第3話
洗浄ルームと呼ばれる場所に案内された。白い壁と白い床、少し薬品の臭いがした。ルームの入り口でエアシャワーとミストによる、おそらく除菌が行われた。
中は簡素な作りで二つの丸椅子とそのサイドに可動式のラックが置かれていた。
「こちらに座ってください。免疫注射をしましょう。」
「今度はカンナミがするんですか?」
注射を持って待ち構えているカンナミがやけににやけている。また自分でと言われるのかと思ったが、次は違うようだ。
「先に言っちゃいますと、注射針が刺さって液を入れるときの、アイタ!って表情が好きです。」
ニコニコと僕の腕に針を突き刺した。
カンナミは僕が想像していた子とは違うみたいだった。僕の中のカンナミ像を少し修正しておく。下方修正でないのがなんだか悔しい。
刺された場所を押さえながら次へ移動する。洗浄ルームより下の階に向かっている。着陸したのが一番上だったので、どんどん下ってきている形だ。
「面談は局長に行ってもらいます。」
「局長はどんな方なんですか?」
特に深い意味はなく、カンナミに尋ねた。移民の受け入れさえ叶えば居住区や仕事のこだわりはなかった。
「うーん、局長は可愛らしい人間ですよ。あと、青いですね。」
カンナミとは少ししか一緒に過ごしていないが、もっと上手く表現できるのにあえて良く分からない表現にしているだろうことが想像できた。
顔がニヤニヤしている。
「こちらでお待ちください。」
洗浄ルームと似たような、簡素な作りの部屋だった。ただ、壁の色が淡い緑色だった。カンナミはそのまま部屋を出ていく。
何を聞かれるだろうか。生体データは渡しているのでこれまでの僕の経歴は分かっているだろう。移民を希望した理由もおおよそ検討がついているのではないかと思う。
僕にとって移住するのは初めてではない。
僕の産まれた場所は小さな小さな島国で僕が産まれたときにはすでに自分達だけでは自足自給が困難になっていた。結果、近くの国に合併するとことなり、その時島民は皆で島を放棄し新たな国へ渡った。だから僕はこの島のことをほとんど覚えていない。もう存在しない国なので、国名すら知らない。
当時、合併と移住計画が進んでいたため島では人口制限が行われていた。新しく子供を作ることは中止されていたが、僕は産まれてしまった。本当に小さな島国だったので未だ自然出産が行われていたためだ。
移住先の《ハインツゥカ》では自然出産はとっくに廃止されており、すべての人間が顕微授精による誕生で、産まれる前から管理されていた。そんな中で僕は自然出産児として必要以上に厳重に管理、監視をされ自由に出歩くことは禁止された。今ではほとんどいない自然出産児だったので研究対象として扱われてきた。その点において、僕は不満はなかった。自分が研究対象であることは少し誇らしくもあった。しかし、研究対象が僕だけというのはデータとして成り立たないと感じでいた。他人と比べて、僕に突出した優劣はなかった。非常に一般的な児童だったからだ。
そして15歳を迎える頃、僕は移民申請を行った。ハインツゥカの学者からの許可も出た。
それから僕は世界にいるだろう自然出産児のデータを集める、【移民式研究者】となった。
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