第十六話 謎の男、ルーウェル様!

 その頃、第五区域の合印邸の庭の前に、一台の馬車が停まろうとしていた。

 その馬車は着飾ったように装飾された馬車だった。御者は、乗り心地が良さそうにその馬車を走らせている。


「そろそろ着きますね……」


 その男の声は、その馬車の中から聞こえてきた。馬車の中は薄暗くて、良く分からない。しかし、返答がない。乗っているのは一人だけだ。


 薄暗い馬車の中に青空の明るい窓の外の景色が別世界のように映っている。蹄の音の他に、喧騒がここまで大きく届いている。


 その時、小さな光が馬車の中で生まれた。どうやら、手荷物の中から光が漏れているようだ。それに気づいたそれは、手荷物を開ける。すると、強い光が馬車の中を照らし出した。一瞬で外よりも明るくなった馬車の内装も豪華な造りだった。


「これは……! 私のアスタリスクが光っています……!」


 手荷物から出てきたのはビンだった。その中でアスタリスクと呼ばれた物体が、浮いて強い光を放っている。スキュエア様のアスタリスクより、大きな物体だ。それが、ビンの中でくるくると回りながら強い光を放っている。

 その目が思案するように横に動いた。


「どういうことですか? 何故、私のアスタリスクが? 私が目覚めた時と同じです! でも、私を目覚めさせたガーリックはここにはいないはずなのに……」


 ハッとして顔を上げる。探り当てたようにその目が、窓の外に向けられる。


「まさか、居るのですか! あのガーリックが!」

「ルーウェル《Rule》様、着きました」


 窓の外の景色の中にいつの間にか、御者の男が立っていた。どうやら、いつまでも降りてこない、この男、ルーウェルにしびれを切らしたらしい。


「分かりました。今行きます」


 ルーウェルは急いで手荷物をしまうと肩に掛け、馬車を降りた。

 向かうのは、第五区域の合印邸だ。


「ようこそお越しくださいました!」


 待ち構えていたメイドが、門を開いた。そうして、ルーウェルは中に入って行った。

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