第21話 見学研修初日
今日から大樹の丘で、ラエル様夫妻の交換研修が始まります。
とは言うものの昨日、
交換研修の初日は、大樹の丘という庭園を見てもらうことなので、ラエル様夫妻だけでなく、娘であるラファちゃんにも、見てもらうことにしました。
この件に関しては、中央管理局から研修補佐で派遣されている母であるニナも賛成してくれており、大樹の丘の管理整備棟の主な研修官のお三方にも了承済みです。
本来であれば、娘であるラファちゃんの竜耐性が低く、また幼い為、古竜さまの気まぐれで威厳が強まったりすれば、精神的にも危険であるので、最低でも2週間は地上に出るのは、厳禁なのです。
大樹の丘の地下街で、ある程度の竜耐性を上げてから地上に出ることが、この丘での決まりであり、その決まりを破れば、自身に反動が来るので、暗黙のルールとなっているのです。
しかし、例外もあるのです。まずは、この丘で育った者であること。無論、産まれた時、もしくは幼少期からこの丘の地下街で過ごしており、自然と竜耐性が育っているということ。
2つ目は、純粋無垢であるということ。怖れを知らず、何に対しても興味を持ち、心優しいということ。
竜の威厳というのは、己の持つ恐怖心を煽り、それを精神的概念から様々な悪影響を及ぼすからなのです。
ラファちゃんは、この2つ目の純粋無垢であり、恐怖心よりも好奇心の方が強いということを
ということで、ラエル様御一家と大樹の丘の管理整備棟へ向かう為、地上に出る
ちなみにお母さんは、お仕事モードで先に管理整備棟に行っております。
「アニスお姉さま、おはようございます!」
「おはよう。ラファちゃん。昨日はきちんと眠れたかな?」
「はい。ちゃんと眠れましたよ。」
と言いつつも、若干、眠たそうな目をしている。
「おはようございます。アニス様。ラファ、嘘はダメですよ。」
「アニス様、おはようございます。この子ったら、昨日は地上に出られることがすごく楽しみで眠れなかったみたいなんです。」
やはり、お子様でした。でも、私もラファちゃんのことは言えない。
だって、一年前の私も楽しみで眠れなかったのだから…。
「嘘をついてゴメンなさい。でも、楽しみで眠れなかったんだもん…。」
「いいのよ。ラファちゃん。私にも同じような経験があるから、大丈夫よ。では、地上に参りましょう。」
地上への
この
過去に外部からやってきた幼い頃の私が例外的な事件を起こしてしまった経緯もあり、ある意味では危険なのですが、外部から来た者に対しては、大樹の上から古竜さまが威嚇するので、問題はないとのことです。
地上に出るとすぐに目に入るのは、この丘の象徴でもある「
光葉樹で、この丘の誕生から遥か数万の年月を見守ってきた大樹なのです。
しかし、ラファちゃんは、別のことに驚いている様子。
「アニスお姉さま、お外なのに何でこんなに明るいの?」
「だって、朝だよ。明るくて当然でしょ?」
「うん。地下街が朝だから明るいのはわかるけど、何でお外も明るいの?」
「えっと…、あっ、そうだわ!
「お外に夜が来ないって、夜になっても、ずっと明るいってことなの?」
「そうよ。ラファちゃん。それが
「ゴメンなさい。アニス様。ラファに教えるのをすっかりと忘れていました。私と夫は久しぶりなので懐かしい限りなのですけど。」
「私達もすっかり、このことをラファに教えるのを忘れていました。本当に申し訳ありません。」
「いえ、大丈夫ですよ。私も真逆の環境であることをすっかり忘れていたのですから、お互い様ですよ。」
私は、すっかり忘れていました。
地下都市に関しては同じでも、外の環境が
だから、ラファちゃんには、きっと衝撃的な驚きなんでしょう。
「では、皆様、申し訳ないんですが、私の日課に付き合って貰っても良いですか?」
「えぇ、それは構いませんが、日課というのは?」
ラエル様が聞いてこられるので、私はいつもの日課を答える。
「大樹さまに挨拶をしてから、毎日、ここの管理整備棟に行っているんです。大した日課では無いんですけどね。」
「それは素敵な日課ですわね。この大樹さまへの挨拶、私達も研修期間中、ご挨拶をして行こうと思います。」
フィール様がそう答えてくれたので、私はなんだかすごく嬉しく感じました。
それから、ラエルご一家と一緒に大樹さまの近くまで来る。
「大樹さま周辺の整備は、素晴らしく行き届いているのですね。風景式庭園とは聞いていたのですが、これまでに自然豊かだと美しい。」
「そうね、ラエル。ここまでの道も自然を壊すことなく、丁寧な遊歩道になっていましたし。本当に綺麗ね。」
「パパ、ママ、この大きな樹、すごいねー! すごく立派なのに周りの景色と一体となっていて素敵だね。」
「ありがとうございます。そう、お褒め頂くと我々、大樹の丘の整備士もきっと喜ぶと思いますよ。それでは、軽く挨拶をして…。」
大樹の下に見入った顔がいる…。あれって、クラ爺?
古竜さまが自ら下に降りてるなんて、どういう風の吹き回しかしら?
