第8話
ナリムラはポケットから梅干し位の大きさの玉を取り出した。
それをマッスルとゼロ方へ投げる。煙玉だ。
あたりを煙が包む。
マッスルは不意をつかれてしまった。それはゼロも同じ。
2人が状況を理解するのにさほど時間はかからなかった。
声が聞こえた。少女の悲痛な声が。ナリムラは、瞬時に助手席のドアを開け、ココナを掴み拘束する。
そして見張りの男と共に担ぎ走り出す。
「マッスル!マッスルー!!」
ココナはマッスルを呼ぶ。マッスルは声の方へ走る。
しかしゼロが阻む。この時ゼロはナリムラがゼロの為にココナを連れ出したと考えた。
「悪いな、俺のファーストレディだ」
マッスルとゼロは手と手を組みあい互いの信念を主張する。
2人の体格差は大きいもののゼロは全くマッスルに引けをとらない。
「すまんなゼロはん。ワイの女の為に時間稼いでや」
「誰の、女だと?」
その時ゼロは気がつく。ナリムラはゼロの為にココナを連れ去ったのではないと。しかし一足遅かった、マッスルを足止めした間にナリムラは消えていた。
ハガも逃げるように去っていく。
マッスルは怒りに震えた。ココナを守れなかった弱き自分を。
悪僧よ覚悟するが良い、相手を選べば長生きできた事を身をもって後悔するのだ。
「マッスルよ、すまない。少女を取り戻すまで、一旦休戦しないか?」
マッスルは了承した。
「俺にも非がある。1発殴ってくれ、それでケジメをつけさせてくれ」
ボゴォォン!
シティのに轟音が鳴り響いた。
ハガの屋敷。
「ようやったで、ナリムラちゃん」
「ありがとうございます」
「なんなの?あたしをどうするの?」
ココナは手足を縛られていた。自分が拉致られた事を理解したのだ。
「自分、ええ女になると思うわ。あんな肉ダルマとおるより、ワイとおったほうがええ思い出来るで」
「いや!マッスル!マッスルはどこ!?」
「聞き分けない娘はお仕置きせなあかん、ワイかてそんな事しとうないんよ?」
そう言ってハガは近くの女中を呼び寄せた。
「お呼びでしょうか?」
ハガは無言のまま女中の腹を蹴った。
はううっ!女中は痛みに顔を歪ませうずくまる。
「な、なんてこと!」
ココナには何が起きたのか理解できなかった。
「大人しくせんかったら、かわりにこの女中が痛い目にあうんや。それでもえんか?」
続けて脇腹を蹴る。きゃんっ!と鳴いて女中は転げ回る。
「あんまりよ!」
ココナは大人しくせざるを得なかった。
「それでえんや、ようわかったやろ」
ハガはゆっくりとココナの髪を撫でる。ひっ、とココナは反応する。
「もうじき大切な降臨の儀式がある、その時に契りを交わしてワイの正式な妾にしたるさかい」
そう言うとハガは手下にココナを別室へ連れて行かせた。
どれ位気を失っていたのか。ゼロはハッと目を覚ました。
何時間、何日?いや。そう思えるほど長い一瞬。数分位だ。
マッスルが近くで見守っていた。
「マッスル、お前」
ゼロは言おうとしてやめた。マッスルの情の深さに完敗したと思ったのだ。俺ではマッスルに勝てない。度量が違うのだ。
ゼロは立ち上がりパンパンとホコリを払った。
「行くぞマッスル。彼女を取り戻すのだ」
マッスルも立ち上がり、2人は総本山を見上げた。
彼らが本気で走れば数キロ程度ものの数分で着く、サラブレッドの馬よりも早い。それは究極の筋肉の所業。
道中を阻む憎き宗教野郎は片っ端から肉片にした。悪僧の手先には容赦はしない。
振り向けば本山の参道は真っ赤に染まりきっていた、悪党の血でできる絨毯は間も無く完成する!
総本山、頂。その建物はあった。仏閣とは思えぬ風貌のそれは月法会本部だ。しかしハガ達はここにはいない。ハガの屋敷はまた別にあるのだ。マッスル達はそれを知らずここへたどり着いた。
「なんだ!お前達は!」
建物からゾロゾロと会員が出てくる。出てきた端からゼロとマッスルによって散って行く。悪は滅びる定め!筋肉、正義の嵐なのだ。
「ずいぶんとハデにやってくれるじゃねぇか!」
「これはまたホネのありそうな奴らだ」
さっきまでの雑魚とは違う、明らかに武闘派の2人!
漆黒の法衣を纏い、手には重々しい槍を構えている。
「マッスル、こいつら手強いぞ。気を抜かな」
ゼロはマッスルに注意を促す。マッスル、これを承諾。
「行くぞ!」
誰かの合図と共に激闘が始まる。
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