第7話
マッスルとゼロ。彼らは似て非なる存在。
強大に鍛えたマッスルとは対照的に細く洗礼された筋肉をもつ細マッチョのゼロ。彼らは向かい合い対峙しただけでお互いの筋肉に対する美学を察する。方向性こそ違うものの同じ筋肉を愛し、筋肉に愛された存在。
それは少し置いておいて、ゼロはココナに釘付けになっていた。
どストライクな女。小ゼロがビンビンに反応している。
マッスルはそれに気付いていた。勿論、ナリムラも。だってビキニパンツから先がはみ出している。ビクビクと脈を打ち少しよだれを垂らす。
「ゼ、ゼロさん?」
「ーーは!何だ?」
「い、いやボーッとしてはったから」
「すまない、助手席の、少女に目を奪われていた」
「え?少女、ですか?」
「そうだ、実は俺は少女が大好物な男」
それはとても危険な男。ココナはまだ女になる前の少女。
マッスルもそれを許せることは出来ない。
しかしゼロも不純な感情で言ったのではない。初恋。ゼロにとってこの感情は初恋とよんで相応しかった。すやすやと安らかに眠る彼女にゼロの心は奪われてしまった。
「マッスル、あの少女はお前の女なのか?」
マッスルは体が名を表す男。ゼロがマッスルと呼ぶのに何の疑問もない。
マッスルは首を振る。
「マッスル、俺はあの少女に惚れちまった。俺に、譲ってくれねぇか?」
ゼロは生涯をかけ、ココナを護る決意である!
が、マッスルは首を縦には降らなかった。
見ず知らずの男にココナは託せない。
「拳で語るしか、無いようだな」
ここに、ココナを掛けた熱い漢の闘いの火蓋が切って落とされる!
2人は少しの間牽制し合った後、全身の力を込めたパンチを繰り出した。
マッスルの強大な筋肉から産み出されるソレとゼロのしなやかに引き締まった筋肉から繰り出されるそれがぶつかる。
ナリムラはその瞬間を1番近くで見ていた男だった。
2人の熱気、想い、色んなものが混じり合い、ぶつかる瞬間がとてもゆっくりで、永遠とも思えるほど長い一瞬に感じた。
そして拳と拳がぶつかる。強く、ゆっくりと。
音は無かった。拳同士がぶつかった場所を中心に衝撃が周囲を襲う。シティの塀が崩れナリムラと見張りの男は10メートル程吹っ飛んだ。2人の足元は少し陥没している。衝撃は割と遠方まで行き、家屋を倒壊させる。地響きがおき、シティの民がゾロゾロと顔を出す。
ッパパアァァァーーーー!!
音が遅れて響く。
その衝撃と音は、助手席で眠る姫君の元にも届く。
そして、目を覚ます。
「マッスル!どうしたの?何をしているの!?」
慌ててトラックから出ようとするが、思いとどまる。
マッスルが敵と戦っているなら、あたしは邪魔をしてはいけない。
身をかがめマッスルの安否を想い祈る。
衝撃は月法会本部事務所まで響いた。
「なんやなんや?」
ハガが事態の把握を要求する。
「わかりません、入り口の方からのようですが」
「さっきのトラックと関係あるんかいな?行ってみるで!」
ハガは手下を数人ひきつれ入り口へと向かう。
マッスルとゼロは一撃で互いの技量を把握した。
互角?マッスルはゼロを認めその筋肉を尊敬した。ゼロもまたマッスルの筋肉の包容力を知り、気付かぬうちに涙が溢れていた。この涙は喜びの涙。筋肉の事をこんなにも深く愛することができる男がいたとは!
だがココナの件は別問題。
マッスルも心が痛かった。こんな男ならココナを任しても良いのかもしれない。
「マッスルが苦戦している。あの人、今までの人と違うのね!」
ココナもゼロの強さを感じとった。そしてイケメンの細マッチョに少し頬を染める。ーダメ!あたしにはマッスルがいるのに!ー
それは少女故の葛藤!ココナもまた女の素質が十分にあるのだ。
「マッスル。もう一度言う。ココナを俺にくれ!必ず幸せにする!!」
その心意気にマッスルが少しひるむ。
今だ!
ゼロは全身の筋肉を巧みに操り、追撃のパンチを放った。
不覚マッスル!このままではパンチが顔面直撃コース。たとえマッスルでもゼロ程の男のパンチを喰らえばどうなるかわからない。
その時だった。
「ちょっと待ちぃ」
ハガが現場に着いたのだ。
ゼロの拳はマッスルに届く前に止まった。
「なんだ、俺は邪魔をされるのが1番許せない男」
「ゼロはん、よう見てみい。その男の左手」
「!?これは!!」
マッスルのサウスポーがゼロの脇腹の手前で止まっていた。このまま振り抜けていれば、俺もこの拳を喰らっていた!!
「そういうことや。その男とはやり合わんほうがええ」
「俺は俺の理由でマッスルと拳を交わす男」
そういい2人はまた牽制をし合う。
熱い火花が2人の間に交差する。
「そうか、せっかく身を案じたんやけどなぁ。ん?あれは」
ハガもココナに気付く。これは将来いい女に育つ。そう直観が告げた。
「ナリムラはん、ちょっと!」
「は、はい!」
ナリムラは起き上がり、ハガの元へ駆けつける。
「どうしました?」
「あれ、見てみい」
ココナを指すそして耳打ちする。あれはワイの妾にする、屋敷へ連れて行きなさい。と。
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