Episode_03.05 仲良し三人組
翌朝、ユーリーは眠い目を擦りながら何とか起きだす。昨日は色々あったうえに、夜遅くまで養父のメオンと話し込み、それが魔術理論の講義に発展してしまったために、すっかりベッドに入るのが遅くなったのだった。結局、滞在中は「みっちり」と養父から教えを受けることを約束させられてしまった。
「あー眠いー……」
と独り言を言いながら家の外に出ると、ユーリーは水場で顔を洗う。冷たい水の刺激で幾分か意識がスッキリした気がする。何度か顔をゴシゴシやっていると、背後に気配を感じる。
「あれぇ! ユーリー? ユーリーじゃない??」
トーンの高い娘の声だが、どこか聞き覚えのある声である。声の主に振り返ったユーリーは記憶の中のその姿と目の前の娘とのギャップに戸惑う。
「……マーシャだよね?」
目の前には、ほっそりとした赤毛の女性が立っている。以前は日焼けして、そばかすの目立っていた肌は、健康そうな印象はそのままに色白になっており、元々静かにしていれば、愛らしい顔立ちはそのまま娘に成長し少し、少し大人びた印象を与えている。
「やっぱり、ユーリーだ! いつ帰ってきたの? 背伸びたわねー」
そう言うと満面の笑みを浮かべるマーシャは、手にパンと飲み物の入ったポットを入れたバスケットを持っている。
「マーシャもすっかり可愛くなったね」
対する、ユーリーは恥ずかし気も無くさらっと褒めるのだったが、それを聞いたマーシャは色白の肌を真っ赤にすると
「ばかぁ」
と言いながらユーリーの肩辺りを叩き、ユーリーの家の中に入っていった。
「あれ、メオン老師は?」
家の中から問いかけてくる、マーシャに
「あー、昨日遅くまで起きてたから、まだ寝てるよ」
と答えるユーリー。
「そう、じゃぁテーブルに置いておくから、起きて来たら食べてね」
どうやら、マーシャは一人暮らしのメオン老師の為に朝夕の食事を持ってきてくれているらしい。
「ありがとう、マーシャ」
家の外に出てきたマーシャにそう声を掛けるユーリー。マーシャが再び頬を赤らめて何か言い掛けるところに、
「おーい、ユーリー。起きてんのか?」
とヨシンの声が聞こえてくる。
ヨシンは、すっかり普段着と化した革鎧を身に着け、剣と盾も装備している。これから、ユーリーとともにヨーム村長の家に顔を出すつもりなのだ。そのつもりでユーリーを呼びに来たヨシンは、家の角から姿を現わすと、ユーリーはともかくもう一人の可愛らしい娘を見て固まる。
「……あの、どちら様ですか?」
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「えぇぇぇーっ!」
驚愕の声を上げるヨシン、鼻の頭に皺を寄せるマーシャ、吹き出すユーリー、仲良し三人組の二年ぶりの再会であった。
「なによー、ヨシンどう言う意味よ」
「え、えーと、そ、その、暫く見ない間に感じが変わったというか……見違えたと言うか……」
「なー、ヨシン。可愛くなったよな、マーシャは」
「う、ううん……」
肯定とも否定とも取れない曖昧な相槌を打つヨシンは頬を赤らめると、さっきからマーシャの顔を直視できないでいた。その様子が、マーシャの癇に障ったのだろう、
「何? 歯切れが悪いわね。身長が伸びても中身はヨシンのままね! 大体、帰ってきたのに一言も挨拶無しなんて、二人ともちょっと薄情なんじゃない?」
ヨシンに対する攻撃が、そのままユーリーも含めた二人への非難に変わると、しばらくキャンキャンと捲し立てるようにしゃべる。
(やっぱり、マーシャだ……)
その様子に、目の前の娘が間違い無くマーシャであることを確認した二人であった。
「とにかく、一度は家にも顔を出してよね!絶対よ!」
立ち去り際に、そう念押しするとマーシャは自宅へ帰って行った。
「びっくりしたなー。可愛くなってたけど、やっぱ『マーシャはマーシャ』だったね」
「う、うん……」
ユーリーの言葉に生返事のヨシンは、マーシャの後ろ姿を目で追い続けている。
「ヨーム村長のところに行くんだったよね、ちょっと待っててね」
そう言うと一旦家の中へ戻っていく。ユーリーの言葉も動きも上の空なヨシンはボーっとマーシャが立ち去った方を見ている。
(……どうしよう……メチャメチャ可愛くなってた……)
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