第4話

「お待たせしました。」


 僕が待機していた部屋に小柄な女性が入ってきた。青い瞳にふわりとした水色の髪をしている。カンナミの言葉が頭を掠める。きっと彼女が局長だろう。

「はじめまして、アオヒ・ヨコオです。」

 僕は立ち上がり局長の方へお辞儀をした。局長は無表情で軽く手をあげると部屋の端から机を引っ張りだし側面にカードを差し込んだ。机は僕達の間に置かれ、机上には何かのデータが映し出されていた。

「私はカルカーム第三情報局局長のクローリア・ウグニです。生体データありがとうございました。後で体内にお戻します。」

 話はじめても局長は無表情のままだった。

「経歴や健康状態に問題はありません。移民申請は許可されました。」

 僕は少しほっとした。初めての生体データの提出だったので、僕の知らない不具合がないかと不安だった。


「さて、これからですが。現状あまり選べる状態にありません。こちらで決めさせていただきます。」

 僕は特に希望もなかったのでそのまま頷いた。局長は僕の方と画面を交互に見ながら話を進めた。

「貴方を保護した二人の隊員を補助としてつけます。情報局と隊員間の連絡役を行ってください。」

 連絡役とはなんだろうかと僕は思ったが、声を出すタイミングを逃した。

「居住区は中央の6番がいいでしょう。必要なものは注文してください。最初の荷入れはアレックスを同行させます。 職場は情報局の12階です。それはカンナミに行かせましょう。一緒に出勤してください。 では、これで終わります。」


 局長は机のカードをさっと引き抜き、そのまま退出しようとする。

「あのっ。連絡役とはどのような仕事なのでしょうか?」

 局長はもう扉の近くまで来ていたが、僕の方を振り返った。

「やればわかります。」

 冷たい言い方に一気に不安が押し寄せる。しかし、そのまま局長は僕に部屋での待機を指示するとそれ以上は言わずに出ていってしまった。

 残された僕はまたゆっくりと椅子に腰かけた。見た目は可憐な女の子だが、なかなかの素っ気なさだ。僅か数分で僕の新しい仕事と家が決まってしまった。


 しばらくするとアレックスが現れた。今から居住区へ案内してくれるらしい。部屋に訪れたアレックスはすでに荷物を抱えていた。

「少しだけど日用品を一通り持ってきた。足りなくならないうちに注文するように。」

 言いながらアレックスは僕に荷物を渡した。アレックスはアレックスで廊下に置いてあった大きめの箱を抱えた。

「クローリアと話したんだろう。どうだった?」

「青かったですね。」

「青くて可愛いよな。あの冷たそうな感じが涼しげで俺は好きだ。」

 笑いながらアレックスはどんどん進んでいく。僕もそれに続いた。


 エレベーターに乗り込み、下を目指す。居住区は地下にあるらしい。

「中央区だから降りたら歩いて行こう。明日はカンナミが迎えに来るらしいが、できるだけ覚えといた方がいい。」

「分かった。」

 アレックスは体格が良い。なのでアレックスと話すとき

少しだけ見上げる形になる。

 下に着くと途中でここが何で、とアレックスの説明を受けながら僕の新しい家に到着した。

 部屋には備え付けの家具が揃っており、急いで必要なものは無さそうだった。日用品の類いはアレックスに用意してもらっている。

「要るものの発注はこの端末に入れれば良い。 アオヒはまだカード持ってないから今日は無理だな。」

 端末の起動にカードが必要になるらしい。

 アレックスはがさごそと箱を漁って洋服を取り出した。

「これが制服。明日はこれ着て出勤。」

 見せられたのは紺色のコートような白衣のようなものだった。右腕の辺りに国証が描いてある。

「下は何着ててもいいけど、上からこれ羽織るように。」

 見せてハンガーに掛けてくれる。アレックスは結構親切で世話焼きだ。

「ありがとう、アレックス。」

「気にすんな。今日はゆっくり休むといい。」

 二人で一通り荷物整理をすると、アレックスは帰っていった。

 

 僕は部屋を見渡した。生活感のない部屋で自分のものだという実感は湧かない。僕はそっと制服を羽織ってみた。どうも似合っていないような気がして仕方がないが、これがこれからの僕の仕事になるのだ。

 仕事内容は分からないが、どうにかなるだろう。僕は楽観的な方だと自分自身を分析していた。

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