2-2

「あ、幸せが逃げた」

 番頭が眉をしかめ、そういった詩乃を睨んだ。

「あのですね、詩乃さん?」

 そういって小上がりに近づこうとした時、後ろから人の気配がして振り返る。

「ごめんください、」

「はい、いらっしゃいませ。どういった御用で?」

「えっと、あのぉ」

 若い娘だった。手ぬぐいで顔を隠していて俯き加減ではあるが、詩乃のほうを見ている。

 詩乃が娘に手招きをした。番頭が「奥へどうぞ」と声をかけると、娘は小上がりへと歩いた。

「どうかした?」

「……それが、」

娘は番頭が気になるのか、言いにくそうなそぶりを見せる。

詩乃が指を二本立てる

「無理やり男に襲われて孕まされたか、ひどい折檻で人が見たら恐怖を覚えるか、どちらかの用向きでない限りは番頭も同席させている。この二つの事例以外ならさっさと答えて、どうせ大したことないのだから」

 娘はむっとしたが、確かに二択のようなことはないと手拭をのける。

 13,4歳ぐらいの活動的な娘のようだった。パンパンに血色よく張った肌。色艶がよく、唇などはつやつやとしている。ただ、鼻の頭に吹き出物があった。

「この吹き出物が恥ずかしくて、」

 詩乃がじっとそれを見て失笑する。娘が唇をかみしめる。

「いや、失礼。でも、そんなものは年とともに無くなるし、今は少し腫れて痛いかもしれないが、二、三日のうちに芯が出てくるだろうし、放っておけば痕には残らない。汚い手で気にして触れば痕に残る」

「でも、すごく不格好だわ。鼻の先っちょにこんな大きなもの、出歩くのも恥ずかしいのよ」

「若いからね。若いという証拠なんだけど、それと同じくらい、確かに恥ずかしいよね。だからって、触りすぎると、今度は黒くなってしまうよ」

「そんな、どうしたらいいの? すぐに取ってくださいよ。薬ですぐに、」

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