空飛ぶ未来

生花円

第1話

 広い海にポツリと浮かんだ孤島に僕はいた。なんとか此処にたどり着いてから数日が経過した。持ち込んだ食料もまだ残っているし、自給自足できる設備も念のため用意している。

 だけどきっと、もうすぐこの生活からは解放されるだろう。


 朝の体操を終え、木陰で空を見つめていると遠くからキラキラと光る飛行体が近付いて来るのが見えた。

「予想より早いな」

 一人呟くと、飛行体から見えるように木陰から出ていった。

 飛行体。飛行機は二機で飛んできていた。不要なものをすべて削ぎ落とした紙飛行機のようなフォルムに、一機は白のベースに緑でうねうねとラインが引かれている。植物の蔦でも意識しているようだった。もう一機は同じく白ベースだが、そこに赤いラインがジグザクと力強く引かれていた。


 ざわざわと近くの木々と海面を揺らしながら二機は浅瀬に降り立った。

 ガチャリという音と共に中から人が出てくる。パイロット服に身を包み、胸には《カルカーム》の国証が描かれている。

 機体から降りた二人は少し警戒しながらこちらへ近づいてきた。僕もやはり少し警戒しながら向かう。


「私たちはカルカームの航空警備隊です。現状を教えてください。」

 女性のパイロットが前に出て問いかけてくる。もう一人はがたいのいい男だった。


「僕は《アルルタルト》の者です。移民希望でこちらまで来ました。受け入れ体制があればそちらへ移住したい。」


 僕は言いたいことを一気に言った。移民自体は認められているはずだ。しかし、人数や居住区の関係で受け入れ体制が整っていない場合はしばらくまた孤島生活を強いられる。


「確認します。」

 カルカームの二人は二三言、言葉を交わすと男の方が機体へ戻って行った。彼の機体は赤いラインの方だ。


「いつから此処にいるのですか?」

 女性は表情を緩め話しかけてきた。

「三日目です。此処に来るまでにも三日程かかりました。」

「スキャンを行っても構いませんか?」

 僕は黙って頷いた。女性は腰に付けていたポケットから生体スキャン用のシールを取り出した。手際よく僕の身体に貼り付ける。

 若い女性(恐らく10代だろう)に触れられるのは居心地が悪かった。若いだけではない、彼女の見た目は僕の好みだった。特に健康的な所がいい。


「スキャンを開始します。」

 また、彼女はポケットから端末を取り出すと機械を作動させた。

 ピッピッという規則的な音が続き、端末からデータが排出された。

「身体に外傷や不調はないですね。」

 データを確認するとシールを剥がされる。


「カンナミー」

 海の方から声が響いた。先ほど機体に戻って行った男がこちらに向かって叫んでいた。男の方を見ると、白い機体の上に立ち頭上で腕を挙げ丸印を作っていた。

 つまり、移民受け入れがOKだったのだろうか。隣を見ると、丁度彼女もこちらを向き微笑んでいた。

「一緒にカルカームへ帰りましょう。」

 

 これから新しい暮らしが始まる。

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