第22話 自然花壇にて

今日は、ラファちゃんとの約束を叶える為、お昼後、自然花壇に二人でやってきました。


見学研修に関しては、お母さんとアス姐にラエル様夫妻のことは任せてあります。

視察や査察では無く、見学なので皆もいつも通りに働かれています。

ラファちゃんは、午前中は、琉璃ラズリ様の家庭教師で、お勉強をされていました。

それなので、午後から自然花壇で、ラファちゃんの約束とお願いを叶えることに。


自然花壇は、エルフとドワーフの方々が主に管理と整備を行っている風景式庭園なのですが、自然が作り出した花壇と新たに作った花壇が混じり、様々な光と花々の美しさをメインとする庭園です。

ここには、精霊さんが良く集まってくるので、精霊さんと仲良くなりたいラファちゃんには、ピッタリの場所なのです。


「アニスお姉さま、ここのお花畑すごく綺麗。花壇のようにも見えて不思議だね。」


「そうね。お花畑か。言われてみるとそうも見えるわね。」


「さっきから、不思議な気配がするんだけど、一体、何か気になるんだけど。」


「ラファちゃんには、その気配は怖く感じる?」


「ううん、怖くは無いよ。でも、不思議な感じ。優しいような面白いようなそんな感じ。」


ラファちゃんの周りには、花の精霊さんと風の精霊さんが集まってみている。


「天族のお子様がアニスちゃんと来てるよ。」

「何か私達のことを感じ取ってるみたい。」

「面白そうな子だね。」


精霊さん達は、ラファちゃんに興味津々な様子。


「ラファちゃん、精霊さん達と仲良くなりたいんだよね?」


「うん。精霊さん達と仲良くなって、お友達になりたい。」


「じゃあ、一つ約束をしてくれる。お友達になった精霊さんに危険なお願いは絶対しないって。」


「危険なお願いって?」


「うーん、例えば、精霊さんが傷つくようなお願いや他の方々が傷つくようなお願いはしないでほしいの。」


「そんなお願いは絶対にしないよ。だって、お友達だもん。」


「あとは、来週から通う学校でも、きちんとお友達を作ること。この2つの約束を守ってくれるのなら、精霊さんに会わせてあげるわ。」


「うん、わかった。学校でも、お友達を沢山、作ります。」


「はい。いいお返事ね。じゃあ、眼を閉じて、ラファちゃんの背中の羽根を出して、ゆっくりと広げて貰えるかな?」


「えっと、目をつむって、こうすればいいのかな?」


そうすると、ラファちゃんの背中より美しい白い羽根が現れ、ゆっくりと羽根を広げていく。

その羽根に私の精霊力をほんの少しだけ与える。

これは、「光の書」さんに聞いた精霊を見る力を与える方法。

実は昨夜、「光の書」さんに相談をしたのです。


……………


…………


………


「ねぇ、「光の書」さん、他の人に私の精霊力を分け与えることはできるの?」


「うん、できるよ。色々な方法があるけど。例えば、どんな種族に分け与えようとしてるだい?」


「天族の女の子なんだけど。」


「あぁ、もしかして、ラファとの約束を守るのと願いを叶えたいんだね。」


「うん、そうなんだけど、できるかな?」


「君にならできるよ。でもね、普通の方法でやるとラファが危険だから、特殊な方法じゃないと無理だよ。」


「普通の方法っていうのは?」


「すごく簡単だよ。相手の身体に触って、君の精霊力を流し込むだけ。」


「え! そんなに簡単なことなの?」


「但し、きちんとコントロールしないと相手が持つ力の容量を超すと大変なことになるから、精霊力の微細なコントロールと相手の力の容量がわかるようにならないとダメ。君は相手の精霊力を見抜く力がまだ備わってないし、コントロールも充分に出来てないから特訓が必要。」


