第5話

 ココナと母はマッスルの筋肉美から目が離せなくなっていた。股からとめどなく雌汁が溢れてくる。少女が女になった瞬間だった。もっとも少女がそれを自覚するのはまだ先の話である。

 ココナの母は今咥えている脂の塊に嫌悪感を抱き、吐き気に襲われる。「お母さん!」そこへ愛娘が近寄る。


 ぱちぱちぱち。

「ブフォ!ブフォ!面白いブフォ!」

 豚男爵は立ち上がり乾いた拍手を送る。それは豚男爵がマッスルを好敵手と認めた証拠。小賢しい武器など必要ない。

 肉体で確かめあおうという豚男爵の粋な武士道。豚男爵の脂肪は豚貴族きっての最強の脂肪。何重にも重なった脂肪のミルフィーユ。そんじょそこらの筋肉など相手にならない。だがマッスルはその辺の筋肉とは違うようだという事を豚男爵は見抜いたのだ。

 最強の筋肉と最強の脂肪。ぶつかり合えばどちらが強いのか。豚男爵も武人の端くれ、かつて栄えた文明に最強の矛と最強の盾はどちらが優れているかという逸話があった。それがどういう結末を迎えたか豚男爵は知らないが、血がうずく。強きを求める男の本能には逆らえないのだ。


 マッスルは大胸筋をヒクつかせ、豚男爵を挑発してみせる。

「遠慮はいらぬようだな、我が脂肪に立ち向かった事、誇りに思うが良い!」

 豚男爵はかつて腕の立つ武人だった。その気高さを思い出した。

 豚男爵は両手を大きく広げて構えを作る。巨体がさらにおおきくなる。


 2人はそのまま動く事はなく互いをけん制しあう。

「なんで、2人共動かないの?」

 ココナは股を拭きながら母に問う。

「もう、闘いは始まっているのよーー」

 母はマッスルの筋肉美に体は火照り、雌汁は雌湯へと化す。


 パアァンッッ!!!!


 激しい破裂音が室内に響く。

 マッスルが視界から消えた瞬間に。

 破裂音の主は豚男爵。マッスルの拳圧に耐えきれず、腹の脂肪が内側から破裂した音だった。


「見事ーー!!」


 豚男爵は潔く死んだ。

 そもそも、最強の脂肪とはただの脂肪。脂肪はどこまで行っても脂のカタマリに過ぎず、鍛え抜かれた筋肉の前では成すすべもあるはずが無い。言うなればアリとゾウ。マッスルにとって赤子を相手するも同然!闘いは始まる前に終わっていた。否!始まってもいないのだ。


 その後マッスルは母子を抱き抱え帰路につく。

 寝室を出た所で三度の異音に気づいた豚将軍率いる豚貴族残党が居たが、奴らも所詮豚。マッスルの蹴りに沈んだ。


「マッスル、ありがと」

 ココナはマッスルの頬にキスをした。マッスルにとって代え難い報酬だ。


 集落に帰ると、貧相だが宴が執り行なわれた。マッスルは讃えられ、ガソリンを分けて貰った。


 そしてーー夜が明けた!!


「もう行かれてしまうのですな…」

 長は寂しそうにマッスルと対峙していた。マッスルもまた、少し哀しい目で応える。

「そうですか、止める事は出来ますまい。また、ここへ寄って来られることを切に願いますぞ」

 マッスルは笑顔で頷く。


「ココナ!あなたどうしても行くの!?」

 ココナはマッスルについて行くと言って聞かなかった。母も説得をしたがまるで聞く耳を持たない。

「決めたの!あたし、マッスルについて行く!ねえ、マッスル、いいでしょ?」

 マッスルは困った顔で母を見る。母はマッスルと目が合い雌湯を流しながらマッスルに頼んだ。

「ご迷惑なのは承知です、どうか娘を…!」

「あたし。きっと役に立つから!マッスル、お願い!」


 マッスルはココナを連れて行く事になった。この時代、この世界でできる事は多く無い。けれどこれからの世代に世界をみて、感じてもらう事は必要な事なのだ。きっとそれがこの荒れた世界に希望を産み出す力になる。


 マッスルのアテのない旅に、ココナが加わった。旅は1人より2人のほうがずっといい。マッスルに任せれば母も安心なのだ。ココナを一人前に育てるとマッスルは心に刻む。


 そしてマッスルとココナを載せたトラックは走り出した。

 ここよりも西、シティの方へ。

 マッスルの筋肉が導く、そこにマッスルを待つ者がいる。

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