Episode_17.21 翼竜襲撃!
上空に留まっていた三匹の
三匹の翼竜は、発達した後脚と翼を持つ前脚を使い、前傾姿勢となって地面を駆ける。その体躯は地面を這う
そんな三匹の翼竜は地面の起伏を巧みに使いながら、姿を隠したり現したりして、徐々に距離を詰めてくる。一方、ユーリー達六人の居場所は小山を背にした開けた場所だ。囲まれて、一気に襲われると流石に分が悪かった。
「このままじゃ囲まれちまう、あっちに迎え撃つのにピッタリの場所がある! そこへ!」
小山の上から周囲を見晴らしたリコットが、そんな声を上げる。彼は、湿地の中心近くに存在する、小山が幾つか寄り集まった場所を指差していた。ひと
「わかった、そっちへ移動しよう!」
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群れのリーダーである巨大な翼竜は、他の群れの仲間達が獲物の人間を自分の所に追い込んでくるのを、鬱陶しく感じていた。仲間達は空腹なようだが、彼の腹は満たされたままだ。しかし、彼は自分の宝に誰も近づけたくない一心で大きな身体を起こした。周囲が見渡せる湿地の中心にある小山の上に、鎌首をもたげたような彼の頭部がヌッと現れた。しかし、駆け寄ってくる人間達は背後を気にしているのか、その存在に気付いた様子は無かった。
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三匹の翼竜に追い立てられる一行は、ひと
「タリルさん、何でもいいから一発撃って!」
「お? おう、分かった!」
「リリアは、炎を!」
タリルはユーリーに促されるまま「
三匹の飛竜は
翼竜の一匹は、着地と同時に周囲の枯草が一気に燃え上がるのに驚いた。しかし、頑強な魔獣である翼竜には、この程度の火力は大した痛手とならない――ハズであった。だが、一旦上がった炎はまるで油を注ぎ足されたかのように一気に火力を増す。
「炎の精よ、燃え上がる喜びの舞を踊れ!」
リリアはユーリーの意図を瞬時に読み取った。そして炎の精霊術である「
ドオォォン!
耳を
タリルの魔術から始まった、ユーリーとリリアの連携攻撃によって翼竜の一匹が葬られた、しかし、他の二匹は尚も距離を詰めてくる。そして、遂に近接戦闘の間合いに入った。
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「うおおお!」
大きな円形盾を構えたイデンに対して、二匹の翼竜が襲い掛かる。初めの一匹は鋭く細かい牙が生えた顎を目一杯広げると、イデンの盾を
しかし、続くもう一匹の翼竜は、仲間を打ち据えたイデンに対して前脚を叩きつけるように振るった。
「イデン!」
「うおぉ!」
攻撃後に姿勢を崩していたイデンは、その攻撃を盾で受け止めるが、勢いに負けて撥ね飛ばされた。大柄な身体が湿地の地面を転がる。
「リコット、目を!」
「あいよ!」
イデンを撥ね飛ばした翼竜は、転がったまま起き上がれない獲物にトドメを刺すため、首を持ちあげる。興奮のためか、空腹のせいか、半開きの顎からは粘ついた唾液が垂れている。しかし、次の瞬間、その側頭部に五つの鉛玉がめり込んだ。ジェロの指示に反応したリコットが放った
「うわっとっと」
しかし、身軽なリコットは寸前でその一撃を躱していた。
一方、先にイデンに噛み付き損ねた一匹は、地面に突っ込んだ頭を持ち上げると見失った獲物を探す。そこに、業物の
「いやぁっ!」
気合いと共に大上段から叩きつけたジェロの一撃は、翼竜の首筋を狙っていた。しかし、翼竜が咄嗟に振り上げた前脚に遮られ、鋭い切っ先は届かない。替りに翼竜の前脚から、翼の先端にあった小さな鉤爪が切断され宙を舞った。血飛沫が上がる。翼竜は痛みに身体を
ジェロの剣も同様に相手を斬り付けるが、人間と魔獣では生命力が違い過ぎる。先に人間が倒れるのは道理だった。だが、ジェロには仲間が居る。
「た、戦いの神マルスよ、きず、ついたものに、癒しを……癒しを!」
短い気絶から目を覚ましたイデンは、苦痛を堪えた声で祈りを捧げる。神蹟術の「治癒」はたちまち効果を示し、イデンとジェロの傷を癒す。そして、
「いやしをぉうらぁぁ!」
イデンは蛮声を振り絞り、重たい戦槌を投擲した。ジェロが対峙する翼竜目掛けて飛ぶ
「っ!」
そこに、裂ぱくの気合いを伴ったジェロの切っ先が襲い掛かる。業物の長剣は、仰け反った翼竜の首の付け根、息の通り道を断ち切る。翼竜の巨体が雷に撃たれたように硬直した。ジェロは、素早く切っ先を抜くと、身体の回転を利用して長剣を
ガンッ!
という重い手応えと共に、翼竜の首は半ば切断されて、噴水のように赤い血潮を撒き散らした。
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ユーリーとリリアは、ジェロ達に襲い掛かった二匹の翼竜を後ろから追う格好となった。翼竜とジェロ達は接近しているため、遠い間合いから攻撃魔術や矢を射ることは出来ない。そのために、走って間合いを詰める。そんな二人の内、俊敏さでは「
リリアは五歩分ほどユーリーを引き離すと、一気に速度を上げる。視界の端では、ジェロが翼竜の首を撥ね飛ばす勢いでトドメを刺したところだった。そのため、リリアの狙いはもう一匹、リコットに対して執拗に攻撃を加える最後の一匹に絞られた。
リコットは自分を執拗に狙う翼竜の攻撃を紙一重で躱し続ける。軽快に踊るように、余裕をもって躱しているように見えるが、内心は冷や汗で尻まで濡れるほど必死だった。そこに、何かが飛び込んできた。
(なんだ?)
その瞬間も、自分に噛み付こうと突きだされた
その影、リリアは手に持った短槍を腰だめに構えると、一気に跳躍し翼竜の頭部を間合いに捉えた。そして、渾身の力で槍を振るう。穂先ではなく石突の側をその側頭部、見えている方の眼球目掛けて叩きつけたのだ。ゴンッ! という硬い衝撃とグニャリとした柔らかい手応えを同時に感じた。
翼竜は視界を全く失い暴れ狂う。リリアとリコットは咄嗟に飛び退いた。そこにユーリーが駆け込む。既に抜身の蒼牙にはたっぷりと魔力を叩き込んだ状態だ。そして、
ゴババァンッ!
ユーリーは補助動作も何も無しに、ただ
カンッ
三度目の太刀筋は、翼竜の長細い首を斜めに断ち切っていた。ドサッと重たい首が地面に落ちる音がした。
「はぁ、はぁ……終わった?」
ユーリーは少し荒い息を整えるようにしながら、周囲を見回そうとする。しかし、
「グルオオォォォッ!」
その瞬間、空気を震わせるような咆哮が巻き起こった。しかも、どう考えても自分達の近く、殆ど真上で起こったのだ。
「なんだ!」
慌てて辺りを見回す一行の目の前で、背にしていた小山が動いた。いや、それは小山では無かった。翼竜達の群れのリーダーである、小山と見間違えるほど巨大な翼竜だったのだ。
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