一章 華やかなるは、月の秘儀 其ノ二
まさか自分が天上人の
紗良は物見に顔をくっつけて外を
故郷たる
もしもあの火が永遠の別れを告げる自分のために
神車に乗ったばかりだというのに、もう紗和子たちのもとに帰りたくなっている。だらしのないことだと自分を
「
ち、と舌打ちが
いましがた舌打ちした男──目の前に座っている花直衣の貴人が、屋形の
そんなに臭いならなぜ一緒の神車に乗ったのだろうかと不思議に思うが、他は
屋形の
目の前の貴人は要するに立派な
顔の下半分を隠していてもわかる
──確か、天都では四つの家門が
なにぶん政争とは
天の島と地の島、両方を統治するこの
かつては浮城乃国という文字をあてていたが、
天空に
この天の国土を
一方、里人の紗良たちが暮らす地上は
国土の形は一枚の桜の花びらに似ている。同じ国の
なにしろ山月府には、榔月府に常に存在する
榔月府の東西南北には四つの宮がある。そこには半神半人たる竜が住む。
紗良は、その竜に
竜は
一歩違えば悪神へ変ずる
だから天上人は、竜を
里人にとっては天の都で暮らすだけでも相当の負担となる。天と地では大気の層が異なるため、変調をきたしやすい。だがいまは、この長衣から
「おまえを選んだ俺が恨めしいか?」
貴人は扇を下ろし、
「里人は
先ほど
だが病弱と判断されたおかげで
「か弱くて、どうせ
「はい。でも、私は
すぐに散る命だから新しい冶古を探そう、などと思われても困る。
「丈夫? おまえのどこが?」
貴人は
「恐ろしいほど
「!?」
貴人も驚いている様子だったが、紗良のほうが
──美しさが
目が
「
これではろくに働けないと改めて感じたのか、貴人はその
「
「禊……」
「竜は怪を食す。だが
「……岩の
「苔!?」
貴人は
「
「毛皮!」
貴人は宝玉みたいな目を限界まで見開き、
「なんたる
「……あっ、じゃあ魚の取りというほうが……?」
「
「わずかに力をこめるだけでおまえの
貴人は不快さを
痛い、と声を上げようとして、
紗良は青ざめながら自分の口を片手で
「
貴人にいきなり頭を摑まれた。
──が、
紗良は目を瞬かせる。確かに頭は下げた……力ずくで下げられた。
──でもこれって
もしかして貴人は気づいていないのだろうか。
あなたの膝の上に私の頭が乗っているんですけれども……。
「
貴人にとっては
「ああ、この髪はなんだ? ごわごわする。女のものではない」
上から貴人の絶望した声が降ってくる。
ごわごわしていて当然だ、ずっと海に
「この
貴人の口調が次第になにかを
そんなに私の髪って硬いの、と少しばかり情けない気持ちにもなるが。
紗良は人に
天上人も、同じなのだろうか。
これから
──結局、十二天門のひとつに
このうち
不意の
──そのはずだったのに。
現在、
ここで車を
──これは山じゃないの? 本当に門なの?
それに、夜空に浮かぶ三日月が、とても近い。
「なにをしている」
「
言葉のきつさに少し胸が痛くなったが、それ以上にほっとした。
被衣に身を隠すと、不思議とわずかに息苦しさが
「来い」
貴人が
貴人のあとを追おうとして、
年は十四、五か。紗良より
「
「その口上は聞き
「私に黙って勝手な行動をされては困ります」
白長督と名乗った少年は
これに
「私は竜神の宮を取り仕切る長官です。こうも気まぐれに地上をふらふらされますと、いざというとき
「その程度のつまらぬ才なら迷わず退け」
「王、
む、と貴人が──由衣王が顔をしかめ、袖で口元を隠す。
紗良は彼らのやりとりを
由衣王? まさか皇族だったのか。
道理でこの気位の高さ。言われてみればうなずける。
が、いくつか気になる言葉があった。たつのかみ。たつみちょう。ひょっとすると、皇族であり四
「ともかくも。そちらの里人が
「よい」
「よいとは?」
「ひ弱な女だ。躾けるあいだにすぐに死ぬ。手間をかけるまでもない」
由衣王の言葉に、白長督が
「日々身を清めさせれば、少しは延命できますよ」
「それで
由衣王が、夜の色の
「たやすく散るなら、俺が好きにしても問題はあるまい」
「獣のごとく
「いつものこと」
「王の方々が
「
「まことつむじ曲がりでいらっしゃる。そも、捕まえる気すらお持ちでない。本来なら数名、いや少なくとも十数名は召し
白長督が片手で額を押さえ、
由衣王のほうはと言えば、意地悪な顔をして
「どうしてそれほど秘儀を
「
「恨みたくもなります。おかげでもう一年も、辰弥庁の官が冶古の
「なるほど。宮人らが、おまえになんとかしてくれと泣きついたか。我らを
「とんでもない。一人で
「うるさい」
話を聞いているうちに紗良は
いや、ここで
身分の高さ低さは自分ではどうにもならない。だけど心の高さ低さは自分だけが変えられる。「
負けてなるものか、と自らを
「この
由衣王は小首を
「俺が竜だぞ」
彼は大きな一歩で
「西の
紗良は息を
「おまえは神の皮をかぶったおぞましい
人への
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます