第4話

 咄嗟に家に上げてしまった。親以外誰も上げたことがないのに。昨日のうちに掃除をしておいてほんとうによかったと思う。


 私はマスターにバスタオルとタオルケットを渡すと近くのコンビニで紳士肌着のLサイズを手早く買ってきて遠慮がちなマスターに押し付けた。自分でも驚きの行動力だった。


 コンビニから帰ってきてもまだ雨は降り続いていて、そのことに感謝したいと不埒な私は思っていた。


 ポットから二つのカップにお湯を注ぎ、テーブルに持って行った。


「マスター……?」


 マスターはいつの間にかウトウトと眠ってしまっていた。


 私はこっそりとマスターの寝顔を覗き込みながら所在を無くしたコーヒーカップをテーブルに二つ置くと、座椅子を引き寄せてマスターと小さいテーブル越しに向かい合わせで座った。


 貴重なマスターの寝顔をこんなに近くで見られるのは何だか得した気分だった。


 マジマジと近くで見ていると、腕の血管や大きな手指。普段では見られない寝顔。


 そうしてどのくらいの時間が経っただろう。私が冷めたカップのコーヒーを飲み干したところでマスターは突然ガバっと起き上がり老眼鏡を付けた。


「…これはすみません…寝てしまいました…」


「あ、いや、あの、全然大丈夫です……」


 私は少しの後ろめたさと共にもう一度コーヒー淹れ直しましょうか?と聞こうとしたらマスターは突然はっと時計を見ると慌ただしく支度を始めた。


「いけない…早く帰らなければ…」


「ま、マスター?」


 ここまで慌てるマスターはなんだか珍しかった。


 玄関まで見送る。見るとさっきまでの秋雨は丁度止んでいた。


「千春さん、雨宿りさせて頂いてありがとうございます。肌着まで頂いてしまって…この恩は必ず返しますので」


 マスターがいなくなった部屋は体温が一つ減ったこともあり、急に肌寒くなったように感じた。


 私はつい今までマスターの居た空間の痕跡を探すみたいに部屋の中を見渡すと、テーブルの下に取り残されていたお財布を見つけた。


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