第七十一話 ②いきなり現れた人物!

 俺は、前方から歩いてくる人物に目を凝らした。耳には大切な、最近戻ってきたイヤリングが二つ両耳に揃って、鈍い光を輝かせている。この人物はどう見ても――。


「パフェット……?」


 俺は、その名を呟いていた。


「パフェットじゃないか。どうして、パフェットがここに居るんだ?」


 朦朧としていた頭がはっきりしてくる。


「パフェットは、アヒージョと一緒に第三区域の合印邸にいたはずだろ?」

「そういうことだな! お前にアスタリスクを手渡そうとしていたから、俺が連れて来たんだ?」

「は? アスタリスクを? クエッションが?」


 クエッションがこんなに親切にふるまうだろうか。しかも、敵対している俺に対して。どう考えても変だ。


「ガーリックがルーウェル様と知り合いらしいので、アヒージョが頼んだそうだ」

「アヒージョが?」


 蜃気楼の中をパフェットが規則的な足音を立てて、歩いてくる。


「えっ……?」


 俺は、パフェットの異変に気付いた。パフェットの表情は俯いていて良く見えない。しかし、こちらにパフェットが近づいてくるたびに、足取りが重くなっているのは気のせいか? 足を引きずっているように見えるのは目の錯覚か?


「なんか、パフェットはしんどそうだな。どういうことだ?」


 俺とパフェットの間隔が三メートル近くになると、彼女の呼吸音が聞こえてきた。パフェットは明らかに無理をしている。しかし、原因が分からない。


「なんで、パフェットはこんなにつらそうなんだ? まさか、歩かせたのか?」

「まさか? 馬車で来たはずだ。俺とは別の馬車で来たが、馬車に確かに乗せたからな」


 クエッションは、俺の問いが面白かったのかクククと笑っている。

 どういうことだ。謎かけのようで、良く分からない。


「でも、馬車がなかったらここまで来れないよなァ?」

「そうだよな? 乗り物酔いか?」


 俺の思考が、明瞭になってくる。どういうことだ? 


……って、あっ!」


 やっと俺は、そのセリフの違和感に気づいた。


「ちょっと待て! パフェットは乗り物酔いなんてしたことがないぞ!」

「ハハハ、そうなのか?」


 俺は、考えあぐねてため息を吐き出した。


「謎かけみたいだな……! 全く分からないんだが……!」


 謎かけのような答えが、問答のようで理解できない。

 舐め切ったクエッションに訊いても、全くの無意味だ。パフェットに尋ねるのが手っ取り早い。俺は、パフェットに駆け寄ろうとした。


「パフェット、大丈夫か……って、うおっ!?」


 駆け寄ろうとした俺をクエッションが遮る。


「そんなズルをしてはいけないなァ。俺の問いに答えてもらおうか」

「クッ! 教えろよ! 教えてください、クエッション野郎様!」

「ハハハ、まあ、良いだろう。私が死んだと見せかけたのも、油断させていたのだよ! 誰が第三区域の合印になるのかを見極めるためにな!」

「えっ? どういうことだ?」

「それが、たまたま三ノ選に残ったパフェットだったわけだ!」

「えっ!? まさか、パフェットに何かしたのか!?」


 俺の問いに、クエッションは大笑いした。


「アスタリスクをパフェットにやった、それだけだ!」


 俺は目を瞬いた。


「アスタリスクを?」

「ああそうだ! アスタリスクは、合印になることを認められた者だけが手にできる、自分が合印である証明だ。ガーリック、お前も良く知っているだろう!」


 一拍遅れで、クエッションの不意を突いたようなセリフが頭に届いた。


「クエッションが、アスタリスクをパフェットにあげた……? 変だろ。合印の証明のアスタリスクを、みすみす人にあげるなんて!」


 いぶかしむ俺に、クエッションはまた大笑いした。


「その通りだ! パフェットとアスタリスクは一体となっているはずだ!」


 アスタリスクがパフェットと一体となった?


「ちょっと待ってくれ? そうすると、パフェットが合印に認められるんじゃないのか? どうして、パフェットにアスタリスクをみすみす手渡すんだ? 合印の座をあっさりと受け渡してしまうんじゃないのか?」

「ははは、違うなァ?」

「まさか!」


 俺はとんでもないことに気づいてしまった。


「そういえば、アヒージョはアスタリスクのせいで倒れていたな。ということは、このままだとパフェットが危ないんじゃないのか!?」

「ハハハ、そういうことだ! パフェットもお前らも、私が消化させるのにふさわしいかを見極めているのだよ!」

「なんだって!?」


「ガーリックさん……」


 足音が、俺の三メートルほど先で止まる。

 俺は、ハッとしてパフェットの方を向いた。

 パフェットが、虚ろな目で俺を見て笑っていた。


「ガーリックさん……会えてよかったですっ……」

「パフェット……?」


 パフェットは、力尽きたのか、地面に崩れ落ちてしまった。

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