Episode_13.22 激闘、森の守護神
蒼牙を抜き放ったユーリーは、木人と五十匹前後のコボルドの集団に
前回の
そんな彼の攻撃が合図となり、まずダレス率いる騎兵達が野営地を目指し飛び出していく。そして、同時にヨシンも飛び出す。ヨシンは斜面の途中で攻撃術を受け混乱に陥ったコボルドの後詰を目指す。
「ヨシン、あのデカブツは注意しろ!」
「分かってる!」
ユーリーは彼の返事を聞きつつ「加護」と「
そして、ユーリーは自分も駈け出すべく、ヨシンの方を見る。丁度、ヨシンは攻撃魔術を受けて混乱したコボルドの集団に接敵する所だった。
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全閉式の兜の中、視野は広くないが親友の放った炎の魔術によって照らされた敵の姿をヨシンは見逃さない。一気に速度を上げた栗毛の大柄な戦馬は、矢のように斜面を斜めに駆け下ると、敵集団の最後尾に襲い掛かる。
コボルド達は慌てたように弓矢で応戦してくるが、そんな物は早々当たるものじゃない、とヨシンは考えている。そして右手に持った斧槍「首咬み」を掲げる。
パッパッ! と赤い光が連続で起こる。ヨシンはそれが親友による、更なる魔術の援護だと気付くと、勇躍して敵の集団に突っ込んだ。
馬が敵を撥ね飛ばす衝撃と、自分が振るう「首咬み」がコボルドの首や手を断ち切る感覚。それらを手応えに突き進むヨシンは、一際大柄なコボルドを見つける。咄嗟にそれが敵の指揮官だと察知した彼は、手綱を少し引くと馬をそちらに向ける。
対するコボルドの戦闘指揮官は木槍を構えて迎え撃つ格好だ。その木槍の先端には黒光りする黒曜石が穂先として取り付けられている。そして二つの武器が交錯した。
カンッ!
という軽い手応えに続き、お馴染みと言えば余りにも冷酷な感触がヨシンの腕に伝わる。駆け抜けざまにヨシンの「首咬み」は相手の槍をまるで枝打ちするように切払い、その勢いで敵の指揮官の首を薙いでいた。
一度だけ振り返るヨシンの視界に、自分が打ち倒したコボルド達の姿が映る。炎に照らされた敵の亡骸の中で、最後に打倒した指揮官が突っ立ったまま首から噴水のように血潮を噴き上げているのが見えた。
(残りは十匹程度か! よし……もう一度!)
その光景に満足したヨシンは、馬の速度を弱め再突入しようと方向転換を始めた、その時、
ドバァッ!
不意に襲い掛かった衝撃に、ヨシンは馬上から突き飛ばされていた。
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「ヨシン!」
ユーリーは、親友が馬上から跳ね飛ばされる光景に思わず名前を叫んでいた。ヨシンの突撃を援護するため、残りのコボルド達へ駆け寄りつつ
そんなユーリーはヨシンを撥ね飛ばした一撃も視界に捉えていた。それは、突然地面から突き出した土の槍とも言うべきものだった。それが、速度を緩め反転しかかったヨシンの近くの地面から盛り上がり、斜め上に突き出てヨシンを撥ね飛ばしたのだ。
土の槍はヨシンを突き飛ばしたあと、その場で脆い
(精霊術か?)
ユーリーは攻撃の正体を直感していた。そして直ぐにソレを放った存在の目星をつける。そのような攻撃が出来る存在は、この場において「木人」しかいなかったのだ。
(木人……精霊術を使うのか!)
ユーリーが驚きを感じている一方、彼の目の前で、木人は巨木の身体をゆっくりと動かしていた。丁度坂の上側に位置するユーリーと、下側で吹き飛ばされたヨシンに挟まられる格好で立っている木人は、ゆっくりとヨシンの方へ体を向けていた。
尤も、その身体を
「クソ!」
ユーリーは親友の危機に、背後から魔術を放つことで木人を牽制しようとする。瞬間後、ユーリーの目の前に現れた十本の燃え上がる炎の矢は、彼の持つ魔剣「蒼牙」の切っ先が指し示す、木人の背中へ殺到する。が、
ズゥゥン!
低い振動を伴い、木人の周囲の土が一気に盛り上がる。それは、木人自身を守るように、ユーリーとの間に立ち塞がった分厚い土の壁だった。ユーリーの炎の矢は突然現れた土の壁に次々と突き立つとパッパッと明るい炎を上げて爆ぜながら土壁の表面を削り取っていく。一つ一つに分厚い土壁を貫通するほどの威力はない。全てが土壁に受け止められてしまった。
「ならば!」
「
ブワァッ!