初日の見学研修から、厄介事だけは止めてくださいね。
「おはようございます。クラ爺。今日は珍しいですね。」
「いや、何。天族の方々が来るだろうと思って、挨拶をしておこうと思ってな。待って居ったんじゃよ。」
「えっと、この方は、クラルテ様。ここの視察や査察などを中央管理局から任されている方です。」
「皆からは、クラ爺と呼ばれているので遠慮なく、クラ爺と呼んでおくれ。」
「ねぇ、何で、クラルテお爺ちゃんは、フォンセ様みたく人に化けているの?」
「ほほう。ラファちゃんは、わしが化けているのに気付いたのか?」
「うん、だって、フォンセ様と同じ感じがしたんだもん。」
「ラファ、今、言ったことは本当かい?」
「うん。だって、クラルテお爺ちゃん、フォンセ様と同じ感じだよ。」
「クラルテ様、いえ、光の古竜さまとお会いでき、光栄の極みでございます。私ら家族にわざわざこちらで出迎えていただくとは恐悦至極でございます。」
「これから、主人とこちらで一生懸命、研修に励みたいと思いますので、宜しくお願い致します。」
「別にそんなかしこまらんでもええて。わしのことは内緒にしておくれよ。それにしても、ラファちゃんはすごいのう。一発でわしの正体を当てたのは、そこのアニス以来じゃて。」
「アニスお姉さまもクラルテお爺ちゃんの正体を知っていたの?」
「うん。でも、これは
「「わかりました。研修が終了しても、決して口外することはしないと一家揃って誓います。」」
「うん、わかった。とにかく、秘密なんだね。アニスお姉さま。クラルテお爺ちゃん、約束の証に指切りしよう。」
「おお、いいぞ。ラファは本当にいい子じゃのう。」
こうして、ラファちゃんとクラ爺は、指切りをして、約束をしてました。
ラエル様夫妻も、決して口外しないことを重々に承知しているので、一安心です。
「では、そろそろ時間ですので、管理整備棟に向かいますね。皆様、行きましょう。クラ爺、また後でね。」
「おお、今日も一日、無理せんように気をつけてな。」
こうして、クラ爺と別れ、大樹の丘の管理整備棟に着きます。
この後、朝礼が行われ、交換研修に来たラエル様ご一家が紹介され、今週は見学研修がメインであることをシャイン様より伝えられました。
その後、お一方ずつ、大樹の丘の管理者、整備士の皆に挨拶をなされ、ラファちゃんの挨拶の時は、皆から拍手喝采でした。
それもそのはず、幼年学校の4年生とは思えないほど、しっかりとした挨拶で最後に「パパとママのことを宜しくお願いします。」って言うのだから。
朝礼後は、職員は各部署に解散し、私と先に来ていたお母さんと合流して、大樹の丘の各庭園の見学を行いました。
大樹の丘は、庭園として大きく分けると、「光葉樹の森林」、「滝を臨む庭園」、「大樹の丘」、「自然花壇」、「管理整備棟前の庭園」の五つの区画になります。
午前中に「光葉樹の森林」と「滝の望む庭園」を見学してもらい、お昼はお母さんが作ってきたお弁当でお昼休憩にし、午後は「大樹の丘」を別の側面から見て頂き、「自然花壇」、「管理整備棟前の庭園」を見学して頂きました。
「アニスお姉さま、どこもすごく綺麗だったね。お日様の下だと、こんなにも風景が違うんだね。」
「アニス様、ニナ様、今日の見学研修は、とても参考になりました。これからの実施研修も楽しみです。」
「私も夫同様に今日の見学研修はとても素晴らしい風景が見れて、とても参考になりました。ありがとうございます。」
「今日はざっとですが、ここの庭園を全て見て貰いましたが、明日からは、私の母のニナと整備官のアス様とじっくり一箇所ずつ見学してもらいます。今週の最終日はレイティア様とシャイン様がご案内をする予定です。宜しくお願いしますね。」
「「はい。わかりました。宜しくお願いします。」」
お二人の返事が息ピッタリで、少し驚く。さすが夫婦と言うものなのかしら…。
「アニスお姉さま、私は明日はどうすればいいの?」
「ラファちゃんは、今週は私と一緒に行動して貰うわ。明日の午後に「自然花壇」で精霊さんと仲良くなりましょう。」
そう言うと、ラファちゃんは目を輝かせて、周囲の目を気にせず、無邪気に飛び跳ねて喜んでいる。
それを見ている精霊さん達も楽しそう。
この丘の五つの庭園の見学終了後、管理整備棟に戻り、中の案内をレイティア様とシャイン様にお任せしました。
ラファちゃんは、お疲れなので、応接室で眠っています。
今日の私の反省点は、
これは、大きな反省だわ。あれだけ勉強したのに。でも、すぐに思い出せたから良かったものの思い出せなかったら、私が恥を掻いていたわね。
こうして、見学研修の初日が無事に終わりました。
ラエル様御一家にこの丘の素晴らしさが少しでも伝わったのなら、嬉しい限りです。
でも、本当の研修は、見学研修が終わってからなので、私も頑張らないと。
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