第7話 世界樹奪還作戦
僕は仁科平次。平凡な高校生にして勇者。どちらが現実でどちらが夢か、未だにわからない。だけど大切な人が出来た。だからこそ、僕は戦う。大切な人を守るために、傍にいるために…
「おーい起きてるかー」急に声をかけられ驚く。振り向くと拓斗がいた。
「あ、おはよう」取り繕うように僕は返す。
「随分と顔がにやけているな。どうした?」と訊かれ、「いーやなんでも」と返しながら僕は真面目な顔を作り、水筒を出してお茶を飲む。
「ほほう、まさか王女様とキャッキャウフフ的な何かが…」拓斗ににやにやとしながらそう言われ、飲んでいたお茶を噴き出した。
結局拓斗にその時の顛末を白状させられたものの、その日はそれなりに平凡に終わった。そして僕は眠り、異世界へ向かった。
異世界では世界樹奪還作戦が始まった。元々ユグドラ洞窟は、ユグドラ公国の政治犯罪者などを収容する隠れ里であったため、その出口の1つはユグドラ公国の王宮の裏庭と繋がっている。そこでその道を利用して王宮の裏庭から侵入し、そこから世界樹へ向かい、世界樹を奪還・浄化するという手順だ。しかし、その王宮の裏庭に出る出口には魔王軍の衛兵が常駐し、侵入者がないか見張っていた。そのため僕らはユグドラ公国の衛兵達に商人のふりをして裏庭に侵入してもらい、僕らはその荷物に紛れて侵入することになった。
商人用の大きな馬車に乗り、洞窟内を進む。もとより政治犯罪者や見張りの役人が馬で行き来していたこともあって、獣の類はほとんど出なかった。王宮側の出口に到着すると、そこには案の定見張りの兵がいた。「通行手形は?」見張りの兵が訊いた。商人のふりをした衛兵が手形を見せる。見張りの兵は通行手形を確認し、正規の物であることを確認する。この手形はユグドラ公国の商人から拝借した代物なので当然正規の物だ。実際にそれを使って魔王軍相手に商売していたらしい。もうその商人が勇者でいいんじゃないかな!!
「よし、さっさと通りな。」見張りの兵はぶっきらぼうにそういいながら手形を返した。商人のふりをした衛兵は「ありがとうございます~。」と言って進んだ。僕らは馬車を降りて、王宮の裏庭にある階段から世界樹に向かった。長い階段を登り切り、世界樹の根元の広場にたどり着くと、そこには身長5mはある巨神兵が静かに佇んでいた。蒼く輝く鎧を纏い、その両手には長さ3m近くに及ぶ大剣が1本ずつ握られていた。周囲に隠れられそうな場所はないが、巨神兵の目は光っておらず、動く気配はない。僕らは音を出さないようにすれば進めるかもしれない、そう期待して忍び足で進んでいたのだが…。
プレタがうっかり地面に落ちていた木の枝を踏んだ。ミシリという音が響く。その瞬間、巨神兵の目が光り、僕らに襲いかかってきた。
盾と大剣のぶつかる音が響く。プレタは盾で巨神兵の連撃を受け止め続ける。苦悶の顔から、その斬撃の激しさが窺えた。背後からソノットが弓を放つが、硬い鎧に弾かれる。僕も何度も隙を見て斬撃を叩き込むが、これも硬い鎧に弾かれ掠り傷一つつけることもかなわず、巨神兵が振り向いてこちらに斬撃を加え、後退させられる。ノアが回復魔法をかけてくれているものの、状況は劣勢そのものだった。
巨神兵は再びプレタに狙いを変え、連撃を加え続ける。背後に回った僕は助走をつけ跳躍、背中に斬撃を叩き込む。が、やはり弾かれる。巨神兵が振り向き、僕に向けて剣を振り下ろす。間一髪で逃れたものの、剣が地面を叩く衝撃に僕は吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。巨神兵の追撃が迫る。だがそのおかげで巨神の背後は隙だらけになった。歩み寄ろうとした巨神兵の右足にプレタが助走をつけ、盾を持って体当たり。鎧に傷こそ与えられなかったが、思わぬ一撃をくらい、巨神兵は転倒。
「ここは俺たちが時間を稼ぐ!ヘイジと王女様は世界樹に行って!!」プレタが叫び、倒れた巨神兵を槍で突く。
「背中は任せる!」僕はノアの手を引き、世界樹へと急いだ。
広間から階段を駆け上り、世界樹の根元に着いた。その大きさに圧倒される。黒ずんだ葉が、穢されたことを物語っていた。
「できるかな。」浄化の準備を進めながら不安そうにノアが呟く。
「大丈夫。詠唱するなら教えて。僕も一緒に唱えるから。」
僕はノアの手を取る。
「そんなこと言うと思った。」ノアは呆れながらも微笑み詠唱のメモを取り出した。
魔導書を広げ、ノアは世界樹に触れ、詠唱する。世界樹に触れたノアの手に僕の手を重ね、僕も声を重ねて詠唱する。魔導書が淡く光る。黒ずんだ世界樹の葉は段々と新緑の色と輝きを取り戻していった。
詠唱を終え、魔導書から光が消えた。世界樹は浄化された。
「…私達、やりきったのね…」ノアは呟いた。
「よく頑張ったね。」僕は労いの言葉をかける。プレタもソノットも広間から駆けあがってきた。「よく頑張りました。王女殿下。」ソノットもノアを労う。
「皆さん、本当にありがとうございます。さあ、帰りましょう。」
僕らは階段を降り広間に戻った。だがその時…
「ハッハッハッハッハッ」と不気味な笑い声が広間に響いた。
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