽織、鎌野のキャラ変化に少しは驚けよ。


「では私は練習に行ってくるわ!」

 そう言って、魔女の容疑者は軽快にステップを踏みながら、部室へ戻っていった。





「羽織、どう思う?」

「……断られるパターンですな」

「同感。くそう、結構いいところまで言ったんだけどな……」


 2人して座り込む。20分も話していた分、徒労感が強い。


 最初から上手くいくはずないし、二つ返事で参加してくれる人なんて滅多にいないだろうけど、それでもやっぱりこうして断られるとショックは大きい。


「まあ仕方ないな。ちょっと休んだら、いったん鎌野は諦めて別な人あたるか」


 でも、自分の部活の宣伝ができるっていうのは、出場者にとって大きなプラスになりそうだな。それが分かっただけでも良しとするか。


 さて、またイチからやり直し。次の候補は誰かなあ。



「ねえ、まとすけ、あの箱何だろ?」

 羽織が近くの廊下に置いてあったダンボールを指した。

 電子レンジがまるごと入りそうな、かなりの大きさ。


「何だろうな」

「よし、開けてみよっと」

「勝手に開けるなよ」

「すみませーん、開けますよー」

「そういうことじゃねぇよ!」

 誰に話しかけてるんだよお前は!



「……おお、まとすけ、見てよ!」

 膝立ちでフタを開けた羽織が、明るいトーンで俺を手招きする。

 隣に行って中を見ると、さっき鎌野が着てた衣装や作り物の石が入っていた。


「小道具入れ、って感じかな。予備の衣装とかも入ってるみたいだし」

「なるほど…………おっ! おおおっ! おおおおっ!」



 ……ああ、付き合いが長いから一発で分かるぞ。

 俺の想像が及びもしない、とんでもないことを思いついて、テンションが上がっているときの声だ。

 横を見れば案の定、歯が見えそうなほどニマニマしてる。



「何か思いついたんだろ」

「ふっふーん、そんなことないですよお、うひょひょ!」

 嘘が下手すぎるよ! 明らかにテンションおかしいだろ!


「まとすけ、ナッツを説得する作戦を思いついた。で、そのために今からちょっと演劇部の部長と打ち合わせする。だからまとすけ、トイレに行ってきて」

「待て待て、話が繋がってないぞ。何で俺がトイレ行かなきゃいけないんだ」

「打ち合わせ聞いたらまとすけが反対するから」

「ますます行きたくない!」

 部長に根回ししてまで何するんだよ!


「ねー頼むよー! まとすけー! 行ってよー!」

 膝立ちのまま俺の胸をポカポカ殴る。

 お前、もう少し高校生らしいおねだりを覚えろって。


「わーったわーった、行けばいいんだろ行けば」

「うん! 5分くらいしたら戻ってきていいからね!」

 ニパッと笑う羽織にため息をつきながら、近くのトイレに向かった。



 中に入ったものの、特にやることもないのでスマホでネタ記事を漁る。

 が、今進行中の何かが気になって、すんなりは頭に入ってこなかった。


 ううん、部長まで引っ張り出して何話すつもりなんだ……不安すぎる。アレコレ想像してみるけど、なかなか答えは見つからない。


 ……まあ、悩んでも仕方ない。なんかアイツも自信ありげだったし、どうせ断られるなら作戦とやらを試してからにしよう。




「お、まとすけ、来たな!」

 もう廊下はかなり暗い。一歩一歩、部室に近づくにつれて、羽織の姿が次第にはっきりしてくる。


「ああ、打ち合わせは終わったの――」

 思わず声を止めた。


 作戦隊長が、


「な……っ! な……な……っ!」

 必死で声を押し殺して叫ぶ。


「なかなか似合うでしょ? あ、部長とは打ち合わせ済みだぜ! すっごく乗り気だった!」

「いや、似合うとかじゃなくて! お前何でその格好してんだよっ!」

「じゃあ、まとすけ! 後は分かってるね!」

「分かってない! 分かってないです!」

 何が始まるの、ねえ!



「行くよっ!」

 そのまま、中世ヨーロッパの平民(キャスト 風見羽織)は、部室のドアを開けてトテテッと入っていった。



「フィオレンティーナ、フィオレンティーナはどこ!」

 急な来訪者と突然の呼び出しに、部室が静まる。



「私はハオリッタ! 貴女に頼みがあって来たの!」

 何かやりだした! ハオリッタ様が何かやりだしたぞ!

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