Episode_10.15 阿吽の呼吸
「いたぞ! 御無事だ!」
「おぉぉ! 王子ぃ!」
「今お助けを!!」
アルヴァン率いる第二騎士団の騎士達と共に城門を突破したドワーフ戦士団は、通路の先で今まさに兵達に押し潰されんとしている主君の姿を認めると、叫び声を上げて突進を始めた。前方を進んでいたアルヴァンやユーリー、ヨシンら騎士達を押し退けての突進である。
主力装備の
「ユーリー、ヨシン、頼むぞ!」
「分かってる! ユーリー、遅れをとるなよ!」
「分かってるよ、ヨシンこそ!」
一方、ドワーフ戦士達に左右から追い越されたユーリーとヨシンの二人もアルヴァンの声を受けて、先陣を奪い取ろうと駈け出していた。こうなると強化術の恩恵が残っている二人の青年騎士の方が足が速く、あっという間にドワーフ戦士達を追い抜くと兵士達に接近した。謁見の間に続く幅広の廊下を舞台とした戦闘は、ユーリーの持つ「蒼牙」が魔力を纏い「
ゴウンッ!
唸りを上げて薙ぎ払われた巨大な魔力の塊によって、戦列の先頭を固めていた盾持ちの兵士が三人纏めて吹き飛ばされると、壁に叩き付けられる。そのまま間髪入れずに斬り込んだユーリーは、突き出されてくる槍の穂先を依然として魔力を帯びた状態の「蒼牙」で切払う。ポンペイオ王子の持つ「疾風」に負けない切れ味を示すのは「蒼牙」に籠められた「
一方ヨシンの方は、ユーリーの左隣で「折れ丸」を振るっている。一列分突出したユーリーの左側を守りつつ、突き入れられる槍をものともせずに愛剣を振るう姿は鬼気迫る迫力を伴っている。それでいて、荒々しく見える外見とは裏腹に繰り出す突きは正確に対峙する兵士を無力化していくのだった。
そんな若い二人の騎士に負けじとドワーフ戦士達も奮戦する。高く振り上げた
「抵抗するな! 投降すれば命は奪わん!」
そんな前線を飛越してアルヴァンが敵対する兵士達に投降を呼びかける。しかし――
「ポンペイオを捕え、アルヴァンを討ち取れ!」
兵達の中央部に陣取っていた第一騎士団の騎士達は、動揺することもなく命令を出し続けている。自分達の指揮していた兵が半分以上打倒された状態でも尚平然としている様子は、逆に「異常さ」を醸し出したものだった。
「こいつら、絶対頭がおかしくなってる!」
「普通じゃないのは、さっきから分かってるだろ!」
そう声を掛け合いつつ、ユーリーとヨシンは前線で戦い続けている。既に粗方の兵を倒した彼等は、中央に位置していた騎士達との対決に移っている。兵達とは違う油断の出来ない相手だった。
「どうする? まともにやり合うと時間が掛かる!」
ヨシンは、対峙する騎士達の隙間から、防戦一方となっているポンペイオ王子達の集団を見て少し焦る。
「こうするさ! リリア、火の精霊を頼む!」
ヨシンの問い掛けに応じたユーリーは、後方に控えているリリアに一言呼びかけると得意の「
ボンボンボンボン!
五本の炎の矢は、騎士達の足元を打ち据えると同時に床に敷かれた絨毯へ燃え移った。そして――
「わかったわ!」
間髪入れずにリリアの声が耳元で響くと、小さく燃え移っていた炎はたちまち勢いを増して騎士達を包み込むように燃え上がった。リリアの使う炎の精霊術「
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「危ないところだった、またアルヴァン殿とユーリー殿に助けられたな」
「御無事で何よりです」
ポンペイオ王子の言葉にアルヴァンが答えている、ユーリーはその声を片耳で聞きながら矢を受けた宮中魔術師ゴルメスの手当をしている。
「すまないな……」
「ちょっと痛いですが、我慢してください。ヨシン、頼む」
「せーの、で抜きますよ」
「頼む」
ヨシンは、言った通りの掛け声と共にゴルメスの肩に刺さった矢を引き抜く。
「も、もう大丈夫だ……手慣れているな」
痛みのために額を脂汗に濡らしながらゴルメスが感心したように言う。まだ二十歳にもなっていないような青年だが、傷の手当の迅速さと正確さに舌を巻く気分だった。一方ユーリーとヨシンはゴルメスへの返事もそこそこにアルヴァンから声を掛けられると、そちらへ向かっていた。
「やはり、ローデウス王に直接王都の異変や第一騎士団の動きを伝える必要があると思う」
というのがアルヴァンの意見だった。
「そうだね。王宮内に残る反乱兵達は外のガルス中将が制圧すると思うけど、街中にも潜んでいるかもしれない……ローデウス王に直接指揮を執って貰った方が混乱は早く治まると思う」
ユーリーの意見に、ヨシンも頷いている。その会話にポンペイオ王子も割って入ると、
「ならば、私達も同行しよう」
「いや、王子はドワーフ戦士団と
「しかし……」
ポンペイオ王子としては、命の恩人二人から恩を上乗せされたと思っており、それを少しでも返したい一心なのだが、アルヴァンはその申し出を断わらざるを得ない。これ以上危険な目に遭わせて、万が一のことが有れば山の王国との関係が決定的に
「私も、王子には安全な場所に居て頂きたいと思います」
ユーリーもアルヴァンの言葉に賛成すると、それを聞いていたザッペーノ大使も「そうだ」と頷く。
「うむ……わかった、仕方ないな。ならばアルヴァン殿、しばらく貴殿にこの『
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謁見の間へ続く廊下でポンペイオ王子率いるドワーフ戦士団と別れた一行は、謁見の間を目指して進んでいる。一行はアルヴァンを中心にユーリー、ヨシン、それにウェスタ侯爵領の正騎士が七名と従卒兵が五十人、それにノヴァを加えたものだ。因みに、リリアは
「ポンペイオ王子を無事王宮の外へ送り届けて欲しい。その案内を頼む」
というアルヴァンとユーリーの頼みを受けてドワーフ戦士団と共に行動していた。二人の、特にユーリーの言葉に、自分を戦闘から遠ざけたいという意図以外の気持ちを感じ取ったからこその素直さだった。
一方ユーリーは、リリアに対する評価が少し変わり始めていた。これまでは「愛する女性」という位置づけで「保護の対象」だったのが、少しだけ「頼りになる相棒」という風に変わったのだ。特に先程の戦闘では、下打ち合わせも無ければ、間近で一緒に剣を振っていた訳でもないのに、完璧に自分の意図を読み取った行動をしてくれた事に軽く感動を覚えたほどだった。
「お前とリリアちゃんて、あんな風な戦い方を練習してたのか?」
とは、廊下を進みながら問い掛けてきたヨシンの言葉だった。
「いや、ぶっつけ本番だった」
「へー、やっぱり
「や、止めてよ! いまそんな事言ってる場合じゃ……」
ヨシンの指摘にユーリーは照れ隠しのように強く言うが、その言葉にノヴァが割って入る。
「そんなこと言ったら、ユーリーとヨシンも相当『好き合ってる』ことになるわよ」
「ぶっ……」
その言葉に隣を進んでいたアルヴァンが噴き出す。
謁見の間へ繋がる大扉の前でのことだ。この先謁見の間を横切り、ローデウス王の居館へ繋がる渡り廊下を進むことになるはずだった。
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