5

==一話を短くして表示する。ただし、話の前後を無視しているので、もし、負荷なく見たい方は、通常版をご覧ください==


 鈴和香はそばに座り、片足を立てて詩乃の手が置かれた辺りを押して顔をしかめる。


「あんまり痛いと、按摩の意味がないんだ。ほどいい痛さに加減して揉む。ゆっくり、じっくり、そして、足首のここ、この辺りが冷たいと、内臓が弱ってたりするから、ここを下から上、足先から心臓へ血を送るような感じで揉みあげる。しばらく揉んでいると暖かくなるだろ?」


「そうでありんすね、なんだか、体が温かくなってきたような」


「そう、冷えて眠れない時にはここを揉むといいよ。あとは、このくるぶしの近くのこの辺りに、サワリの痛みなんかを和らげるところがあるから、そこを揉む。サワリがひどいのは血のめぐりが悪いからだからね。いい仕事をさせたかったら、サワリの時に大騒ぎをしたり、やたらと大仰に自分をの賜って、休んでいる部屋に入ってくるようなことをせず、……あの桜の枝を折ってくるバカの様に風流じゃないと、藤若の心は射止めないですよ」


 詩乃はそう言って灰となったお灸を背中や足から取り除き、何枚も重ねた手ぬぐいに、少しだけやかんの湯を落とすと、それを絞り、隅々まで湯をいきわたらせたら、広げ、軽くはたいてから、藤若の腰にそれを乗せる。


「はぁ……極楽」

 詩乃は首をすくめ後片付けを始める。


「詩乃さん、あんたが藤若と懇意で、それ以外で吉原ここに来てくれないのは知っているんだけどね、」

 言い難そうに内儀が声を出す。


「あちきの姐さんでありんすよ。梅若と言いましてね、この数日頭が痛いと仕事をしてなくて、」

「男ができたとか?」


「……それは考えましたが、どうにも、こうにも、見てやってもらえませんか?」

「ここにも医者は居るでしょう?」

「下ろし専門はね」

 藤若から手ぬぐいを取り上げる。藤若の言葉に詩乃は首をすくめて立ち上がり、木箱を持った。


 藤若は起き上がり、襦袢を羽織り、詩乃に指をついて頭を下げた。

「姐さんを頼みます」

 詩乃は何も言わずに出て行った。


 藤若はまだ仁王立ちでいる木村を見上げ、

「まだおりんしたか? わっちがサワリだというのを嘘だと疑い、このような醜態をさらす羽目になって、わっちは、愛想がついたでありんす」


「ふ、藤若?」

「詩乃さんが言うように、同じバカなら、桜の枝なんぞ折ってくれる方のほうがいいでありんす。……さぁ、もうお帰りになっておくんなまし」


 藤若はそういうと布団に横になった。禿の水鳥がかいがいしく布団をかぶせる。


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