Episode_04.22 決戦! 小滝村奪還作戦 激突
森の中に待機する兵士達の中、ヨシンは武者震いを覚える。ついさっき後方へ下がるユーリーと目があった。その時ユーリーは自分にいつもの強化術と防御力を増強させる術も掛けてくれた。
(期待に応えよう……ここから先は一歩も通さない)
親友が援護のために術を施したのは自分一人だけだった。ヨシンだって馬鹿ではない。魔術は魔力を消耗し、有限の力なのだ。上手く使い所を考える必要のある魔術を、ユーリーは自分に掛けてくれたのだった。それは、親友からの期待と信頼の証しだ。そう考えるヨシンは「折れ丸」の柄を握る手に力を籠める。ふと、何故か「折れ丸」から、握る力を返してくるような手応えを感じて少し困惑するヨシンであるが、武者震いは止まっていた。そして、その視界に、肩を怒らせて高台へ向けて走るオーク兵の一団が見えた。
(仕事の時間だ)
ヨシンを始めとした兵士達は枯草の繁みから立ち上がると、鬨の声を上げて前方を進むオーク兵達の隊列の横っ腹に突撃する。オーク兵達は予想していなかった場所に潜んでいたヨシン達の兵士の出現に驚愕するも、武器を手に挑みかかってきた。その数およそ百、ヨシン達の数の倍以上居るが、陣形を組んでいない間延びした隊列である。
「うぉぉーっ!」
ヨシンは「折れ丸」を片手持ちにし、左手に盾を持った状態で一番先に敵と接する。槍こそ持っていないが「一番槍」である。そして、大振りな戦槌を持ったオーク兵を相手に定めると、走り寄った勢いのまま左手の盾から相手に体当たりをする。
ゴン!
という衝撃と共にオーク兵は一歩二歩と後ろ交代する。そこへ鋭く「折れ丸」を突き込み、捻りを加えて引き抜く。敵は左胸から血を吹き出し倒れ込んだが、既にヨシンはその右側の別のオーク兵に上段から斬り付けている。隣の仲間が倒された驚きの表情のまま、そのオーク兵は反射的に手に持っていた短槍を振り上げるが
カンッ
小気味良い音と共に、ヨシンの愛剣は槍を断ち斬りそのまま袈裟懸けにそのオーク兵を斬り倒す。
(二!)
そう心の中で数を数えるヨシンであった。
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ユーリーはルーカ達が陣取る高台まで移動しようとするが、不意に後ろから迫る者の気配を感じた。そして、それに呼応するようにヨシンのいる兵士達の部隊が鬨の声を上げ武器の打ち合う音が聞こえてきた。
(敵が抜けてきた……ここで食い止めた方が良いな!)
ユーリーはそう判断すると自分に加護と
(っ!)
確かに数個の気配が此方に向かってくるのを察知した。直感的にユーリーは弓を引き絞り……木立の間から飛び出してきた瞬間、そのオーク兵に矢を放つ。
ピュッ
鋭い風切音を立て矢はオークの右首筋に吸い込まれた。一匹倒したが、その後ろから更に二匹が飛び出してくる。
(間に合わない!)
至近距離での会敵に、ユーリーは咄嗟の判断で弓を手放すと片手剣に持ち替える。背中に括った盾まで取り出す時間は無い。一方、突然仲間を倒されたオーク兵二匹は醜い豚の顔を怒りの形相にして、ユーリーに殺到する。
迫りくるオーク二匹、左が両手斧、右がこん棒を持っている。咄嗟の観察で、ユーリーは殺到してくるオークの右側の空間へ移動する。「身体機能強化」程ではないが、加護でも充分に強化されたユーリーの移動速度は血走ったオークの目にはどう映っただろうか? とにかく、素早く動いたユーリーに正対するためその場で向きを変えるオークは二匹でユーリーを取り囲むつもりが、一匹づつユーリーと向き合う恰好になってしまう。
「ってい!」
ユーリーは、こん棒を振りかざすオーク兵の武器の持ち手を素早く斬り付ける。オーク兵は、反射的に斬られた傷を押える格好になってしまい、無防備になった首筋がユーリーの前にさらけ出される。狙った通りの敵の挙動に、ユーリーは容赦なくオーク兵の首筋に
しかし、首筋から鮮血を上げ倒れるオーク兵の後ろから、リーチの長い両手斧の攻撃が飛んでくる。
ブゥンッ
風を捲いて空を斬る両手斧の一撃を、ユーリーは素早く後ろにステップして躱す。そして、出来た隙に飛び込もうとするが――
ガンッ
予想を超えて素早く降り戻された両手斧を何とか剣で受け止めたユーリーは、そのまま弾き飛ばされてしまった。
大振りな武器は一度攻撃を躱されると次の動作までの隙が大きい。そんな常識で相手の隙を突こうとしたユーリーだったが、オーク兵は凄まじい膂力は予想外だった。
(くそ!)
