第4話 森の賢者
僕は仁科平次。普段はどこにでもいる高校2年生。だが夢の中では異世界の勇者なのだ!
…というと聞こえはいいけど、その夢がファンタジックな割に所々現実的だし、痛覚や味覚といった感覚も最早現実そのものだから実際そうなってみるとすごく困る。なんせ、死にかける感覚も現実そっくりなんだから。
なんでそんなことを考えたかというと死にかけたからだ。僕はノア、プレタと共に森を探索し、野営の準備を始めたところで巨大な熊のような獣に襲われた。応戦しようと突撃したが躱され、獣はその腕を大きく振りかぶり攻撃してきた。避けられないと悟った僕は死を覚悟する。しかし襲い来るはずの衝撃はやってこなかった。
なぜなら攻撃しようとした獣の腕はどこからともなく飛んできた矢によって射抜かれたのだから。
腕を射られた獣は怒りの咆哮を上げ、矢が放たれた方向へ突進。するとその方向から立派な髭をたくわえた小人が飛び出してきた。小人はすばしっこく動き獣を攪乱。プレタも加勢し、獣の隙を突き槍で攻撃。どこからともなく飛んでくる矢と槍で獣は翻弄され、背中に大きな隙が出来る。その隙を突き、僕は獣に全力で斬撃を叩き込む。背後からの斬撃に獣は大きく呻き、そして倒れた。
「やったぜ!」プレタはガッツポーズをし、僕とハイタッチ。死ぬかと思ったけど終わりよければなんとやらということで…。そうしていると茂みから「お前さん達大丈夫かー」という声と共に小人が出てきた。手に弓を持っていることから、先ほどの矢を放った人だろう。「先ほどはありがとうございました。」僕は小人に向かって頭を下げる。「気にするな。森の中じゃ助け合うのは当たり前だ。取りあえずその様子なら無事なようだな。」と小人は豪快に笑い、「それでお前さん達は旅の者かい?」と訊いてきた。状況をどこまで説明しようか逡巡していると「いや、ヘイジと王女様はグラディア国の王都が炎上して森に逃げ込んできて、俺は森で仲間と逸れたから、一緒に行動している感じかな。」とプレタはあっさり事情を話す。いくら何でも初対面の人にそこまで明かすなよと僕はプレタを睨むがプレタはケロッとしていた。小人は「王都が炎上しただと…?本当か」と驚いた様子だった。「ええ、その通りです。魔王軍に襲撃され、陥落しました。」いつの間にか後ろにいたノアが答える。そして「お久しぶりです。ソノットさん。」とノアは感慨深そうに言った。「これはこれはノア王女殿下。ご立派になられましたな…。」とソノットと呼ばれた小人も感慨深そうに言い「折角再会できたのだ、この近くの私の家でゆっくり話さないか」と提案された。その提案に乗り、僕らはソノットの家に向かうことになった。
ソノットの家は小人用の小さな家…ではなく若干天井が低いものの普通の人が暮らす家とそう変わらないものであった。僕らはリビングに通され、温かな山菜のスープと先ほど倒した獣―ティラン、と異世界では呼ぶらしい―の肉を焼いたステーキを頂いた。森の中を一日中歩いた後の食事は格別だった。
その後魔王のことについてソノットから聞いた。ソノットは元々グラディア王国直属の狩人で、野生の獣を狩り、その肉を王宮に献上していた。その弓の腕や魔法など様々な分野の知識に精通していたこともあり、5年前に勇者と先代の王女・ノイと共に魔王討伐に向かった。だが、魔王は強力な魔法障壁を持っており、魔法攻撃は効かないどころか吸収され、自らの魔力として利用される有様で、おまけに勇者は魔力が大量に込められた勇者の剣しか武器を装備していなかったため、勇者が攻撃すれば魔王の魔力が回復していくという地獄絵図に陥って勇者・王女共に討たれ、勇者の剣も壊され、ソノットだけが命辛々生き延びて帰還して、今に至るとのこと。ちなみにノアとはノアの幼少期に王宮に獣肉を献上した後でよく遊んであげていたりしたため親交が深いらしい。
また魔王は世界樹の力を用い、世界の理を書き換えることによりその強さを増しており、魔力障壁も本来は魔法攻撃の威力を半減する程度の代物で、世界の理を変えその能力を強化した可能性があるらしい。それらの話を基に議論し、僕らは当面世界樹の奪還・浄化を目標に動くこととなった。方針が決まったのち、ノアは「ソノットさん、今の私たちは人手不足です。どうか私たちの魔王討伐に力を貸してくれませんか」とソノットに頭を下げた。ソノットは笑いながら「王女殿下に頭を下げられては引き受けぬ訳にはいきませんな。」と快諾した。プレタは軽くムッとしながら「俺は?」と訊く。ノアはしまったという顔を一瞬した後、真剣な顔に戻り、「プレタさんも、魔王討伐を手伝ってもらえませんか。」とプレタにも頭を下げた。プレタは「冗談だよ。いいに決まってんじゃん」と笑って返した。
プレタとソノットが仲間になった。
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