第二話 暗号を解読してください!?

「ヤバい! どうするんだこれ!」

「こんなところで死んでたまるかっ! ですっ!」


 一緒に暗号に押しつぶされそうになっている女は、手をパンと叩くと広げた。


「解読!」


 声と共に暗号が一瞬光った。


「な、なんだ?」

「私の暗号解読スキルだっ! ですっ!」


 傍で驚いている俺の傍で、魔法を使った張本人は歯噛みしている。


「でも、全然効かないんだっ! だから困ってるんだっ! ですっ!」


 完全に女のキャラが崩壊しつつあるが、暗号でできた壁はびくともしない。記号の象形を押しつけるようにして迫ってくる。


「この問題を解かないとあの世行きですっ! 解読っ!」


 しかし、全然効いていない。


「うらああああああっ! ですっ!」


 ついには、迫ってくる暗号の記号で固めたような壁をゲシゲシと蹴飛ばし始めた。まったく、びくともしてないのがもの悲しいが。


「この問題を解くって、どうやってだ!? っていうより、これって問題なのか!?」

「一応は問題だっ! 解けないから困っているんだっ! ですっ!」

「問題って言われてもな! 俺には意味不明だけどな!」

「これを解けるのは、『暗号解読スキル』を持つ『解読使い』だけだっ! ですっ!」

「暗号解読スキルか! 俺も使えたら……!」


 けれども、暗号解読スキルなんて、どこかで聞いたフレーズだ。どこだったっけ?


「使えるなら『解読!』と言うと解けるはずなんですがっ!」

「えっ? 解読?」


 俺がつぶやいた途端、暗号でできた壁は強い光を放つ。

 ぱっぱらっぱっぱぱやー。という効果音が流れた。


『暗号が解読されました! おめでとうございます!』


 どこからともなく聞こえた美声アナウンスと一緒に解読された答えが空中に表示された。


【答え:暗号さんは今日もハッピー】


「……」

「……」


 俺は、唖然となった。隣の女はふるふると震えている。


「あ、暗号さんは今日もハッピー?」

「ハッピーで良かったなコノヤローッ! ですっ!」


 程良い間の後、ぼふんと忍者の煙幕のように煙り、文字列が雲散霧消した。


「あ、アレ?」


 俺は、瞬きを繰り返した。

 隣は、薄い目で俺を見つめている。

 辺りは、平穏な昼間の森の風景が広がっているのみだ。

 暗号のかけらなどどこにもない。


「ど、どうして暗号が解けたんだ?」

「あなたは素質があるのかもしれないですねっ!」

「そういう割には面白くなさそうだな」

「き、気のせいですっ!」


 その時、俺の頭の中に今日あった出来事が思い起こされた。

 そういえば、懸賞問題の答えが【暗号解読スキルを獲得しました。異世界の誰かの人生に転生します】だったような。

 どういうわけか、俺は暗号解読スキルが使える。そういうことらしい。

 俺は女に愛想笑いを浮かべた。すると、綺麗に貼り付けた愛想笑いが返ってきた。


「よく分からないけど、良かったな、助かって」

「本当に、このご恩は一生忘れませんのでっ! じゃっ!」


 この女は一瞬でご恩を忘れそうに、チャッと手を上げて立ち去ろうとしているのだが。

 溺れる物は藁をも掴む!

 俺は、ガシッと女の腕を掴んだ。


「ですっ?」

「一生忘れないなら、お願いがあるんだ!」

「な、なんですかっ?」


 俺は、パンと手を合わせて懇願した。


「俺の衣食住を何とかしてくれませんか!」

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