第7話

 ガムとの会話は僕にとって有意義な時間だった。

 ガムも僕も自然出産児とはいえ顕微授精には変わりなかった。他の人と違うのは遺伝子を全くいじっていないだけだ。保存された純粋な卵子と精子を用いて受精させ、保育器で医師達に管理されながら成長する。

 しかし、ガムの幼かった時には一部だが母胎で胎児を成長させ出産するというリスクある出産を行っていたそうだ。僕には何故そんなリスクを侵す必要があるのか理解できなかった。


「理解するのは難しいだろうね。以前は出産のほとんどはそういう形だったから、それが自然だと言うナチュラリストがいたようだよ。」

 僕は黙って頷いた。そのような記録は見たことがなかったので貴重な情報だ。

「今もナチュラリストはいるのでしょうか?」

「いるかもしれないけど、我々はもう生殖器官が退化しているから実際に出産するのは不可能だ。彼らがするしないは別としてグラヴァロイドなら可能だろうけど。」


 グラヴァロイドは新世人類と呼ばれている。

 量産化された受精卵を利用し、生体構成の一部に無機物が使われるよう設計されている。確実に50年生きるように調整してあり、事故等にあってもデータを取りだし、新しい肉体が用意される。

 対して、人間は生まれ直し[リサイクル]をしている。70歳になると生体データと脳の記憶データを抜き取られる。抜き取られた肉体はもう動くことはない。

 そして新たに用意した胎児に移植される。70年の記憶を持つ、クローンのような存在となる。

 僕達は新たな人間を産み出すことを止めていた。


 グラヴァロイドの話が出たのでカンナミの様子を伺ったが、当の本人は優雅にお茶を飲んでいた。

「カンナミは出産について知ってた?」

 カップを置きながらカンナミはこちらに視線を移した。

「いいえ、初めて聞きました。出産という概念自体ピンときませんね。」

 カンナミはグラヴァロイドだ。パイロットは大抵がグラヴァロイドで、アレックスもまたグラヴァロイドだった。


 僕達はまた少し話をして、頃合いをみてガムに聞いてみたかったことを聞いてみたかった。

「私達はリサイクル達と同じなんでしょうか?どこか違和感を感じるのですが、その原因が掴めずにいます。」

 ガムは少し困った顔をした。ふとガムもやはり僕と一緒なんじゃないかと感じた。

「リサイクルもグラヴァロイドも私達も皆同じだと私は思っているよ。ただ、違和感を感じるのは分かる。別に違和感は悪いものじゃない。アオヒはまだ若いから、沢山のヒトと出会って色々なものを感じると良い。」

 そこで話は終わりだと思った。後は自分で考えるべきことなんだろう。

 僕達はガムに御礼を言うと、また車で来たときと同じ道のりを帰った。


「ガムとの話は楽しかったですね。」

 帰りの道中カンナミが言った。

「うん、知らない話が沢山聞けたし興味深い内容だったよ。」

 カンナミも楽しんでいたなら良かった。僕の個人的な仕事に付き合わせたので、少し申し訳なく思っていた。

「ところでアオヒ、今度お祭りがあるのですが一緒に行きませんか?」

「祭り?」

「はい、先祖を敬うお祭りです。アレックスも来ますよ。局長は来たり来なかったりですね。」

 普段ならもう少し考えるし、多少面倒だとも思う誘いだったが僕はガムと会えたことで気持ちが高ぶっていたので、その場で了解をした。

 カンナミは分かってこのタイミングで誘ったのかもしれないとも思った。カンナミはそういう気持ちの機微に敏感なようだった。


 情報局に戻った僕達はそこで別れた。カンナミは飛行機の整備があったし、僕はガムとの会話をクローリアに報告しなくてはいけなかった。

「どうでしたか?」

「とても参考になりました。ありがとうございます。」

「構いません。国にとっても研究情報は大事ですから。論文は先に私に見せてください。公開の可否はこちらで判断します。」

「分かりました。」

 僕はクローリアの言葉に従った。

 

 

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