第5話 中野さんと国道38号
ライブが終わり、三々五々車が駐車場から出ていく中、僕と彼女だけが暗い夜道を歩きだした。行きに通った川沿いの道を覗いたら「げぇっ! げぇっ!」と、正体不明の鳴き声が聞こえてくる上に、熊に鼻をつままれてもわからないほどの暗さだったので、遠回りして国道を行くことにした。
ほんの三時間前とは比べものにならない、本物の澄んだ冷気。北国で育った僕には懐かしい親しい何か。長袖を羽織った中野さんは一分間に一回くらいの頻度で「寒いです」を連発している。
「そんなに寒いんだったら……」
パーカーをさっと脱いだ途端、半袖一枚の肌が粟立った。最低気温四度の夜にこれは無理だ。黙ってまた着直すと、中野さんはあははと笑った。
橋を渡り、マクドナルドにケンタッキー、見慣れた看板の並ぶあたりをすぎると、国道といえども相当暗い。人はほとんど通らない。車道を通り過ぎる車の明かりだけが頼もしい。
歩き続けていると身体がだんだん暖まってきたようで、中野さんも少し元気になってきた。
へーへいへーへーぇいへーえーえー、と、ワンコーラス口ずさんでみる。今日のライブで演奏された曲のコーラス部分。中野さんがきれいな声で続く。しっかりした音程。少し繰り返してから、僕は三度上で、いぇーへいぇーへーえいへーへーへー とハモる。
へー へいぇーへー ぇいへーえーえー
いぇーへーえーぃえーへいえーえーえー
遠くにガソリンスタンドのうっすらとした明かり。澄んだ彼女の声と、僕のやけっぱちの声が重なる。
ほーにゃーららーうたーげーのほーにゃーにゃー
歌詞全然覚えてないじゃないですか、と笑われる。
ほーにゃらーにゃほにゃぁあらーほーにゃーほーにゃほにゃぁらー
へーぇいえーへーぇいえーいえいえー
僕らは国道と別れを告げ、陽気に坂道を登り始めた。
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