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==一話を短くして表示する。ただし、話の前後を無視しているので、もし、負荷なく見たい方は、通常版をご覧ください==
きれいな顔だろうに、よほど痛かったのだろう、痛みに苦しんだ顔のまま死ななきゃいけないなんて、なんて人生だ―詩乃はそう思いながら店を出た。
夜風に桜の花びらが目の前を飛んでいく。見上げれば、大通りの真ん中に見事な枝ぶりの桜があった。
「おまえには恥をかかされた、そこになおれ」
詩乃が声のほうを見れば北村が柄に手を乗せた状態で近づいてきた。詩乃は辺りを見るが、たぶん、北村は詩乃に言ったのだろう。
「聞こえぬか、手打ちにしてくれる」
「あぁ、やっぱりあたし?」
詩乃の素っ頓狂な声に北村が刀を抜こうと、半身抜いた時、その手を後ろから誰かが掴んだ。北村が振り返れば、
「し、城山様、」
急にがくがくと北村が震えだし、目が見開いたままになった。
「あら、奇妙なところで会いましたね」
「藤若のなじみでな、もう帰るんで一目会いたいと思ったが、障子を開けてくれそうにはないな」
詩乃が二階を仰ぎ見る。
「藤若のサワリはひどいですからね。……桜折ったのおっちゃん?」
城山はにかっと笑った。
「お、おっちゃんて、」
北村が絶句するのを、城山が刀を押し片付けさせ、
「詩乃がこの店の薬師になったのは、俺が連れてきたからだ。詩乃は、俺の世話になった方の娘でな、貴殿に切り捨てられていい娘ではないんだ」 北村がその気迫にたじろぐ。
「無粋だねぇ。だから侍って嫌いでありんすよ。ここは吉原でありんすよ? 身分だの、恩義だの、そんなものなく遊べるところ。男にとっての極楽でありんしょ?」
二階を見れば桟に腰かけて藤若がキセルを燻らせていた。
「もういいのかい?」
城山が声をかけると、
「城山様が詩乃さんに頼んでくれたんでありんすね。わっち、藤若、城山様のことをますますお待ちいたすでありんす」
「あぁ、サワリ明けする明後日にまた出てくるよ」
「はぁいぃ」
藤若は甘くそう答えて障子の奥に引っ込んだ。
「詩乃、すまなかった。籠を用意させている。あと、付き人も、」
城山が顎で示すところには駕籠屋と、若い男が立っていた。
「何から何まで、」
「いや、無理を言ってすまなかった」
「いいえ。それでは」
詩乃は頭を下げて籠のほうに向かった。
「今日は長かったですね、」
籠そばの若い男が荷物を受け取りながら言った。
詩乃は頷くだけで黙って籠の中に入った。籠はそのまま大門をくぐり、下界へと降りて行った。
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