正しい道の進み方

 高校三年の夏休み前に、進路が決まっていない生徒はそういない。大半を占めるそのまま実家に就職組、次いで多い実家を継ぐが大学に入りたい、または実家のために資格を取りたい進学組、ごくまれにいる実は市職員扱いの拝み屋組。大体この三つに分けられ、金治郎は就職組だった。もともとそうだったが、今となっては進学をさせてもらえないのではといううっすらとした疑念もある。


「進路の話でしんみりするかと思ったら全然しないのねお前ら」

「だってほとんど近所ですよセンセー」

「いくらでも会えるってか。やだねえ同窓会がただの飲み会だよ」


 寝癖のひどい歴史教師、兼進路指導担当教師は大げさに肩をすくめる。


「でも兄弟で話し合いはしとけよ、ウチなんか俺が教師で弟が警察入っちまったから両方公務員だろ? 副業できないもん、誰も寺継げねえでやんの。そういう事故は避けような」


 頭剃ってるからてっきりなあ、とそのまま愚痴が始まってしまった。こうなると長い。数学担当の三つ編みに退場させられるまで、寝癖は酔っ払いじみた愚痴を無限に吐き出していた。





 ――オレがいねえと困るよなあ。

 全員もらえる参加賞のプロモーションカード〈銀の鍵のカーター〉を配りながら、金治郎は上の空だった。


 仲間内の遊びならまだしも、商品のかかった公式大会ではなあなあの判定だとかローカルルールは通らない。公式の裁定に準拠して判断できるジャッジが必要で、金治郎は手先の器用さの代わりに暗記力を持っていた。一応ルールブックも持ってはいるが、公式サイトでないと参照できない最新の裁定などもばっちり覚えている。


 覚えるだけなら父でもいいのかもしれないが、勝負にこだわる人間はジャッジにごねるのだ。泣きつきもする。案外子供は素直に従ってくれるので、どうしても入賞賞品の限定カードが欲しい大人の方がたちが悪い。父は押し切られてしまいやすく、以前は威圧できる姉もやっていたが今はいない。そうなると必然的に、ごね得を通さないためには見た目からして威圧感のある金治郎がジャッジを行うことになるのだった。


 ――困るよなあ……

 無頓着ノンシャランを地で行く姉は数年帰ってきていないし連絡も来ない。酒などとっくに飲めるはずの年なのだが。おそらく、家のことなんてすっかり忘れて恋人と楽しくやっているのだろう。


 あのぐらい好き勝手できれば気が楽なんだろう、という気持ちと、好き勝手するにも強さが必要なんだよな、という気持ちが半々ぐらいある。見合いの話を聞いたら喜ぶだろうか。怒るだろうか。

 金治郎が姉に恨みを持つ連中に絡まれたが投げ飛ばして泣きながら帰ってきたとき、姉に恋人を盗られたと泣き喚くを背負って帰ってきたとき、すっぱり別れた姉の元恋人になぜか奢られて帰ってきたとき。事あるごとに指をさして大爆笑する姉の姿が脳裏をよぎる。たぶん、今回もそうなるだろう。


 少しばかり頭が痛くなって、先攻後攻のコイントスが始まったテーブルなんてほとんど見ていない。


「トラさーん、これってできたっけー?」

「あーはいちょっと待って!」


 判断を仰ぐ子供の声が飛んできて、エプロン姿の金治郎はどたばたとテーブルへ向かった。

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