第2話 王都炎上

 僕は仁科平次。夢の中で勇者召喚されている。そして召喚された遺跡から移動し、王宮の玉座の間…ではなく応接室のような場所で、国王から魔王を倒してほしいとお願いされた。

「それで、魔王を倒してほしいと言われましても一体どこに向かえばよいのですか」

 魔王討伐といきなり言われて漠然とイメージは浮かぶが、当然ながら異世界イマジニアの地理も魔王のことも僕は何も知らない。ならば訊くほかない。

「ああ、そうじゃった…勇者様はこの世界の地理も事情も知らないのじゃな。」ジーク国王は衛兵の一人を呼びつけ何かを指示した。衛兵は応接間を出ていき、しばらくして巻かれた紙を手にして戻ってきた。そして応接間の机に巻かれた紙を広げた。そこにはこの世界の地図が描かれていた。大陸の形は、オーストラリアから上部の出っ張りを無くしたような感じだろうか。その右上…北東方向に小さな島が描かれていた。ジーク国王はその地図の上に駒を並べ、説明を始めた。

 どうやら今いるグラディア王国は大陸の南の方に位置しており、魔王は北東にある小島を拠点としているらしい。そして魔王の名はファントム。5年前に勇者がその従者と共に討伐に向かうもその勇者を返り討ちして以来、凄まじい速度で大陸を侵略している。魔王を倒せなかった原因は「魔法攻撃が効かなかったから」らしいが詳しい部分はジーク国王も分からないらしい。

「これが我がグラディア王国の現状じゃ。それで勇者様には…」とジーク国王が魔王討伐の具体的な計画について話そうとしたときに、一人の衛兵が「国王様―!!」と叫びながら応接間に駆け込んできた。その体は血まみれで、鬼気迫る形相をしていた。ただならぬ様相を感じ取ったように国王が「…何事じゃ」と静かに訊くと、衛兵は息を整えて告げた。

「…ご報告致します。北東方向から魔王軍が攻めてきました。その軍勢はおよそ10万。防衛線を突破し、王都へ攻めてきます!!」




 魔王軍の王都襲撃により王都は混乱。王都の衛兵達は魔王軍を退けようと奮戦するも、圧倒的な兵力の差は埋められず、城下町は火の海に包まれていた。そして僕とノア王女は「勇者と王女を死なせるわけにはいかない」とのジーク国王の判断の下、王城に魔王軍が到達する前に王城の裏口から脱出し、周囲のゴバイの森に逃げることになった。

「召喚されて早々こんなことになってしまって申し訳ない。お詫びと言っては難じゃが、この剣をそなたに授けよう。」ジーク国王はそういっていかにもRPGでよく見る宝剣…ではなく質素な剣を渡した。「本来勇者にはこの国の最高の宝剣、「勇者の剣」を渡すのが通例じゃが、先の魔王討伐で失われてしまい渡すことも叶わぬ。じゃがその剣は現状我が国にある最高の素材を用いた剣。そなたの身を守ってくれるはずじゃ。」先代勇者が敗れたという話を聞いたあたりでなんとなく察していたがやはり勇者の装備は失われているらしい。夢の割に随分と現実的だ…。

 そして僕とノアは剣のほかに当面の食料と冒険者用の服、野営用のテント、RPGでよく初期に受け取る金貨…の代わりにジーク国王直々の書状をもらった。そもそも行く先に店の類があるかは分からないが、必要物資の調達は金貨の代わりにこの書状を見せればグラディア王国がその費用を負担するらしい。そして僕らは護衛の衛兵2人と共に王城を脱出。ゴバイの森を進んだ。ジーク王は別れ際、皆の前で「ここで2人が逃げる時間を稼ぎ、後を追う。どうかそれまで生き延びるのじゃ。」と言っていたが、その後僕にだけ「我が娘を頼みますぞ」と言い残した辺り、王城と命を共にするつもりなのだろう。そのことはノア王女も感じ取っているのか、平静を装いながらもどこか悲しげな様子だった。

 鬱蒼と茂る森を進み、森の中の開けた場所に出た。気づけば夕方になり、グラディア王国の方角からは煙が立ち昇る様子が遠くに見えた。「これ以上暗くなってから森を進むのは危険です。今日はここで野営しましょう。」衛兵はそういい、野営の準備を始めた。僕もそれを手伝おうとしたその時、突如地を揺るがすような咆哮が聞こえ、直後火球が飛んできた。

 火球を咄嗟に避け、飛んできた方向を見ると、紅い体の竜がこちらを睨んでいた。その高さは周囲の木並みに大きく見える。衛兵達は「ここは私達が時間を稼ぎます。王女様と勇者様は今のうちにお逃げください!私達は後から追いつきます!」と言い、剣を抜いて竜と向き合う。よく聞く死亡フラグであるがついさっき異世界に来たので、戦う術がある訳もなく、ノア王女と共に走る。しかし竜は再び火球を何発も吐いた。衛兵たちが盾で防ぐも、その流れ弾が飛んできた。不運は重なり、ノア王女が木の根で躓き転倒、火球が迫る。僕は咄嗟に火球とノア王女の間に立ちはだかり、被弾。凄まじい熱と痛みを感じ、体が宙を舞う感覚がした。

 ノア王女の叫び声を遠くに聞きながら、僕の意識は遠のいていった。

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