第2話
移民受け入れを許された僕は、二人と共に《カルカーム》へ向かった。
僕は女性の方 カンナミ の機体に乗せてもらった。機体のサイズは同じなので、僕が一緒に乗ると狭くて嫌だ、とアレックス 男のパイロットが言ったからだ。
確かに彼は体格が良いので二人乗りだとお互い辛そうだった。
しばらく海の上を飛行するのんびりした時間が続く。
「到着までこれからのことをお話しして良いですか?」
前を向いて操縦したまま、大人しく後ろの座席に収まっていた僕に声をかけてきた。僕の返事は聞かず話が始まる。
「まずは情報局に行きます。生体データを持っていればそこで提出してください。なければ、手続きが面倒になりますね。」
生体データは世界共通で義務化されている自分自身のすべてのデータだ。産まれてから今までの身体の成長や病気の遍歴はもちろん、居住地、家族の情報まで入っている。
簡単に見せるものではなく、一生出さない者も多い。その人自身のすべてといって良いだろう。自分も知らないようなデータが詰まっている。
「次に簡単な洗浄と免疫注射をします。そのあとは面談を行います。面談をしながら居住区や職場を決めていきます。」
内容は事務的だが、カンナミがこちらの様子をうかがいながら話してくれているのが分かった。その後は、どのくらいで仕事に就けるのか質問しようとした時だった。
『アルルタルトでは何の仕事をしてたんだ?』
機内に男の声が響き渡る。アレックスが無線でこちらに呼び掛けてきた。
カンナミは苦笑しながら僕の右上辺りの壁を指差した。そこには黒い円があった。おそらくここに向かって話し掛けろと言うことだろう。
「この後のことはだいたい説明しました。」
そう言われれば、アレックスに答えるしかない。この間もアレックスはおーいとこちらに呼びかけている。
「向こうでは食料ラインの管理をしていました。」
アルルタルトでは食料の生産工場の管理をしていた。僕の任されていた区画は国の1/5程度で、僕の上にも国全体を統括する人間がいた。
管理といっても、工場は無人で回るので生産量の調整が主な仕事だった。
『結構良い仕事じゃないか。何でこっちに来たんだ?』
アレックス……厄介な相手かもしれない。
僕が困っているとカンナミが助け船を出してくれた。というよりは、ちょうど良いタイミングでカルカームへ到着した。
「アル、もうすぐ着きます。お話しは終わりにしてください。」
『おー』
プツリ、と無線が切られる。
少しのびあがり前方を見ると、渦巻きの貝殻のような形をした建物が見えてきた。他にもポツポツと建物があったが、目的地はここだろうと思った。
「着きます。」
やはり飛行機は渦巻きの建物に入るとふしゅーっと気の抜けた音をたててゆっくりと着陸した。入った機体は自動的に奥に収納されていく。
「ベルトを外してください。出ましょう。」
まだ機体は動いていたが、カンナミがハッチを開けるとゆっくりと停止した。
「行きましょう。」
カンナミは身軽に機体から飛び降りた。僕は恐る恐る降り立つ。
初めての異国の地。
ついてくるように促され僕はカンナミの後に続いた。アレックスは機体に乗ったまま奥まで行ったようだ。僕たちが降りたあとはカンナミの機体もまた動き始めた。
「私が案内します。生体データはありますか?」
聞かれて僕はそっと首もとに触れた。一度も生体データは出したことがない。きっと此処に埋まっているはずだ。
僕の動作を見て肯定ととったのだろう、カンナミは僕に道具を渡した。それは細長い金属で、先の方が少しだけ鋭利になっている。
「それで取り出してください。」
僕はもう一度その道具を見た。
「自分でするものなんですか?」
首もとに自分で傷をつけるのはなかなか勇気のいる作業だ。もちろん他人にされるのもそれはそれで恐怖を伴うが。
「本人以外の生体データの取り出しは原則禁止されています。大丈夫、痛くないですよ。」
痛くないと言う根拠は分からなかったが、もたもたしても仕方無いので意を決して首もとに刃を当てた。
すると、何かが上を這った感覚があったかと思うと刃先が固いものに触れているのに気付いた。
「取り出せましたか?」
カンナミが覗きこんできた。正直取り出せたのか分からず戸惑う。僕がカンナミに視線を送るとにっこりと微笑んだ。近くにあった顔がやはり好みで可愛くて、すぐに目を反らした。
「ちゃんと取り出せていますよ。」
どのように取り出せたのかも分からなかったが、無事に痛くもなく終わったようだった。先程まで鋭利だった刃先は少し丸まっていた。
「私。生体データを取るときのやるぞ!って瞬間の表情が好きで。ついついこの役を引き受けちゃうんですよね。」
ニコニコしながらひどいことを言っている。言いながら僕から生体データを受け取りデータを送るという作業をこなしていた。
「では、洗浄ルームへ行きましょう。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます