第7話 中野さんとコインランドリー
旅も三日目ともなれば、そろそろ洗っておきたいものもある。僕などは最初からそれを見越して荷物を少なく用意してきた。ランドリールームでぼんやり、ぐるぐる回る洗濯物を見つめていると、中野さんがひょいと顔を出した。そのまま僕の隣のベンチに腰掛ける。
「……すごいですよね」
中野さんがぽつりと、つい数時間前まで観ていたバンドの名前をあげた。
「あんなに小さなステージで、全身全霊を賭けるように、楽しそうに、高いところへ昇るように、演奏する人を初めてみました。いろんなライブ見てますけど。お客さんが少ないと、どうしても、どこか気持ちのノリが弱かったり、ふてくされた演奏をする人って、いるんですよ。そして、そういうのはどうしてもわかってしまう」
乾燥機の中でぐるぐる回る僕のシャツを目で追いながら、彼女はどこか冷めた笑みを浮かべた。すれた彼女の表情に、僕はちょっぴり安心した。よくできた女の子の見本みたいな彼女にも、他人に対して冷たい目をする部分があるんだな、と。
「軽音部って」
彼女が所属するその部活は二年生の先輩たち四人と彼女、たった五人で構成されているそうだ。彼女は言う。私の代は独りしかいない。再来年、自分が三年になった時、新たな入部者を得るためには、自分が、あのバンドの人のように、自分に加入を決意させた先輩たちのように、人を震わせるようなギターを弾かなくてはいけないのだ、と。
「私も……先輩たちの演奏を聴いて、軽音部に入ったんです」
あんなに心も身体も預けて一生懸命になれる音楽、一緒にやってみたいと思わせる、温かく楽しい音楽を私もやりたい。
「もし、来年、誰も入部しなかったら私、ソロで弾き語りですね」
彼女は半ばそれを覚悟している風でもあった。どうやら軽音部にたくさん入部者の集まるような学校ではないらしい。
「歌ってギター弾いて、足に鈴巻いてさ、講堂を踏みならしなよ、ロックだよ!!」
鈴はちょっと……とはにかむ中野さんは、それでもどこか夢見るように楽しそうだった。
明日、僕たちは網走に向かう。そこで、四日間追い続けたステージも、最後を迎える。
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