第十三話 第五区域の合印様にパフェット得意になる!

 俺たちに構わず、メイドは門の鍵を開けて入って行く。


「さあ、早く!」

「ガーリックさん、どうするですかっ?」

「まあ、懸賞金が貰えるんだからいいか?」

「そうですねっ! 行くですっ!」


 俺たちはスッキリしないまま、メイドの後を付いて行った。

 広い庭を通って行くと、第五区域の合印邸の前に人が大勢いた。優雅にガーデンパーティを開いているのかと思ったが、その割にはとりわけ着飾った人がいるわけでもないし、楽しい声も聞こえてこない。それどころかこのざわめきは、テレビドラマでよくあるような事件をほうふつとさせる。それに、パーティというよりは、そこにある豪奢な建物の中にいる人たちを全員外に出したような……。


 俺は、奇妙な感じを受けながらメイドの後を付いて行く。他のメイドたちがせわし気に俺の横を駆けて行く。そのメイドたちの早口の話し声が、俺の耳に滑り込んできた。


「スキュエア様は、どうするんだろう!」

「暴走した暗号を、スキュエア様一人で止められるのかしら!」


 俺は、ギクリとして足を止めた。

 暴走した暗号? 暗号と聞いて、俺は暗号の森のことを思い出していた。


「どうしたですかっ? ガーリックさんっ?」


 パフェットが足を止めた俺に気づいて、こちらに歩いてきた。


「パフェット、マズい。何かが変だ! 俺たちは嵌められている!」

「えっ?」


 パフェットはお気楽なもので、何も気づいていないようだ。今なら気付かれずに逃げ出せるだろうか。そう思ったのはつかの間の事。向こうから護衛をつけた中年の目鼻立ちの整った男がこちらに駆けて来た。護衛をつけた中年の男は着飾っているが、この切羽詰まった走り方はまったく、その格好にふさわしくない。


「私は、第五区域の合印のスキュエアです!」


 スキュエア様は自分の人差し指と親指で枠を作った。すると、不思議なことに、その中にホログラムのようにアスタリスクが立体に浮かんで回っている。


「す、すげーですっ!」

「これがアスタリスクか!」

「手品みたいですっ!」

「ハハハ、手品ではないのですよ?」


 俺が見とれていると、スキュエア様は指をほどいてアスタリスクを消した。


「暗号文を解いてくれたのはあなた達ですね!」


 スキュエア様は、俺たちに握手を求めてきた。俺たちの手を両手で握るという歓迎ぶりだ。この歓迎ぶりに俺の心の警戒感が強くなる。


 マズい! 餌に釣られて来たら、ここはケージの中だったのか!

 十中八九、暗号の厄介ごとを何とかしてくれ。だと思うが、スキュエア様でも何とかならないのに、俺たちが何とかできるはずがない。なんとか、うまく断って、何事もなかったかのように帰ろう。


「いや、俺たちが暗号文を解いたわけでは――」

「はいっ! 私が一発で解きましたっ! 流石はパフェット様なのですっ!」

「……!?」


 そういえば、パフェットが全部解いたんだった! パフェットの性格なら、解いたのに、解いてないというはずがない。懸賞金が欲しいなら、尚更パフェットが解いたと答えるだろう。内心舌打ちする俺とは正反対に、スキュエア様の口の片端が上がった。


「流石パフェット様ですね! 解けない暗号はない! では、私が解いて欲しいという暗号も解いてくれますか?」

「もちろんですっ! 私に解けない暗号はないですっ!」

「えっ! パフェット!?」


 さっさととんずらしたいのにできないどころか、しっかりと巻き込まれてしまい、涙目になる俺だった。

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