内心悪態を吐くユーリー。一方、弾き飛ばされ地面を転がった少年兵を追うオーク兵は、トドメとばかりに大上段に両手斧を振りかぶる。しかし、地面を転がったユーリーは、その弾みで背中から外れた盾を握ると、急いで立ち上がる。
ガンッ
再び凄まじい衝撃音が響くが、ユーリーは寸前のところで盾を構えるとトドメの一撃を受け止めていた。薪割りのようなオーク兵の一撃は、かなりの衝撃が有るはずだが「防御増強」の付与術を自分に掛けていたユーリーは何とかその衝撃を受け止め切っていたのだ。
渾身の一撃を受け止められ、膂力を誇るオーク兵は驚愕の表情を浮かべる。そして、慌てて距離を取ろうとするのだが、その時既にユーリーはオーク兵のがら空きとなった懐へ肉迫するように飛び込むと、素早く敵の鳩尾に剣を突き入れ、更にその豚面を盾の上辺で殴り飛ばしていた。
殴り倒された拍子に剣が抜けた傷口からは、血が泡となって吹き出す。そして、そのオーク兵も悶絶の内に絶命した。
(危ない所だった……気を引き締めないと)
そう考えるユーリーは
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戦場の隅、東北側の坂の上から村の様子を見下ろすハンザの目には、眼下に広がる部下たちが潜伏する森にオークの兵がざっと百ほど突入していったのが見えた。さらにもう百程がその後に続こうとしている。そろそろ良い頃合いである。
「全騎、突撃ぃー!」
振り上げたロングソードを振り下ろし、ハンザは十騎の哨戒騎士隊に号令を掛ける。十対一、数の上ではそういう比率だが、此方は強化術と防御術を受けている。過信は出来ないが普段よりも強力なことは間違いない。視界に敵を捉えるハンザは馬に拍車をかける。
ふと横を見ると、いつものようにデイルが寄り添っている。お互いの馬は姉弟馬だ。息が合っている。そして、いつものように少しデイルの馬が先を行く。
(いいわ、先頭はあなたよ。後ろは任せてね)
そういう気持ちを籠めてデイルを見る。その気持ちが通じたのか、ハンザの視線にデイルが軽く頷きかえした。それだけでいい。
乗り手の気持ちを汲み取る馬は、すべからく名馬である。そういう意味で二人の乗る馬は名馬と言える。二頭は、お互いがその背に乗せた人間から、もう一方の人間の匂いを感じる。敏感な動物の嗅覚は、この二人が「|つがい(・・・)」であることを嗅ぎ取るには充分だった。自分達は姉弟、その背に乗る人間は「つがい」ならば、
(一緒ニ走ロウ)
飼い慣らされた軍馬の奥底に眠る野生の血が、冷たい朝の空気をより鋭く切り裂くことを求める。その求めに純粋に従う二頭は、一層速度を増して敵の群れに飛び込むのだった。
そして、デイルを先頭とした十騎の哨戒騎士は、オーク兵の集団およそ百に側面から激突する。下り坂に加えて「身体機能強化」と「防御増強」の術を受けた騎馬の突撃をオーク兵達は止める術がない。
ドンッ、バンッ、ドンッ
いたるところで、オーク兵が跳ね飛ばされる音が聞こえる。その先頭のデイルは数匹を跳ね飛ばしたところで、馬を止めると馬上から大剣を振るい、更に三匹のオークを撫で斬りにする。高い所から打ち下ろされた業物の大剣は、相手に防御の暇を与えず、貧弱な防具を打ち壊し確実に致命傷を与えていく。その斜め後ろでは、デイルの背後についたハンザが
ヒュゥッ、ヒュゥッ
という風切音と共に血飛沫が上がる。結局最初の突撃で五十程の敵を蹴散らした騎士達は
「一旦退け!」
というハンザの鋭い号令の下、坂の上に退き始める。
(追って来てくれれば……)
その思いを込めて振り向くハンザは、
(後は、坂の上で迎え撃つ)
そのつもりである。
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