第5話
地上から太陽の光が取り込まれ、僕の住む居住区にも朝が告げられる。
新しい布団で十分に休息のとれた僕は日課の体操をしながら今日のことを考える。体操というよりはストレッチに近い、ゆっくりとした身体全体を伸ばす動きだ。そういえば昨日の夜カンナミから端末に連絡が来ていたなと思う。連絡と言っても何時に迎えにいきます、という事務的な内容だったが。
一応仕事は与えられている。しかし、僕には自分と同じ自然出産児を探すという目的もある。その辺りも局長は分かっているだろうからいくらか融通してくれるだろう。新品の空気で深呼吸した。
「おはようございます。制服は着用していますか?さぁ出勤しましょう。」
そうこうしているうちに、予告された時間に意気揚々とカンナミが現れた。
アレックスに渡された紺色の制服を羽織り玄関で待ち構えているカンナミの方へ歩み出る。
昨日通った道と同じ道をカンナミと進む。地下都市であるこの場所は直接光を受けることは出来ないが、天窓のような構造で光を取り込んでいた。地面には芝が敷き詰められている。居住施設の壁には住人たちがそれぞれ好きなように草花をアレンジしている。アレックスと通ったときは陽が沈んだ後だったので、絵でも描かれているのかと思っていた。
「カンナミは何処に住んでるの?」
「私は中央区です。アレックスは南区に住んでいます。」
「こんな風にしてあるの?」
家の壁を指差して尋ねた。
「してます。私プレシードプランツ得意なんです。良かったらアオヒの家もさせてください。」
キラキラした笑顔だった。圧倒された、というわけではないが、勝手に首が縦に動いていた。
なおもカンナミはプレシードプランツについて語っていたが、僕にはちんぷんかんぷんだった。ただ、カンナミが花のような香りがするのはそのせいかとぼんやり考えた。
指定された12階の部屋にはクローリアが待っていた。挨拶も交わさない内にクローリアからカードを渡された。
「これで各種施設の入場、コンピューターへの接続が可能です。」
なくさないように。と念をおされる。
世界の国々は閉鎖的になっている。自国のみで生活が成り立ち、また野心や競争心も乏しくなっている。ただ知識欲は未だ衰えず各国は絶えず情報戦を繰り広げている。
クローリアは情報戦を行うカルカーム情報局の局長だった。情報戦と共に稀におこる物理攻撃に備えてカンナミのような警備隊もいる。僕の仕事は情報局と警備隊とのパイプ役だった。両方の部署で働いて不具合を調整する。
「そこの差し込み口にカードをセットしてください。今日は私のサポートを。」
クローリアの指示のもと仕事をはじめる。情報戦をするのは初めてだが、直感的にできる仕様になっていた。クローリアについて
数日すると大分自由にシステムを扱えるようになった。
クローリアと数日過ごしたが、いつもクローリアは無表情で会話という会話はほとんどなかった。僕は研究のことが気になっていた。そろそろ聞いてみてもいいかもしれない。
「クローリア、僕の自然出産児研究の件で相談があります。」
「分かりました。調整します。」
その後言葉の通り、その日の仕事が終わる頃にはカルカームの自然出産児に会える手筈が整っていた。
「丁度警備隊の業務にも回ってほしかったので明日はカンナミと飛行機で向かってください。 そのまま警備業務とアオヒの研究を同時進行することを許可します。」
まさか今日の明日で会えるとは思っていなかった。驚きながらクローリアにお礼を述べる。前のアルルタルトでは自然出産児には会えなかった。探したが見つからなかったのだ。
僕は明日はじめて自分以外の自然出産児に会うことになる。
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