シルバーハート
柳居紘和
真っ直ぐなあなた、歪んだ私
私の斜め前の席に座るあなたを私はずっと見ていた。
あなたは何事にも真っ直ぐで、思い立ったらどんどん進んでいく。
私はというと、躊躇いながらしか前には進めない。自分の殻に閉じこもってしまって、周りが見えない。
だから真っ直ぐなあなたに憧れるのだ。
あなたは私よりも先に進む。
まだ大人になりきれない私を置き去りにして、どんどん前へと進んでいく。
私はそんなあなたに追いつきたくて、必死になって追いかけた。
右も左もわからず、ただ進んだ。遠回りをしたこともあるかもしれないけど、それでも一生懸命あなたの背中を追いかけた。
ただ前を見て進んだ。
過去を振り返ったりはしなかった。だって、私は過去を直視できないから。傾いた感覚で思い出すことしかできないから。
過去を見るより未来をみたい。あなたが行き着く先に私も行きたい。
ただ、そう思ったんだ。
久しぶりに会ったあなたは大人になっていた。
昔のような真っ直ぐさも持ちながら、周りにも気を配れる人になっていた。
私も大人になれたかな。あなたに追いつくことができたのかな。
多分もう少しだ。もうすぐあなたに追いつくから。
そうしたら私もきっと大人になれると思う。
…でもあなたはいなくなってしまった。
ねぇ、あなたはどうして消えてしまったの?
大人になった私はどうすればいいの?
私の中の突っかかりはもうとれたよ。
もう自分の殻に閉じこもらずに、周りを見ながら歩けるよ。
過去も真っ直ぐ振り返れるよ。
それはあなたのお陰。
私が目の前の壁に負けそうになったときに、あなたがそれを壊してくれたから私は変わることが出来たんだ。
私はあなたを探し続けた。
この世の中で一人で孤独に戦い続けた。
きっといつか再会できると信じていたから。
ほらね、あなたとまた会えた。
でもどうして私に矛先を向けているの?
彼は昔みたいに真っ直ぐだ。周りなんか見えていない。
そして彼は私のことを貫いた。
彼は今でも戦っているのかな。この争いの絶えない世の中で。
私はただあなたと一緒に歩いていきたかっただけ。
たったそれだけが私の望みだった。
こんな世界なんか消えてしまえばいいと思う。
争ってばかりの世の中なんか私が終わらせてやるんだ。
争いの発端は私が摘み取ってやる。
私はゆっくり浮上して、勢いよく世界に落とされた。
そして、私の身体は世界に叩きつけられた。
これで…終わりだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「四-三、銀。王手!」
「うわっ…詰んだ!」
「俺の勝ちだね。」
「ちっくしょー、飛車さえとられなければなぁ…。」
「銀を成らせるために歩を蹴散らしたせいだって。」
「あーあ、終わっちゃった。」
シルバーハート 柳居紘和 @Raffrat
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