3

==一話を短くして表示する。ただし、話の前後を無視しているので、もし、負荷なく見たい方は、通常版をご覧ください==


「藤若―。来てやったぞ」

 と大声を出した。その声に一瞬笛の音が止まるほどで、人々が一斉に詩乃のほうを見たときでもあった。


「藤若―ぁ」

「ウルサイ」


 二階のお座敷の障子が開き、襦袢姿の女郎が姿を見せた。その姿はとても、

「お、花魁? 藤若の花魁?」

 と人々が思うほどのもので、化粧っけなどなく、青白くふらふらさえしていた。


「お詩乃さん、お詩乃さん、堪忍してください、そんな店の前で大声何て、」

 慌てたように店から出てきたのは小さな禿かむろだった。


「よぉ水鳥みどり、元気にしてたか? ほら、金平糖」

「うわぁ、ありがとうでありんすぅ。じゃなくて、シーです。シー」

 水鳥は口に指を押し当てて静かにと合図をする。


「水鳥、その女に何を言うてもどないにもならんよ。お母さんに言うて、上げてもろうて、」

「はいぃ、藤若花魁」

 水鳥は金平糖を両手で握りしめ店の中に入っていくと、すぐに内儀おかみが出てきた。


「まったく無粋なオナゴやねぇ、あんたは。まぁ、ええわ、さっさと上がっておくれ」

 詩乃は肩で息をして入ろうとした時、


「ちょっと待て、先ほど、藤若を呼べと言ったらサワリだと抜かして、薬師を呼んだはどういうことだ」


 見れば、侍のようで、たぶん、どこかいいところのバカ息子だろう。と思われる典型的な風貌をしていた。


「えぇ、今日は藤若はサワリです。ですから、」

「ほかの病なんじゃねぇのか?」

 詩乃はうんざりしたようにため息をつき、中に入ろうとしたのを、その侍が肩をつかんで止めた。


「おい、薬屋、藤若は何の病気だ」

 グイっと引っ張られ、詩乃の持っていた箱が大きく揺らぎ、詩乃の眉間にしわが寄った。


「心配ならご一緒にどうぞ、言っても聞かないのなら見るが早いですよ。あほらしい」

「あ、あほらしいだと?」

 詩乃は肩の手を払って店の中に入っていく。


 相変わらず、香でごまかしているが、言い得ない匂いがそこここに染み出ていて「本当に、空気が悪い」詩乃はうんざりしながら二階へと上がっていく。


 侍も、内儀の制止を振り切って上がっていく。

「後生ですから、北村様、藤若はサワリなんです。そういうところを見られるのは花魁にとってあまりにも非情で、」


 と訴えを無視して北村と言われた侍は勝手知ったる藤若の部屋の障子を思いっきり開けた。


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