Episode18.20 少年と冒険者Ⅱ
ダムンと名乗った少年とその母親は、見慣れない二人組を警戒する雰囲気であった。しかし、そんなダムン少年に
「話を聞かせて頂戴」
と優しく語りかけるリリアと、
「オーク退治の依頼を受けて来た者です。村長に聞いて彼の話を聞きに来ました」
と少年の母親に説明するユーリーの態度によって、警戒感は和らいでいた。そして、小屋のような家の中に通された二人は、そこでダムン少年から話を聞いた。
「村の西側を、明日の早朝に襲うって言ったんだね?」
「うん」
「オークの数は何か言ってた?」
「……言ってなかった。でも、女の人を十人くらい攫って行くって言ってた」
オークが村を襲撃するならば、目当ては「食糧と女」と相場は決まっている。女の身として、その事に深い嫌悪感を覚えたリリアは顔を
夫々が考え込むように黙る一方、ダムン少年は少し不思議そうな顔で突然現れた二人組の冒険者を見ると言う。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、嘘だと思わないの?」
立て続けに身近な大人から否定されたダムン少年の疑問は
「嘘だったら良いな、とは思うよ。でもダムン、君は嘘を吐いてないよね?」
「うん」
「だからだよ」
そんなユーリーの答えにダムン少年はホッとした表情となった。一方のユーリーは、勿論少年の言葉だけを頭から信じて掛かった訳では無かった。昨日ヨマの町の宿で聞いた話や、その場でもめ事に発展した冒険者の質、それに先程会話したセド村の村長の話を併せた上で、
(オークと組んで報酬を騙し取っているんだろう)
と結論を付けたのだ。以前ジェロ達から聞いた話によると、食い詰めた冒険者は稀にそのような悪事 ――事件をでっち上げて、それを解決したフリをして報酬を騙し取る―― に手を染める者が居るということだった。
それだけでも悪質であるが、今回の件では、これまでに実際にオークに村を襲わせているようであった。恐らく、或る程度オークの欲求を満たすことで関係を繋ぎとめているのだろう。狡猾なやり方だと思う一方で、大金をはたいて冒険者を雇い入れ、安心している村を襲うというのは卑劣であった。
その後、ユーリーとリリアはダムン少年やその母親から村の周囲の状況は地形を聞き出していた。そして小一時間ほど経ったあと、二人は一旦その家を離れ、再び村の中心へ向かっていた。
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「そのようなお話は、にわかに信じられませんな」
「そうですか……しかし、村の西側の人達だけでも何処かに避難させることはできませんか?」
「うむ……それも難しい」
ユーリーとリリアは再びセド村の村長宅を訪れると、玄関先で再び出掛けようとしていた村長を捕まえ、今回のオークに関する事件が六人組の冒険者によるでっち上げである可能性を伝えた。しかし、村長の反応は冷淡なものだった。如何にも強そうな六人組の冒険者と、目の前の線の細い青年と美しい少女の二人組、どちらを信じるか? と問われれば、ユーリーとリリアの事を知らない者なら前者を信じるだろう。更に言うと、既に幾つもの村で同様の事件を
村人を避難させる、という対応も渋る村長にユーリーは少し呆れながら言う。
「では、北の森で炭焼きをしている木こり達を一旦家に戻すことはできますか?」
明日の早朝に襲われるという村の西側には五十戸前後の家があり、殆どが木こりの家という事だった。そして、一家の大黒柱である夫達はこの季節、北の森で炭焼きに従事している。そのため、自衛力という点では可也心許ない状況であった。そういう状況を踏まえて、避難が無理ならば男達を家に帰し即席の自衛力としよう、というのがユーリーの考えだった。
「それは、木こり衆に直接言って下さい。では、私はさっきのダムンみたいに森に子供が入り込まないように見張らなければならないので」
村長はそう言うと、これで話はおしまい、という風に立ち去って行った。彼からすれば、若い二人組の冒険者が、頼みにする六人組の冒険者に
「何よ、あの態度」
「まぁ良いよ。それより北の森へ行こう」
憤慨するリリアを宥めるユーリー。こんな結果になることはある程度予想していたので、追いかけて更に言い募ることは止め、二人は北の森へ向かった。
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その日の夜、村の西側の家々は少しざわついていた。と言うのも、長い間森に籠り切りになっていた木こり達が、各自の家に戻ったからだ。これは、ユーリーとリリアの説得のお蔭というよりも、ダムン少年と彼の母親の尽力によるものだった。ダムン少年の父親は木こりの中でも、一目置かれている存在のようで、そんな彼が息子の真剣な訴えを聞き入れ仲間達に家に帰るように促したのだ。
そうして久々に各自の家に戻った木こり達だが、安心して家族団らんを楽しむという訳にはいかなかった。ダムン少年の言う事が本当ならば、夜明け前にオークの集団が襲ってくるのだ。そのため、各自が仕事道具でもある手斧や
そんな風に少し普段と違う雰囲気を漂わせるセド村だが、南の森の中に籠った冒険者達には、そんな様子は伝わらなかった。ヨマの町に居た三人が合流し、六人組が揃った冒険者達は、南の森の奥の方で焚火を囲んで酒を飲んでいた。その場所は最初に襲撃され、十人の木こりが殺された炭焼き小屋であった。彼等の中の一人、首領格の男が、ヨマの町からやって来た三人に言う。
「なんでそんな二人組を巻き込んだんだ?」
「仕方ねぇだろ、宿の親父が勝手に持ち掛けたんだ。あいつら、滅茶苦茶安い金額でこの仕事を請け負いやがったよ」
「まさか、バレているってことはないよな? そいつら、インバフィルかオーカスの冒険者ギルドの密偵じゃないだろうな?」
「心配し過ぎだぜ、あんなヒョロッとした弱そうな兄ちゃんとガキみたいな女の二人組がギルドの密偵な訳ない」
「ああ、そういえば女の方はえらく
「そんで、どうするんだ?」
「明日の早朝に村の西口に来い、って言ってある。オークの連中の襲撃に巻き込んで殺しちまえば良いだろ」
そんな会話だった。首領各の男は、三人が口々に言う内容に取り敢えず安心すると、
「なんだ、そんな別嬪ならオークにやられちまう前に頂かないとな」
「ああ、アイツら顔なんて何でもいいんだからな」
「違いねぇや」
と下品な声で笑い合うのだ。そして、
「ま、今回の件で五件目だな。稼ぎも上々だ、これが終わったらしばらくデルフィル辺りで遊んで暮らせる」
「そろそろ潮時なのは間違いないだろう」
「だが、こうも上手く行くと、ケチな仕事を受けたり遺跡や洞窟に潜ったりするのが馬鹿らしいな」
と言い合う。彼等としても、一時の荒稼ぎのつもりでやっている悪事だった。そんな彼らは、明日の襲撃でこの荒稼ぎを一時中止することにしていた。そのため、明日の朝は、これまで付き合わせたオークの集団に対する礼の意味を籠めて、普段よりも長めに村を襲撃させるつもりだった。
「そろそろ、交替で寝よう」
「そうだな、明日は早いんだ」
そんな声が森の中の炭焼き小屋から響く。周囲は獣の気配も無い冬の夜だ。そこで、酒と
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