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「キューピットのバーテンさん」

 勝手口から声が聞こえた。野太い声を無理やり高くしている声。

「やめろ」

 振り向きもせずに答える。見なくても分かる、たぶんニヤニヤとその顔を歪めているに違いない。

「やーめないっ」

「うざっ」

「なによぉ、うざいってなによぉ!」

 イラッ、としつつも仕方なしに振り向いてやる。案の定そこにいたのは図体のえらくでかいネコだった。裏の店だからって気軽に入ってこないでほしい。

「あたしを呼んだでしょ?」

「呼んでねぇよ」

 ずっと仕事してたっての。

 閉店作業をすべて終え、制服だって脱いでいたのに勝手口の鍵を閉めておくのを忘れてしまっていた。

「ちっ」

「ちょっと聞こえてるわよ」

 こうやって強引に押し入れられる時があるから勝手口の鍵はゴミを捨ててすぐに閉めようと思っているのに、ついつい忘れてしまう。

「ちょっと飲みましょうよ」

「いやだ」

「つれないわね」

「るせー」

 こちとら帰って深夜帯のドラマを見たいんだ。一応保険で録画もしてあるけど、出来るだけリアタイで見たい。早く帰らせてくれ。

「いいじゃないの、あたしまだ心の傷が癒えてな、って待ちなさいよ!」

「俺は早く帰りたいの!」

「あたしは帰らしたくないの!」

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