Episode_17.18 洞窟の先
ゴブリンと
何とか体勢を立て直した一行は、
襲撃現場となった浅い谷底から西の斜面を登った一行は、別の尾根に出ると、再び尾根伝いに斜面を登って行く。山の天気は変わり易いというが、濃く出ていた
一行は、そのまま進む。やがて先頭を歩いていたジェロが何かの目印を見つけたように立ち止まる。そして、その場所から一行は再び斜面を斜めに下って行くのだ。彼等が歩む道は、既に山道ではなく獣道のようになっている。狩人でも滅多に足を踏み入れない場所だということだ。そして、斜面を下り切った一行は、今度は谷底を沢伝いに登る。
そして、辺りが暗くなり始めたころ、彼等の目の前に洞窟が姿を現した。その洞窟は、谷の行き止まりに位置しており、ぽっかりと空いた洞穴からチョロチョロと頼りない水の流れが沢へと繋がっていた。
「今日はここで野営だな」
ジェロの言葉に、誰ともなく溜息が漏れる。疲れを溜め込んだ安堵の溜息だった。壮健な彼等だが、丸々一日分の山歩きと、その合間に大規模な襲撃を跳ね除けたのだ、誰もが疲労困憊だった。
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洞窟の入り口付近を野営場所と定めたユーリー達一行は、各自が野営の準備に取り掛かる。ジェロ達「飛竜の尻尾団」はベテラン冒険者らしく、このような人里離れた場所での野営も経験豊富であった。そのため、誰の指示がある訳でもないのに作業を分担して始めていた。
そして、ユーリーとリリアの二人は、洞窟の安全確認のために奥へ進んでいた。最初は、ジェロがユーリーと二人で行こうとしたのだが、タリルが
「リリアちゃんは夜目が効く。ジェロより適任だ」
と言ったので、そうなったのだ。因みに今日の調理当番はリコットという事だった。
「たっぷり塩をぶち込んでやるから、覚悟してろよ」
と、意地悪い表情で言っていた彼は、昨晩の会話を気にしていたようだった。
「本当に、ジェロさん達って仲が良いよな」
「そうね、なんだか羨ましいわね」
とは、洞窟の中を進むユーリーとリリアの会話であった。
二人の頭上にはユーリーが発した「灯火」の明かりが
二人はもう三十分ほど洞窟の中を進んでいる。足場が悪いため、平地の三十分とは違うが、それでもジェロ達が居る入口からは
ユーリーは、先ほどの戦闘で感じた「妙な連携感」についてリリアと話してみたい、と考えていた。戦闘中の
しかし、リリアとの
だが、その感覚をどう表現して良いか分からず、ユーリーは無言で歩を進めるだけになってしまう。しかし、ユーリーが話したかった事は、リリアの口から彼女の言葉となって発せられた。
「ねぇユーリー、さっきの戦闘だけど……」
「うん?」
「私、
足元に注意しながら先を歩くリリアは、そのままで言う。表情までは分からないが、その声の調子には、恐る恐る問うような雰囲気が含まれていた。
「『ちゃんと』どころか……あの時、僕は
対するユーリーは、感じた疑問をそのまま口にした。
「だって、ユーリーの使う『縺れ力場』って発動するのに時間が掛かるでしょ。それに、あの時ユーリーは自分に強化術を掛けていたけど、ジェロさん達には未だだった。『加護』にしても『身体機能強化』にしても、発動は早いけど、それでも少し時間は掛かるものね」
ささやかな不安をユーリーの言葉で拭い去ったリリアは、さも当然、というように語った。言葉の調子はいつもの明るい雰囲気に戻っている。一方、それを聞くユーリーは自分でもそれと分かるほど目を見開いていた。しかし、快活な少女はそれに構わず言葉を続ける。
「あの時は時間が惜しかった。だから、矢は私が受け持って、ユーリーは皆に強化術を掛けるべきだと思ったのよ」
「じゃ、じゃぁ、その後、僕が斜面に火爆波を撃ち込もうとして
「それは、簡単よ。あんな場面でユーリーが使う攻撃魔術って炎の術が多いでしょ。だからそう思ったのよ。でも、あの大爆発はビックリしたわ。前は大きな炎の槍みたいな『火爆矢』で、爆発はもっと小さかったのにね」
という事だった。リリアの言葉はユーリーの戦い方や魔術の選択肢、それに対する特徴などを網羅したものだった。彼女はそれを理路整然と説明した訳だが、ユーリーが驚いた風になるのは無理も無かった。幼馴染で親友のヨシンでさえ、ユーリーが使う魔術の種類や特徴には余り
「……よく、知ってるんだね」
そんな言葉がユーリーの口から漏れた。すると、前を歩いていたリリアはフッと立ち止まった。丁度大きな岩を乗り越えて、周囲から一段低くなった場所だ。リリアはそこで「ここならいいか」と呟くと、回れ右をしてユーリーを正面から見据える。そして、
「当たり前でしょ、アナタの事だけを見て、どうするのが一番良いか考えて続けていたんだから……知っているのは、当たり前なのよ」
「えっ」
正面から向き合うと、リリアは自然と上目使いにユーリーを見る格好になる。不意にそういう格好になった少女の動きと言葉に、ユーリーは返す言葉を無くした。ただ、彼女の発した言葉の意味だけが頭の中で木霊した。
「私、もっと頑張るからね。もう、私無しじゃ
胸の辺りで拳を握ってそう言う少女は、真っ直ぐな視線をユーリーにぶつけてきた。純粋な愛情がそこに在った。そう実感した瞬間、ユーリーは不意に湧きあがった激しい情動と共に、リリアの身体を掻き抱いていた。
「リリア……」
「……うん」
「僕も、もっとリリアの事を知りたい……もっと、教えてくれ!」
後からリリアが話したところによると、実は洞窟の中は
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リコットの宣言通り、塩味が効いたコンフィのスープと
そして、翌朝一行は野営後を片付けると再び移動を開始した。昨日ユーリーとリリアが途中まで確認した洞窟の先を目指すのだ。この洞窟はジェロ達の説明によれば、
「丸一日以上掛かる長さだ。先で二股に別れているが、直進した先がイドシア砦の裏、岩山の崖の上って事になるな」
という事だった。上手く行けば十七日の昼前にはイドシア砦の上に出られる、という情報にユーリーの気持ちは
「注意して進もう、さぁ行こうか」
ジェロの言葉で一行は行動を開始した。
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