Episode_08.18 トルン砦包囲網
洞窟の暗がりから姿を現したユーリーの姿に、リリアは手に持っていた弓を取り落として駆け寄ると、そのまま飛び付くように抱きついていた。ユーリーも番えていた矢を外し、彼女を抱き締め返す。
「リリア、なんでこんなところに?」
「ごめんなさい……ちょっと訳ありで……」
そんな二人のやり取りに、目を白黒させるのは夫々の同行者である。
「あのー、ちょっと……どう言う事?」
「えっと、あの子がリリアちゃんて言う――」
「よっ色男、憎いね」
「……」
ノヴァの困惑した声に、ヨシンが説明しようと答え、マーヴが冷かすように言う。セガーロは困った表情のまま無言だ。一方
「な、なんで……」
「おっ! 恋敵の登場だ、頑張れジェロ」
「いや、あっちからするとジェロは
「リリアちゃん、良かったね」
茫然とするジェロを
抱き締め合うユーリーとリリアを挟んで二つの集団は、夫々にこの状況を納得しようとするのだが……
「おーい、ユーリー。続きは後回しにしろよ」
というヨシンの声で我に返ったユーリーとリリアは、パッと音がするほどの勢いでお互いの身体を離す。今は
****************************************
「あのさ、俺達協力したら褒美貰える?」
「多分、いや確実に貰えると思うよ」
状況を一通り説明し終えた両者のうち「飛竜の尻尾団」のリコットが質問する。それに答えるのはユーリーだ。ユーリーとしては「空約束」の類の返事であるが、アルヴァンならば「確実に褒美を出す」と思っての返事だった。
「どうする? リーダー?」
「リリアちゃんを手伝った上に報酬が貰えるんだぞ」
「俺はどっちでもいい」
「俺も」
対する飛竜の尻尾団の四人は、ごそごそと短いやり取りをすると代表してジェロが
「褒美が出ようが、出まいが、俺達はリリアちゃんの困りごとを解決する」
との事だった。リリアは少し引き攣った表情ながら「ありがとう」と愛想良く応じている。ユーリーとしては十歳近くも年上に見えるジェロがリリアに向ける熱っぽい視線は気になるところだが味方は多い方が良いと思うことにした。
「どうしよう? セガーロさん」
「そうだな、バランスが取れているし魔術や神蹟術、精霊術の使い手が増えるのはそれだけ生存性が上がる……一緒に行っても問題無いと思う」
やや状況に押し切られた感もするが、セガーロとしては「お荷物に成らなければ良い」という程度の認識である。その気になれば、一人で潜入して当主のブラハリーとガーディス王子のどちらか一人くらいは救出する自信もあるのだ。
因みに一行の内、ガーディス王子が捕虜となっている事を知っているのはセガーロだけである。可能ならば救出した後も「ガーディス王子が捕虜となっていた事実自体を伏せることが出来るように」という配慮から厳重な箝口令が敷かれているのだ。そして、セガーロは雇用主のジャスカーから
「最悪の場合は、ガーディス王子を優先せよ」
と秘密裏に指示を受けている。ウェスタ侯爵領の当主ブラハリーとリムルベート王国の次期国王ガーディスでは重要度が違う。ジャスカーの頭の中では「どちらが今後の商売で有利になるか」という天秤に掛けた上での指示であった。
(そんな事にはならなければ良いが……)
そう思うセガーロは、気持ちを切り替えると一行に指示を出す。
「そろそろ、時間だ。潜る準備を始めよう」
ユーリーとタリルが魔術を、リリアとノヴァが精霊術を夫々手分けして施した一行は準備を整える。魔術に比べて魔力の消費が少ない精霊術を二人で分担したリリアとノヴァはそれ程でもないが「
「おまえ、これだけ魔術を一度に使って平気なのか?」
とは、同じ分の術を使ったユーリーが余りに平然としていることへのタリルの疑問だった。
「タリルさんはさっき『スライム』を焼くのに術を使ったからキツイんだと思いますよ、それに僕は魔石を持ってますから」
そう言うユーリーは「これから先何が有るか分からない」との思いから自分の魔力の消費を避けるために、出発前に屋敷家老のドラストから、
「惜しまず使え、でも余ったら返すように」
と言われて渡された魔石を使用したのである。上質とまでは言えない魔石であるが、初歩の術ならば後三十回は使えそうな雰囲気の魔石である。
「あ、タリルさん。この魔石使って下さい」
一方、ユーリーの返事をすぐ側で聞いていたリリアは、盗賊ギルドの首領キャムルから渡された魔石をタリルに差し出す。
「助かるよ」
と魔石を受け取るタリルだが、頭の中では
(それにしても、まだ若いのに中級程度の魔術を使うんだな……しかも本業は騎士とは……ジェロには悪いが、勝負アリだな)
と感心したような、呆れたような気持ちになるのだった。
「先頭は俺が潜る。向こう側に着いたらロープを引くのでそれを合図にしてくれ」
そんな言葉を残してセガーロが水の中へ姿を消した。因みにロープは細い物をヨシンとセガーロが手分けして運びこんだものだ。出口側は岩場に打ち込んだ杭に結ばれている。脱出する時に目印とするための措置だった。
やがて水中に姿を消したロープが、グイグイと引かれる。セガーロが対岸に到着した合図だった。
「よし! 僕達も行こう!」
緊張気味な一行を元気づけるようなユーリーの声が、抜け道の洞窟に響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます