第六十九話 ②アヒージョとガーリック! 第四エリアの怪!
俺は、タクシー代わりの普通の馬車に乗って暗号の森を進んで行く。普通の馬車なので酷い乗り心地だったが、第四エリアに到着する頃には、すっかり乗り物酔いも治って、ハイキングに来た時のような気楽な気分になっていた。すっかり雨も上がって、天気も良くなっている。
「嗚呼、良い天気だ。散歩日和だ。空気が美味しい。スーハースー……ゲッホゲホ!」
俺は、空を見上げて深呼吸した。
「強かに咽たぜ……はぁ……」
俺は、アヒージョから手渡された薬草が描かれているメモを取り出した。
「ええと……。この薬草か……」
薬草の絵が、アヒージョから貰ったメモに描かれてある。アヒージョの絵は、薬草の特徴を上手くとらえている。
「この薬草は……」
これだけ特徴のある絵なら探しやすい。注意深く探してみる。茂みを分けるようにして、薬草が自生してないか探してみる。しかし、姿も形もない。
「どこにもないぞ。アヒージョに指定された第四エリアなのに薬草なんてないけどな?」
しばらく歩くと、あの石板が見えてきた。
森の開けたところに、朽ちた石板が広がっている。
「あっ! あの木の脇に自生している!」
お宝を見つけた気分で、俺は薬草らしい草に駆け寄った。茂みの脇に木があり、その横に薬草が生えている。鼻を近づけてみると爽やかな匂いがする。
その時、茂みがガサガサと鳴ったので、俺はギョッとした。茂みから暗号が出てきた。あっという間に俺を取り囲む。
「なっ!? 暗号!?」
俺の思考が遮られた。
いきなり現れた暗号に不意打ちを食らったからだ。
暗号がふわふわと俺を取り巻いている。俺の存在に気づいているのか、気付いていないのか。何故か、暗号はすぐに攻撃を仕掛けてこない。
逃げようと思った俺は、透明な何かに全身を打ち付けてしまった。
「ッ……!? なんだ? これは透明な壁か?」
暗号が来ているのに、俺は全く逃げることができないでいる。パントマイムのような仕草で、辺り一面を確かめる。右に行けば、右も行き止まり。左に行けば、左も行き止まりだ。
「ダメだ! 後ろも前も透明な壁がある!」
俺は、ため息を吐いた。
「二メートルぐらいの透明な立方体の中に、俺は完全に閉じ込められているみたいだ!」
その中に暗号が次々と入ってくる。
「どこから暗号が入ってくるんだ?」
よく見ると、空には暗号が浮遊しているが、落ちものパズルゲームのように次々と暗号が積もってくる。
「上から暗号が入ってきているのか!? とにかく解読だ!」
俺は、心を落ち着けて手を叩き合わせた。そして、勢い良く開く。
「解読!」
しかし、解読される気配はない。
「やべぇ! なんで、こんなに強力な暗号なんだ! 解読ッ! 解読ッッ!」
何度解読しても解読される気配がない。
「解読ッッッ! 駄目だ、効き目がない……!」
俺は、息を切らして虚空を睨み付けた。
四方がダメなら、上から逃げれば良いはずだ。
上方は暗号が次々と入ってくる。明らかに上空は出入り自由だ。
「まだ、暗号は何もしてこないし、上から逃げれば……!」
俺は、透明な壁に足をかけて、手で壁を掴もうとした。
「あ、あれ? アレ? 透明な壁がつるつるして登れないぞ!」
しかし、透明な壁は滑って掴みようがない。手に吸盤でも付いていなければ、上るのは到底無理だ。何度上ろうとしても、ずり落ちてしまう。これでは、ただの独り相撲だ。
「ああ、クソ! どうやって、上から逃げれば良いんだ!」
万策尽きた俺は、煮詰まった頭を掻きむしった。
その時、どこかで聞いた声が聞こえた。
「暗号よ、やれ!」
その合図を皮切りに、暗号たちが俺に襲い掛かってきた。
「うああああああああああああああ!」
俺は透明な壁からずり落ちる。
誰かの足音が聞こえてきて、俺の目の前で止まる音がした。
俺は、目を無理やり開ける。ピントがずれているのが次第に一つになる。
「ハハハ、ガーリックよ、久しぶりだな!」
誰かが目の前に突っ立っている。
俺は、目に映ったその人物に瞠目した。
「えっ? なんでこの男が生きているんだ……?」
その人物は、のけぞるように大笑いしていた。
「ガーリックよ、薬草なんて必要ない! 何故なら、お前はここで死ぬんだからな!」
そこに居たのは、確かに亡くなった人物だった。新聞にもその記事が載っていた。俺は困惑の限りを尽くした。
「クエッション……!」
俺の額から汗が流れ落ちた。
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