Episode_14.09 魔剣「羽根切り」
迫り来る野盗達に五対一の接近戦を決意したユーリーだが、実際はそうならなかった。
先ず、防戦一方だった騎兵達が根性を見せた。彼等の内、何とか動ける四人が、一斉にユーリーの方へ向いた敵に対して背後から挑みかかったのだ。結局、その場で騎兵四人対野盗二人の構図が出来上がった。
そして、残りの三人の内二人は突然襲い掛かって来た
結局、ユーリーは、野盗のリーダーと思しき男と一対一となる。そして、
「お手並み拝見!」
という言葉と共に、野盗のリーダーは立派な柄拵えの大剣を上段から叩き付けた。対するユーリーは、その一撃を半身になって躱す。そして、大剣が振り戻される間隙を突いて懐に飛び込もうとしたが、
「甘い!」
その大剣は地面近くで弾かれたよう軌道を変えると、下段からユーリーの腿を狙って斬り上げてきた。
「クッ」
ユーリーはその一撃を寸前で横に跳んで躱す。しかし大剣の切っ先は鋭く革ズボンを切り裂き、その中の腿まで浅く切り裂いていた。斬撃を受けたユーリーは上手く着地出来ずに地面を転がる。一方、その隙を逃すはずのない野盗のリーダーは、一気に距離を詰めると
野盗のリーダーが飛び退いた空間には、次の瞬間、不可視の
立ち上がる時間を得たユーリーは再び「蒼牙」を構える。構えつつ
(あの大剣……
と見込みを付けていた。先程の地面スレスレで跳ね上がった太刀筋も、今の途中で止まった突きも、本来重量がある大剣に出来る動きでは無かった。そのため、ユーリーは相手の持つ大剣が「軽量」の魔術を籠められた魔剣だと推察したのだ。確かに良く見ると、その刀身は鋼よりも白っぽい、ミスリル独特の光沢を持っているように見えた。
(厄介な物を……)
舌打ちしたい気持ちのユーリーだが、実際にはそうする暇がなかった。一旦離れた野盗のリーダーが再び斬りかかってきたのだ。その動きは、ユーリーの見立てが正しいのか、剣の重さを感じないものだ。そして敵は疾風の足運びで一気にユーリーに肉迫すると、再び強烈な上段からの斬り下ろしを放ってきた。
躱せば、変幻自在な太刀筋に翻弄される。そう思ったユーリーは覚悟を決めて、自分から間合いを詰めると、仕掛け盾でその攻撃を受け止めた。
ガキィッ!
白っぽい輝きの刀身が、花弁が開いた花のように見える盾の表面を打ち据え、白い火花が散り、表面に張った黒染の薄板が弾け飛んだ。
一方ドリムの方は、その状態に驚いていた。
(
ドリムはその瞬間まで、対峙した騎兵が持つ風変りな盾がミスリル製だとは思っていなかった。だから、その盾を左手ごと文字通り叩き割って、騎士アーヴィルと思われる騎兵を仕留めるつもりだった。しかし、現実にはその一撃はガッチリと受け止められていた。
驚愕したドリムは「羽根切り」でユーリーの仕掛け盾を押し込む格好となる。それは、ドリムの自分の武器に対する過信であった。
ユーリーは、押し込まれる剣の勢いをガッチリと受け止めた瞬間、一気に左手の手首を捻る。盾の表面を敵の大剣が滑る。その瞬間、ドリムは前のめりに体勢を崩し無防備な横面をユーリーに曝していた。ユーリーは反撃の好機に、握った「蒼牙」を振るう。狙いは伸びきった敵に左腕の付け根だ。
ザンッ!
しかし振り抜く瞬間、「
両者が交錯するように立ち位置を入れ替える。両者共に傷を負った状態になるが、肩を浅く切られたドリムに対して、
(マズいな……)
背後ではヨシンが未だに敵相手に剣を振るっている。三番隊の騎兵達は野盗を引き付けているが、加勢に加わる余裕はない。そこへ、先ほど魔力衝で弾き飛ばしただけの野盗が起き上がろうとしている。もう少したてば、タリルの
ユーリーは自分を取り巻く状況が可也不利なのを悟ると、奥歯を噛締める。しかしその時、不意に対峙した野盗のリーダーが喋り出した。その声はユーリーに向けたものでは無く、別の相手に向けた物だったが、驚いた調子が籠められていた。
「ニーサ! どうしたんだ!?」
「なにっ、アンが? 死んだのか?」
突然始まった独り言は、その意味は分からないが、ユーリーには見覚えのある光景だった。それは、風の精霊を使い離れた場所の相手と言葉を交わす
一方のドリムは、耳元で悲鳴を上げるニーサの言葉に動揺した。ニーサもアンも猟兵隊でも貴重な魔術師と精霊術師だ。その上、一族の長であるレスリックの娘なのだ。
(しまった、無防備にし過ぎた)
自分達を援護の出来る場所に配置していたことが災いし、伏兵に襲われたのだろう。しかし後悔しても後の祭りだ。合理的な指揮官であるドリムは、風の精霊を通じて一人残ったニーサに語り掛ける。
「敵はどうした?」
(一人だけ、私が風の精霊で倒したわ)
「わかった、撤退するぞ」
そこまで言うとドリムは周囲を見回す。当初の目的は充分果たしたと思われた。そして、成果の割に被害が大きかったとも思う。
「調子に乗り過ぎたか……皆、撤退だ。ニーサ、他の部隊にも撤退の指示を!」
(わかったわ!)
周囲の者達に号令をかけたドリムは、対峙した騎兵に向い言い放つ。
「オレの名はドリム、騎士アーヴィルよ、勝負は預けておく!」
結局ユーリーは、相手の誤解を解く機会もなく、サッと後退していく野盗達の鮮やかな引き際を見送るだけだった。
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