ユーリーの左手が宙に踊り、正しい補助動作によって展開された魔術陣は「
(いけっ!)
という、術者の意志に応じて夜空を走る。
ドォォン!
再び地面が盛り上がり、木人とユーリーの間に新たな土壁が形成される。そこへ、一際大きな火力を持つ炎の矢が突き刺さると、轟音と爆炎が撒き散らされた。
「……壁を崩すのがやっとか……」
ユーリーの呟き通り、爆発が治まった後には崩れた土壁の残骸が白い湯気を上げながら残されていた。しかし、ユーリーは諦めない。確信が有る訳ではないが、今は自分が敵の注意を惹くべきだと直感したのだ。
「飽きるまで撃ち込んでやる!」
ユーリーは馬上で気を吐くと、再び「蒼牙」に魔力を籠めるのだ。
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馬から弾き飛ばされたヨシンは咄嗟に受け身を取っていた。それでも、ほんの一瞬意識が途切れていたと思う。そして「首咬み」を手放さなかった自分を、大したものだ、と思うのだった。
(じゃまだ!)
落下の衝撃でずれてしまった全閉式の兜を空いた左手で乱暴に脱ぎ捨てた時、パッと炎が爆ぜる赤い光が瞬き、ついで轟音が響いた。ヨシンはまだクラクラする視界で爆発の方を見るために頭を巡らす。丁度斜面を見上げる格好になったヨシンの前には「木人」が、そしてその向こうに馬に乗ったユーリーの姿があった。
視界の奥のユーリーは剣を振り上げるとその切っ先を木人へ向ける。そして白く熱した炎の矢を生み出し、木人に投げ付ける。再び起こる赤い閃光と轟音、一度では無かった、それを何度も繰り返そうとしているのだ。ヨシンの見たところ、それはユーリーの使える最強の攻撃術。それを立て続けに何度も放っているのだ。その光景にヨシンは直感した。
(注意を惹いている……この隙に何とかしろって事だな!)
ヨシンは「首咬み」を握る右手に力を籠める。肩から背中に掛けてピリッっとした痛みが走るが、構っている場合では無かった。親友が全力で敵の注意を惹いている。この隙にヨシンに出来ることは一つだった。
十メートルほど離れた所にいる木人は、まるで後ろを振り向いているように、巨木の幹のような体を
ヨシンは「首咬み」を手元に引き寄せると、ゆっくりと手足を使って、にじり寄るように、身を伏せたまま木人との距離を詰める。そして、距離が五メートルまで詰まったところで、何度目か分からない赤い閃光と轟音が響いた。
(今だ!)
それを合図に、ヨシンは獣のように斜面を駆け上がり最後の距離を詰める。そして、
「うりゃぁぁぁっ!」
雄叫びと共に、斧と槍の形状を併せ持つ穂先が自身の背中に隠れるほどのタメを作った強烈な横薙ぎの一撃を見舞っていた。
ビシィ!
「首咬み」の斧刃の部分が木人の腰に当たる場所にめり込み、思った以上に乾燥した木片を撒き散らした。ユーリーの陽動によって出来た隙にヨシンが攻撃を成功させたのだ。
木人の懐に飛び込んだ格好のヨシンは、もう一度攻撃を叩き付けるために力を籠めて「首咬み」を引き抜こうとする。しかしその瞬間、足元から湧き上がる「何か」を察知した。そして、ヨシンは「首咬み」の柄を離すと、ほとんど反射的に身を
(あぶねぇ)
先程自分を吹き飛ばした攻撃を今度は上手く躱した、ヨシンはそう確信すると再び敵の身体に食い込んだ斧槍の柄に取り付こうとするが、
ブンッ!
次の瞬間、若木の幹ほどの太さがある木人の腕が斜め上から振り抜かれる。そして、攻撃を躱した、と油断を見せたヨシンを弾き飛ばしたのだ。
「ぐはっ」
左側から木人の腕に叩かれたヨシンは二メートルほど飛ばされると、地面に落下した後も数メートル斜面を転がる。しかし、頑丈な彼は直ぐに起き上がり腰の「折れ丸」を抜き放つと、再び攻撃に出ようとした。だが、一歩踏み出したところで驚きの声を上げていた。
「なんだ!?」
ヨシンは足元を中心に急速に地面が硬さを失っていくのを感じる。みるみる内にヨシンを中心とした周囲一帯が
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