「言われてみれば、確かにそうかも。精霊眼に頼れば、ちゃんと出来るんだけど。」


「精霊眼に頼らなくても、出来るようにならないとダメだよ。これは毎日、特訓だね。」


「特訓!? 特訓って、難しいの?」


「特訓は、簡単だと思うよ。相手の精霊力を見抜くには、その通りに見ればいい。特に精霊に手伝って貰っている人なんかの力の動きを見て、その中心にある力を見られるようになれば、いいんだよ。これは精霊力だけじゃなくて、魔力や天力、法力なんかにも応用が効くんだよ。だから、仕事中や誰かが力を使ってる時は力の動きを感じ取るように見ればいい。」


「わかったわ。それで、精霊力のコントロールに関しては?」


「無意識でやってることが多いから、意識して精霊力を操ればいいんだよ。例えば、指先に精霊力を集めて、光の精霊に力を借りるとかがいいかな。試しにやってみなよ。でもその前に闇の精霊に頼んで、この部屋全体を真っ暗にして貰ってね。」


「うん、わかった。暗き闇の精霊よ。我が願いを聞き給え。我が部屋を暗闇に染めよ。」


すると、部屋中が真っ暗闇に染まる。

闇は別に怖いものではないの。安らぎや静寂、包み込む優しさを秘めているのに、悪用されることが多いのが悲しい。


「うん、準備は万端だね。それじゃ、さっき言った通りにやってみて。」


「えーっと、人差し指の先に精霊力を集めて、こんな感じかな。光の精霊さん、灯りを点して。」


すごい眩い光がは、部屋中を包み込む。

闇の精霊さんに頼んで、真っ暗闇にした部屋が一瞬にして、明るくなってしまう。


「ちゃんとイメージして、コントロールしてなかったでしょ。ただ、力を集めただけでも、これだけの力を持ってるんだから、気をつけないといけないんだよ。」


「次は、きちんとイメージして、コントロールしてやってみるね。ゴメンなさい。闇の精霊さん、もう一度、部屋を暗闇にして。」


そう願うと部屋が真っ暗闇に再び染まる。


「いい、簡単なイメージとして、指先に小さな光が灯る感覚で、力を集めてみて。これが出来ないと特殊な方法が出来ないから。」


「うーんと、小さな灯りか…。ほんの少しだけ、指先に力を集めて…。うーん、これだと多すぎるから、もう少し減らして…。これ位かな。」


「じゃあ、灯りを点してみて。」


「指先に集まりし力にて、光の精霊よ、灯りを点し給え。」


すると、イメージより一回り大きい光が灯る。

でも、さっき見たく、部屋全体を明るくした訳ではないので、失敗じゃないはず。


「まぁ、及第点って所だね。でも、精霊眼を使わなくても、コントロールする感覚は掴めたかな?」


「うん、力のコントロールって、精神力もかなり使うのね。でも、これも毎日、これから頑張るわ。」


「慣れれば、すぐにコントロール出来るようになるよ。君の力は大きすぎるから、小さい力を使うのに慣れてないだけのことだよ。じゃあ、特殊な方法を教えるよ。これは、ラファにしか使っちゃダメだからね。それだけは守ってね。他の天族には別の方法があるから。」


「ラファちゃんだけへの特殊な方法なの?」


「君は忘れたのかい?あの子は、「節制」を司る七大天族だよ。」


そういえば、幼くして力に目覚めて、封印が施されてるんだっけ…。

すっかり忘れてたわ。


「いいかい、さっきの様に指先に極少量の精霊力を集めて、あの子の白き羽根に力を与えるの。それだけのこと。だけど、さっきみたく何も考えなしでやったら、大変なことになるから、絶対に注意してね。」


「ほんの少しでいいの?」


「ほんの少しというか、ホントに極少量だよ。あの子の力は「節制」であり、「秩序」をもたらす力でもあるんだよ。だから、彼女は欲望を理性によって、正しい力に変えることができる。だから、精霊力という彼女自身の欲を自らの力である「節制」で、自分の正しい力に変えられるの。」


「すごいんだね。だから、極少量でいいんだ。」


「大きすぎる力は、今のあの子には、負担になっちゃうからね。例え、封印がされていても、極少量の力なら変えられるから。あと、この事は誰にも話しちゃダメだよ。」


「それは、話を聞いているだけで、充分にわかってるつもりよ。光の大庭園こちらでは、若干の影響があっても、闇の大庭園向こうでは極秘事項トップシークレットの部類でしょうから。」


