夢幻の勇者

あおろま

第1話 はじまりの夢

 僕は仁科平次。一応高校2年生だ。地元のそこそこの高校に通い、成績も中の下。帰宅部で友人も少ない。授業も適当に聞き、学校が終われば家に帰ってひたすら部屋にこもってPCゲームをやり続けるだけという引きこもり一歩手前くらいの青春のせの字もない生活をしている。親は食事の時に一緒に食べるくらいで顔を合わせれば口うるさく勉強しなさいだのなんだの言ってくるだけ。まあ、来年は高校3年で受験だから仕方ないけど、正直やりたいことだの大学だの言われても、調べても興味わかないから困るんだけどな…。

 そんなこんなで僕は平凡にして退屈な日々を過ごしていた。そんなある日、僕は奇妙な夢を見た。


 目覚めた僕は不思議な場所にいた。空は淡い茜色に染まり、地面は白くふわふわとしている。まるで雲の上に立っているような、不思議な感覚がする。

 「ここ、どこだろう。」

 そう呟くと、「お目覚めになったのですね」とどこからか声が聞こえた。声がした方向を思わず振り向くと、一人の女性がそこに立っていた。その人はどこかやさしそうでありながら、ただならぬ雰囲気を纏っていた。少なくともただの人ではなさそうだ。

 「私はクロノ。イマジニアという異世界の女神です。」女神はそういった。どうやらただの人ではないという予想は的中していた。合点がいったような反応に女神は首を傾げながら「あまり驚かないのですね」と言った。「いや、なんとなくそんな気がしたので」事も無げにそういうと、女神はほほ笑んだ。

 「さて、本題に入りましょう。仁科平次様、あなたに私の世界、イマジニアを救っていただきたいのです。」

 「どういうこと?」と思わず訊き返す。「私の世界は元々平和な世界でした。しかしあるとき、魔王が降臨し、私の世界の理を超える力で世界を恐怖に陥れたのです。今はグラディア王国のみが抵抗を続けていますが、それも王国側が劣勢。いつまでもつかはわかりません。そこであなたに、魔王を倒していただきたいのです。」そう女神は説明した。「いやあのちょっと、僕学校とか行かないといけないんだけど…」と言いかけるとその言葉を遮るように「安心してください。あなたの生活に支障は出しません。例え勇者となってもあなたの世界でのあなたの生活は変わりません。あなたの世界の時間の流れと私の世界の時間の流れは異なり、あなたの世界の昼は私の世界の夜に当たり、あなたの世界の夜は私の世界の昼に当たります。そこで、私の世界にあなたの写しである人形を置き、あなたの世界であなたが眠った時に魂のみ私の世界に移動、魂を人形に入れて活動していただき、私の世界であなたが眠った時にあなたの世界に魂を戻します。そうすればあなたはこれまで通り日常を送れます。」

 「ちょっと待って。僕寝る時間はいつもバラバラなんだけど。早寝するときもあれば夜更かしすることだってある。でも眠っているときに異世界に行くなら同じ時間に眠らなきゃいけないんじゃないの?」そう疑問を口にすると「そちらもご心配なく。夜更かしした時も私の世界の時間を調整し丁度いい時間に合わせられます。何せ私は時を司る女神ですから。」と得意げに言う。いや、時を司る女神なんて初めて聞いたんだけど、と心の中で突っ込みを入れながら、「そういうことなら…」と返事をした。

 「ありがとうございます。では早速あなたをイマジニアに転送します。以降の世界間移動はここを経由せずあなたの世界とイマジニアを直接移動します。どうかご武運を!」と女神は告げると僕の足元は光り出した。異世界について訊こうとする前に僕は光に包まれた。




 気づけば遺跡のような部屋の中にいた。足元には魔法陣らしき図形が描かれ、その円の外側には風格あるいかにも王様のような壮年の男と、僕と年の変わらなそうな、魔導士らしき少女がいた。

 「おお!ついに勇者召喚に成功したぞ!よくやった、我が娘よ…」王様らしき人は破顔しながら隣の少女の頭を撫でるが、少女はどこか鬱陶しそうだ。その後こちらを向いて歩み寄って来た。

 「そなたが勇者じゃな。儂はジーク・フリート、このグラディア王国の国王じゃ。そしてそこにいるのはノア。儂の娘じゃ。」

 なるほど、王女様ということか。でも黒いローブを羽織っているためかどうもそう思えない。そう考えているとノアは怪訝そうにこちらを見つめ、落胆混じりでこう言い放った。

 「お父様。この勇者召喚は失敗だわ。」

 「何を言うのじゃ。現に勇者はここにいるではないか。」とジーク国王は擁護するが、僕はなんとなくその理由を察していた。

 「だってお父様…








 その人どう見ても貧弱そうじゃない!!」

 …まあそうなるよね。

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