第七十四話 ②パフェットの記憶が戻るとき!
パフェットの体を風が撫でて行く。パフェットは、森のざわめきを聞いて、目を覚ました。
目の前には、アスタリスクが落ちている。パフェットはアスタリスクに手を伸ばそうとした。しかし、アスタリスクに対する恐怖を思い出して、差し伸ばした手を止めた。その向こうで、誰かが横たわっていることに気付いた。パフェットの良く知った顔だ。
「えっ? ガーリックさんっ?」
しかし、ガーリックはどこか変だ。ガーリックが変なのは今に始まったことではないが、横たわっている様子が変なのだ。
「ガーリックさんっ! ガーリックさんっ!」
パフェットは、ガーリックに呼び掛けた。
「ガーリックさんっ!! ガーリックさんっ!! あれっ? 変デスよっ? なんで、ガーリックさんは目覚めないですかっ?」
何度呼び掛けても返答がない。
「頭をぶつけているかもしれないですっ! 脳が損傷しているかもしれないですよねっ! こういう時に、揺すったり動かしてはだめですよねっ!」
こういうことを、誰かから教わった。しかし、ガーリックの返答はない。パフェットはガーリックの手を口元に翳す。
「えっ!? ガーリックさんの息がっ……!?」
口元に翳した手が震える。震えているのは、恐怖からか。
「あの時と同じですっ!」
パフェットは震える片手を自分の片手で握りしめた。いきなり、既視感に襲われる。恐怖で、身動きが取れなくなる。しかし、あの時がいつなのかはっきりしない。
「あの時っ……あの時って……」
あの時の景色と今の現状がリンクする。
辺りを見回すと大きな石板が立っていた。ここは、暗号の森の第四エリアだ。
「あの石板ですっ……! あの時もこの石板の前でガーリックさんがっ……!」
パフェットは、頭を抱える。ショックで急激に自分の頭の中に記憶が戻って来る。
「あの時っ! 確か、ガーリックさんが三ノ選まで進んだんですっ。クエッションとの一騎打ちだったですっ。力の差は歴然でこのままだとガーリックさんの圧勝だと思っていたですっ。でも、私はクエッションにお菓子を景色の良いところで食べないかと言われたんですよっ。だから、ガーリックさんをこの暗号の森の第四エリアに誘って――っ……!」
パフェットは、頭を抱える手の指に力を籠める。
「そのまま、ガーリックはクエッションに捕まってからこうなって、あの石板の中に消えて行ったんですっ! わ……私のせいでっ!」
パフェットの脳裏に、クエッションの笑い声がよみがえってくる。
『ご苦労だったな、パフェットよ。ガーリックを連れてきてくれてありがとう』
パフェットは、頭を抱えたまま涙を流した。
「あの時と同じですっ! 私のせいで、今回もガーリックさんがっ……!」
「そうだな! ガーリックは、パフェットの言うことなら信用するからな!」
その時、誰かの声がした。靴音がパフェットの後ろで止まる。良く知った声と口調だ。けれども、どこかが違う。パフェットは、震えながら振り返った。
「パフェットは、あの時のことも忘れているなァ。あの時、私の傍にアヒージョが居た事も」
そこに居たのは、クエッションだった。
「……!」
脳裏に記憶が返ってくる。
記憶の中では、クエッションの横に、確かにアヒージョが居た。
パフェットは涙を流し続けていた。
『でも、私がしたことは許されることではありませんわ』
アヒージョは、そんなことを呟いていた。もしかして、このことを言っていたのか。
パフェットが呆然としていると、後ろで声がした。
「パフェットさん、大丈夫ですの!」
「……!」
パフェットの後ろで、誰かが立っていた。アヒージョだ。
「アヒージョさん、どうしてっ……」
「悲鳴が聞こえて、誰かに連れ去られていくのを目撃して、ここまで後を付けてきたのですわ!」
「……」
「大丈夫そうで良かったですわ! パフェットさん……?」
アヒージョは、動揺しながらこちらを眺めている。しかし、アヒージョはパフェットの涙に気づいたようで、目を見開いた。
パフェットは、震えていた。
この震えは、アヒージョに対する恐怖心からではない。アヒージョに裏切られたという傷心からだ。パフェットは、涙ながらに叫んだ。
「アヒージョさんは、ずっと私とガーリックさんの敵だったんですねっ!? あの優しい笑顔は全部嘘だったんですねっ!?」
アヒージョは、素直に頷いた。
「そうですわ。敵ですわ。最初はそうでしたわ」
アヒージョは、真剣にハッキリと断言した。思ってもみない返答だったらしく、パフェットの涙が止まった。
「……えっ? 最初はですかっ?」
「でも、ずっとクエッションを裏切って、パフェットさんとガーリック様の方に回ってましたの。だって、二人と居るといつも楽しかったから!」
「アヒージョさんっ……!」
「それが、本音かもしれませんわ!」
パフェットは、アヒージョと微笑み合っていた。最初は敵だったアヒージョは、いつの間にか友達になっていた。それは見えない形だったが、確かにパフェットはそれを感じ取っていた。
しかし、クエッションはそれを笑い捨てた。
「美しい友情だなァ? でも、もう終わりだ」
暗号たちが、クエッションの方に寄ってくる。
クエッションは、サッと手を振って暗号たちに指示を出した。
「……やれ!」
「「……!?」」
暗号たちがパフェットとアヒージョに迫る。
「「きゃああああああああああああああ!」」
パフェットとアヒージョは暗号たちのせいで、その場にバッタリと倒れこんだのだった。
クエッションは勝利の雄叫びを上げた。
「私が最強の合印だ! 嫌いなものは全て消化したァ!」
クエッションは、パフェットとアヒージョの息を確かめると、大笑いし始めた。
「そういえば、三ノ選に残っていた奴は、他にフォイユっていう女がいたな? フォイユも、こいつらの二の舞にしなければならないなァ!」
クエッションの足元では、風が吹いてガーリックたちに砂埃を巻き上げている。
そんな殺伐とした光景の中で、足音が近づいてきて、クエッションの前で止まった。
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