第5話 ユグドラへの道と謎の魔女

 僕は仁科平次。平凡な高校生だが夢の中では勇者だ。ただ最近は、どちらが夢でどちらが現実か、だんだんと分からなくなってきた気がする。平凡な高校生の自分が現実な気がするけど、かといって勇者である自分が夢だとは断定できない気もする。こう考えるようになったきっかけは、謎の魔女との出会いである。

 プレタとソノットが仲間になった翌日から、僕らはソノットの家からかつて世界樹を守護していたユグドラ公国の人達が身を寄せている洞窟を目指し森の中を進み始めた。ソノットの家からその洞窟までは普段は歩くと10日はかかるので大体馬車で行くのが一般的だが、僕とプレタの鍛錬も兼ねて、余分に時間をかけて12日くらいかけて歩くことになった。道中ではティラン以外にもルカヴィと呼ばれる大蛇やチュドと呼ばれる怪鳥など様々な獣が襲いかかり、その度にソノットにサポートしてもらいながら僕とプレタで倒していき、5日目には高さ2メートルくらいのティランを難なく狩れるくらいには成長してきた。




 その夜の事。僕らは森の中の湖の傍で野営をした。食事を終え、皆が寝た後もなんとなく寝付けなかった僕は、近くの岩に腰を下ろし、星を眺めていた。異世界の星は本当に綺麗だ。僕の町はほとんど星が見えないし、今まで田舎といった場所に行ったこともないため、満天の星空を見るのは初めてだった。そんなことを考えていると、背後から「ヘイジ様ですね。」と知らない誰かの声が聞こえてきた。声がした方を振り向くと、そこには黒い帽子・黒いローブを着た魔女らしき何かがいた。「あなたは一体…」夜行性の動物は少ないと言え、念のために持っていた剣を構え臨戦態勢をとる。「ああ、安心してください。私はあなたに危害を加える気は微塵もございません。ただ私はあなたに、ある問答をしに来たのです。」魔女は敵意はないと両手を上げながら平然と言う。「問答とは一体なんです?」剣を納め、魔女を睨んだ。

「なに、簡単なことです。あなたはあなたがいた世界とこの世界。どちらが夢でどちらが現実だと思いますか?」魔女はそう僕に問う。

「そりゃあ、この世界が夢で僕がいた世界が現実ですよ」当たり前のように答える。

「ほう、その根拠は?」魔女は続けて問う。

「根拠、か…魔法とか、そういうのは大抵作り物だからかな。」

「それはあなたの世界の理のみのお話。世界が違えば、その理は異なります。故にそれは、あなたの意見の根拠とはなり得ない。」魔女はきっぱりとそういった。

 しびれを切らした僕は「一体何が言いたいんですか?」と魔女に訊く。「せっかちな人はモテませんよ。」そう魔女はたしなめ、「この問いに深い意味はありません。ただ、あなたに言っておきたいのは、あなたの世界もこの世界も、どちらも夢であるかもしれないし現実かもしれない。しかし、それらを証明することは不可能、ということです。


 …そしてあなたはいつか、そのどちらが現実かを選ばねばなりません。それまでせいぜいお悩みください。あなたの世界とこの世界、どちらが現実でどちらが夢か…。」魔女はそう言い残し、消えていった。僕は魔女についての疑問と世界についての疑問を抱えながら、寝ることにした。




 そして僕はいつもの部屋のいつものベッドで目覚めた。思えば眠ってすぐに世界を移動して起きているためそんなに寝ていない気がするがそんなに疲れている気がしない。不思議だ。

 いつも通りの時間に起きたので、いつも通り朝食を食べ、身支度し家を出る。いつも通りの1日。しかし授業が終わった放課後、僕は拓斗と一緒に寄り道する羽目になった。というのも、英語の課題で外国について調べて発表するという課題が出た。ぶっちゃけパソコンがあるので家でもできるが、珍しく2人1組で行う課題なので、ペアの拓斗と共に図書館で調べることにした。

 とは言えずっと調べ物というのも飽きる。30分で飽きた僕は気晴らしに図書館を適当に見ることにした。この図書館は結構広い。なんとなく見ていると辞書のコーナーが見えた。英語・フランス語・ドイツ語・中国語・ロシア語とかがやたら多いがよく見るとちょいちょいネパール語とかウェールズ語、マケドニア語といったものまである。誰得だよ…。

 その中で適当にマケドニア語の辞書を手に取ってパラパラと捲ってみる。まあ、使うことはないだろうが、と思っていると急にある単語に目が留まり頁を捲る手を止めた。その単語は「Сонот」、読みは…発音記号の読み方がよくわからないので合っているかどうかは不明だが「ソノット」と読むらしい。

 …?異世界にいる賢者の名前そのものだ。そして僕はそこに書かれていた意味に目を疑った。

 なぜならその単語の意味は「夢」であったからだ。

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