第3話 竜人族の冒険者

 僕は仁科平次。目覚めたら自分の部屋の自分のベッドに居た。まあ昨日ベッドで寝たから当然か。それにしてもひどい夢を見た。いきなり女神に遭遇し異世界に飛ばされ、異世界の都に来たらいきなり魔王軍が襲来して逃亡したと思ったらドラゴンに襲われて王女様を庇い火球に被弾し気絶して…。あれ、なんでこんなに鮮明に覚えているんだろ。夢って大抵目が覚めるとほとんど忘れてしまうのに…。それに、夢なのに痛覚とかもあったような…。そんなことを考えながら、体を起こし時計を見ると時計の針は午前8時を指し…午前8時?しまった、寝坊した!僕は急いで制服に着替え、家を飛び出した。


 …朝のホームルーム5分前、僕は教室に駆け込んだ。「おはよう平次」後ろからそう声をかけられる。声の主は中畑拓斗。俺と幼馴染で、小学校の時から同じ学校で、今年はたまたま同じクラスだった。「おはよう拓斗」と僕も返し、他愛ない話をする。そのついでに今朝の夢のことも話すと「随分とゲームみたいな夢だな。お前ゲームのし過ぎなんじゃねーの」とからかわれた。凄まじく図星だ。「ホームルーム始めるぞー」と言いながら先生が教室に入ってきて、拓斗は他の立っていた生徒と共に各自の席に戻っていった。



 そして今日も何事もなく学校が終わり、いつも通り帰宅し、ゲームし、ご飯を食べ、またゲームをして、眠った。



 目覚めると昨日夢で見た少女―ノア王女がこちらをのぞき込んでいた。「…無事でよかった…。」ノア王女はそういいながら、僕に抱き着いてきた。「貧弱な癖に無茶して…心配したのよ…。」そういいながら強く抱きしめるノア王女の目には心なしか涙を浮かべでいた。柔らかい感触とどこか優しい香りに包まれる。「あの…王女様、すみません、すごく、苦しいです…」と必死に訴えるとノア王女は我に返って、僕を離した。


 しばらく気まずい空気が流れる。やがてその思い空気を破るように、ノア王女は口を開く。「あなた、名前は?」…すごく今更な気がしたが、よくよく考えたら、ジーク国王には勇者様としか呼ばれてなかったしバタバタしていたから名乗る機会もなかったか。「ヘイジと申します。」多分こういう世界では位の高い人しか名字を名乗らないと思い名前だけを名乗った。「ヘイジ君ね。これからいろいろ大変だと思うけど、よろしく。」ノア王女は微笑みながら僕に手を伸ばす。その笑顔に惹かれて思わず、「この命に代えても、王女様をお守りします。」そう言ってその手を取り跪く。「そんなに畏まらなくていいから。私のことはノアでいい。」とどこか照れ臭そうに言った。クサい台詞にクサい行動を取っていることに羞恥心を抱きながら、僕は立ち上がって再び手を取り、「分かった。よろしく、ノアさん。」と言い笑顔を作った。「それと、さっきの言葉は嬉しいけど、余り無茶しないでね。これ以上、私の為に人が死んでしまうのは辛いから…」とノアは口籠る。昨日の王都襲撃で父や多くの家臣を失った彼女の悲しみは想像に難くない。「安心して。僕はノアさんの傍にいる。絶対に一人にはしないから。」気休めにも聞こえる、そんな言葉をかけると、「ヘイジ君…」とノアは呟き、僕を見つめる。そして…


「おーい!魚とってきたぞー!朝飯だー!」


 無邪気な声により我に返った僕らは赤面した。


「旨ーーーい!!」

 無邪気な声の主―プレタは焼いた魚にかぶりついていた。僕も一緒にかぶりつきながらプレタの話を聞いた。プレタは竜人族の男の子で、そのせいか背中に翼、尻に尻尾が生えている。職業は冒険者で他の竜人などとパーティを組んでいたが、パーティが巨大な魔物に襲撃され壊滅、森を彷徨っていたところ竜の火球に被弾した僕を二人三脚の要領で運んでいたノアと遭遇し、共に逃げて今に至ったとのこと。

「それでこっからどうする?」プレタは魚を食べ終えそういった。「と言われても…命辛々王都から逃げたはいいが剣の使い方も分からないしどうすればいいのか」僕は困りながら現状を説明した。「じゃあ俺と暫く行動を共にしないか?俺も一時期剣を使ってはいたから基本は教えられるし!」プレタは屈託なく笑う。確かに仲間がいるのは有難い。僕らはその申し出を快諾した。

 そして僕らは森を進み、川の方へ向かっていった。と言うのもプレタ曰く今朝、川で釣りをするとき人影を見かけたらしい。その人に接触できれば森のどのあたりにいるか把握できるかもしれないと考え、僕らはその人影を捜索することにした。

 人影の捜索中、飛び出してきた鹿のような獣を相手に、僕は剣での戦いの練習をした。初めは慣れなかったものの、夕方になる頃にはプレタも驚くほど上達していた。

 日も落ちてきて、森の開けたところに出た僕らは野営の準備を始めた。が、その準備は乱入者により阻まれる。現れたのは巨大な熊のような獣。ノアを後ろに下がらせて攻撃が上がる魔法をかけてもらい、プレタが槍と盾で獣の気を引き、僕が突撃。だが獣にひらりと躱され、獣は大きく腕を振り上げた。回避不可、剣では防げない。僕は死を覚悟した。

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