「そういうことだよ。君はやっぱり賢いね。」


なんか、「光の書」さんにバカにされたような気がする。

でも、力のコントロールって難しいし、精神力もすごく使うから大変なのね。

精霊眼に頼りきりだと、いざという時に何もできないのも嫌だから、特訓はするけどね。


「そういえば、「光の書」さんは、力の補助とかできないの?」


「僕は、知るモノであり見るモノである。だから、補助とかそういう力は無いんだよ。僕のことを読んで正しく使ってくれる人を選ぶだけだから。」


「そうだよね。でも、いろいろとアドバイスと特訓内容を教えてくれてありがとうね。」


「いえいえ、でも、今日中に、この力の特訓はある程度、完成させないと明日、君は嘘つきになっちゃうから、ガンバってね!」


「……ガンバります。」


こうして、私は深夜を超え、明け方になる前に何とかある程度のコントロールが出来るようになり、闇の精霊さんに頼んで、静寂と安寧の衣に包まれて、短時間でぐっすりと眠るという精霊さんに対して、ダメな願いをしたのでありました。


そして、時間は、現在に戻ります。


………


…………


……………


ラファちゃんの羽根は、一瞬だけ、強い力で輝き始め、すぐに収まる。

もしかして、これが「節制」の力なのかな…。


「ラファちゃん、大丈夫? どこか痛かったり、変な感じはない?」


「うん。大丈夫だけど、アニスお姉さま、もう目を開けてもいい?」


「えぇ、いいわよ。ゆっくりと目を開けてね。」


ラファちゃんがゆっくりと目を開けると新しい風景が映っている。


「アニスお姉さま、とっても綺麗なこの子達が精霊さんなの?」


「うん、そうよ。今、ここに居るのは、花の精霊さんに風の精霊さん。土の精霊さんは照れて隠れてるみたい。」


「お話ししてもいいの?」


「勿論。でも、その前にその羽根をしまいましょうか。」


「羽根をしまっても、大丈夫かな?」


「なんでかな?」


「私、まだ羽根を出してないと上手く天力を使えないから、羽根をしまったら見えなくなっちゃうかもしれない。」


「それは、大丈夫よ。私が保証するから。」


「うん、じゃあ、羽根を閉じてしまうね。」


ラファちゃんの背中の美しい羽根が背中にしまわれる。そして、私の与えた精霊力がラファちゃんの中に宿る。

私の精霊力をそのまま与えてしまえば、ラファちゃんに秘められた巨大な天力は、別の力なので交じり合わず、かき消されてしまう。

でも、一度、羽根に宿り、ラファちゃんの「節制」の力で自身の精霊力に変換されたので問題ないはず…。


「ラファちゃん、大丈夫?」


「うん、羽根をしまった時に変な感覚があったけど、大丈夫。あと精霊さんもきちんと見えてるよ。」


「上手くいったようで良かったね。君の努力の賜物だよ。」


「ありがとう。「光の書」さん。」


「アニスお姉さま、何か、言いました?」


「ううん、何でもないよ。さぁ、あとは精霊さんと仲良くなって、お友達になりましょうね。」


「はい。精霊さん達、私の名前はラファって言います。よろしくお願いします。」


「ラファちゃん、可愛らしい子ね。昔のアニスちゃんみたい。」

「そうね、昔のアニスちゃんみたい。さぁ、皆で遊びましょう。」


「アニスお姉さま、精霊さんとお話しできてるよ。うん、精霊さん、一緒に遊べぼう。」


………………………


………………


………


この後、自然花壇で、私達と精霊さんと仲良く遊び、ラファちゃんは無事、風と花の精霊さんと友達になることができました。

あとは、学校でもきちんとお友達を作ってくれればいいなぁ~。

短い間でも、友達は大切だし、一人は寂しいからね。

例え、遠くに離れることになっても、繋がりは決して消えない。私はそう信じてるから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る