第2話

 逃げたならず者は草が生えたアスファルトの路をショッピングモール跡地まで駆けていく。何度か立ち止まり、追ってくる者を確認する。気配はない。

 ボス率いるこいつらは他の集落からモール集団と呼ばれ恐れられていた。

 定期的に近くの集落を襲い女食料を強奪し不必要な殺戮を好んでいた。近くに敵対する武闘派の集団もおらず、彼らは大きい顔でのさばっているのだ。

 そんなモール集団にもボスを頂きにヒエラルキーは存在する。逃げた彼は下層の位で主に周辺の見回りを担当する『使い捨て』の部類にいる。

 ショッピングモール跡地はいわゆる郊外型でとても大きい。入り口は彼らが使う箇所以外全て厳重に封鎖されている。

 地下1階地上4階(内3階4階屋上部分は立体駐車場)の根城をならず者数十人が占領していた。老朽化こそあるものの雨風を凌ぐには十分すぎる広さだ。

 逃げてきた使い捨てが根城に戻ったとき、丁度ボスも遠征から帰還したところだっった。遠征は車で行く、勿論燃料はS級に希少だ。黒のセダンからボスが降り、トラックに積んだ荷物の処遇を手下に指示していた。



「ボス!不審者が!」

 そう言って近くでひれ伏す。

 ボスは平和な時代にはサラリーマンでもしていてもおかしくない風貌のおっさん。ボスは黙った振り向く、続けろという意味だ。

「北の公園付近でカップルを襲っていたところ私のチームが1人の男に返り討ちにあいました」

「それで、お前は闘わず逃げてきたのか?」

「は、はい。他の4名が瞬殺され、私では手に負えないと判断し報告に参ったのです!」

「そうか、ご苦労」

 そう言うとボスは左手を少し挙げた。誰かに合図を送ったように見える。ならず者はスグに理解した。爆音と共に車が向かって来る。処刑だ。ゴッと音がしてならず者は撥ねられた、少し飛び落ちたところを轢かれ死んだ。

「ゴミを片付けておけ。そして全班に伝えろ、その不審者は必ず殺せ」


 これがボスの統制の仕方。力と恐怖。ならず者達は些細な事で見せしめに処刑され暴君の危険を脅かすものは徹底して排除された。

 それでもならず者達は他所で生きていく術がなく自然と此処に集まってくる。度重なる略奪で食べるものには困らない。ボスにさえ逆らわなければ好き勝手に暴れても良いのだ。

 ボスは自室に戻っていく。自室とは2階専門店街。このエリアは彼のプライベートエリアになっており他のものは許可なく立ち入る事ができない。

 許可なく出入りできるのは取り巻きの数人とお抱えの美女達のみである。美女たちは5人おり、基本裸で生活している。彼女らはボスに愛されるのが役割なのだ。


「ボスぅ」「おかえりなさぁい」「抱いて」ボスが近づくと服を脱がし始める女たち。

「後にしろ、疲れてる」

 そう言われると蜘蛛の子を散らすように去っていく。機嫌の悪い時に加減を知らず死んでいった女は少なくない。

 ボスは皿から果物を一つとりかじりながら服を脱ぎ風呂に入る。荒廃した現代において風呂は選ばれた贅沢なのだ。しかもジャグジー。

 少ない資源と貴重な電気、水をふんだんに使った極上の贅沢。数に限りのある入浴剤入り。2人の女が呼ばれ共に風呂に入る、体を洗う為だ。

 泡に塗れた女2人は左右から自らをタオルに見立てボスの汚れを落とす。

 そこへ取り巻きの1人が来た。


「北部の連中と連絡が取れない」

「ああ?」

「恐らくさっきの不審者だろう。ここに来るのも時間の問題かもしれんぞ」

「ここを俺たちの城だと知って来る奴はいねぇ。どっかの地方からの流れモンか、何にせよ俺に喧嘩を売るやつは容赦しねぇ」

 不敵に微笑んでみせるが勿論こいつは噛ませ犬。

 数時間もせずうちに不審者は場内に侵入したと報告があった。

 そうなってくるとボスも冷静ではいられない、イライラハラハラドキドキ。落ち着かず女2人程手にかけた。

 そうボスは恐怖でならず者を支配しているが、実は気が小さい。自分を強く見せるために知恵を使いここまで上り詰めた、不安材料は全て取り除き。絶対王者を語っていた。

 彼が失墜するまで後400文字弱。

 先ずは近くの壁が崩壊した。爆発のような勢いで。塵煙が晴れると取り巻きが死んでいた。顔は原型がないが髪型と服装が人物を特定させる。


 もう一人分の影があり徐々に姿が明らかになる。マッスルだ。返り血を浴びて入るがマッスルの怪我は一切ない。服を着る間もおしみならず者を倒し続けている為未だ全裸。

 ボスと目が合う。女はマッスルの股間から目が話せなくなている。マッスルは適度な運動で股間の血流もバッチリ良くなっている。

 ボスは何か言おうとしているが言葉が出てこない。マッスルはおもむろに両手を天に上げ、ゆっくりポーズをとる。

 フロントダブルバイセプス!上腕二頭筋と腹筋、胸筋と腹斜筋が奏でる洗礼された美!ガッツリとバランス良く、質の良い筋肉だ!力強さ!漢を表現しながらマッスルは少しづつ歩み出す。

 もうボスはこれから自分に起こるすべてを受け入れている。小悪党、此処に滅す。


 マッスルは美女と風呂に入り、少し汗を流した。

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