第七十六話 いつもの日常に戻るとき!

「んあ……?」


 俺は、揺れを感じて目を覚ました。俺が体を起こすと、俺の両脇から凭れていたパフェットとアヒージョが、俺の膝の上に落ちてきた。


「パフェット……? アヒージョ……?」

「ふああっ……。ガーリックさん、ここどこですかっ……?」

「やけに、スッキリとした目覚めですわ……?」


 パフェットとアヒージョが体を起こす。俺は辺りを見回した。ここは、馬車の中だ。目の前に知った顔がある。


「目覚めたようですね。ガーリック、パフェット、アヒージョ」

「ルーウェル様?」

「ルーウェル様ですっ?」

「ルーウェル様ですわ?」


 ルーウェル様は、俺とパフェットの向かい合わせの席に座って微笑んでいる。しかし、どうして、ルーウェル様がここに居るのかが分からない。そういえば、記憶があやふやではっきりしない。


「俺、何していたんだっけ?」

「私も、何でここに居るのか分からないですっ。合印決定選の前までははっきりしているんですがっ」

「私もですわ。最近の記憶があやふやで、良く分かりませんわ。でも、気分は今までになく良いのですわ」


 ルーウェル様は、にっこりと微笑んだ。


「あなたたちは、暗号の森で昼寝をしていたのです。第三区域の合印はトリオンに決まりましたよ」

「えっ? トリオン様がですかっ?」

「そうなのか?」

「そうでしたの? 私たちは……ええと?」

「合印決定選には出ていませんでしたよ。いつも通り暗号文を解く依頼のついでに、あの場所に居ただけですよ」

「なーんだ!」


 俺たちは、朗らかに笑っていた。


「じゃあさ、皆で今度の休みにまた第五区域外に遊びに行こうぜ!」

「それ、良いですわね!」

「ガーリックさんが、お弁当作るですっ!」

「えっ、俺が?」

「私の胃袋はすでにガーリックさんが握っているですっ!」

「私も、ガーリック様のお弁当を食べてみたいですわ!」

「お、おお。そこまで言うなら仕方ないな、作ってやるよ!」


 何故か分からないが、ますます俺たちの仲は深まったような気がする。

 ルーウェル様もにっこりとしている。


「でも、この馬車。普通の馬車なのに全然揺れないな!」

「本当ですねっ! 全く揺れないですっ!」

「もしかしたら、良い馬車なのかもしれませんわ?」

「えっ? そうか? いつものガタガタ馬車とあんまり見た目は変わらないけどな?」


 不思議そうにしている俺たちを見守るように、ルーウェル様は微笑んでいる。


 ルーウェル様の乗った馬車は、普通の馬車なのに揺れることもなく、乗り心地良く暗号の森を通過した。そうして、何事もなかったかのように――また、俺とパフェットとアヒージョの日常が始まったのだった。


《完》

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