第14話 研修開始日前日・午前

明日から交換研修が始まります。今日は、大樹の丘及び中央管理局として、準備期間の最終日なのです。

三日前より慌ただしい日々が続き、今日がその最終日だけど、本番は明日からなんだけどなぁ~。

本日は、管理部、整備部、庭園の管理整備状況の最終確認が行われます。


現在、中央からは、中央管理局局長たる管理整備長官、中央管理局所属管理整備官主任、中央管理局所属中央管理室室長、管理整備主任補佐官の中央のトップ3が来ているのと、光の大庭園ライト・ガーデンの特異点より光の大精霊様が私の守護の為、この大樹の丘に揃っております。


一昨日、中央からトップ3が来たと思ったら、がお母さんで、がお父さんって、私の両親の秘密を知ったと思えば、昨日は、地下の基礎学校内にある図書館にて、と英雄たるとの大喧嘩があったり、特異点に行ってみれば、大精霊支配未遂及び他の精霊支配事件があったりと、様々なことがありすぎて、自室に戻ったら、ぐっすりと眠ってしまいました。


昨日の大喧嘩に喧嘩に巻き込まれた闇の大精霊様に、特異点に謁見に行った際に巻き込まれた事件で、解放した精霊さん達とその長たる光の大精霊様の二大の大精霊さまと友達となり、光の大精霊にレム、闇の大精霊にシェイドという名を親愛の意味で与え、私の心友となってくれました。


闇の大庭園ナイト・ガーデンから天族の一家が来られるのです。

昨日のような、下賤な天族とは違うと思うんだけど、不安になってきたのよね…。

でも、管理整備官の夫婦で、幼年学校に通うお子様がいるとのことなので、問題は無いと思いたい。

いい方たちだといいんだけど、明日にならないと解らないからなぁ~。不安でいっぱいです。


大樹の丘の管理整備棟に向かう為、宿舎を出て、地上に向かいます。

二大の大精霊様は、大樹の丘を見るのは、始めてらしい。

昨日は、地下の宿舎で過ごしたので、地上の庭園部に出ることを楽しみにしていたみたい。

竜の威厳があるので、レムちゃんとシェイド君には、精霊同調エレメンタルシンクロで竜耐性を私とほぼ一緒にしたつもりだから、大丈夫だとは思うんだけどね。


いつも通りに大樹さまに挨拶をしていこうと思ってるんだけど、大丈夫かな…。

とりあえず、この子達に話してから行こうっと。


「レムちゃん、シェイド君、管理整備棟に行く前にいつも大樹さまに挨拶に寄るんだけど、今日も寄ってもいいかな?」


「はい。一緒に付いていきますよ。アニス様が行かれる場所には、何があっても付いていきますから。」


「うん、僕も構わないけど、何かあるの?」


「大樹さまの上には、古竜様が住んでらっしゃるのよ。だから、大丈夫かなぁ~って心配で。」


「アニス様、古竜様がお住みなのですか? それは、是非、挨拶しないといけませんね。」


「古竜様か、会うのは久しいかも。だから、さっき僕たちの耐性をあげてたんだね。」


「念の為ね。威厳に当てられちゃったら大変でしょ。」


「そうですね。竜の威厳がどのくらいのものか、私にはわからないので、お気遣いとてもありがたいです。」


「僕は、そこそこの耐性はあるから、大丈夫だったんだけどね。」


「まぁ、とりあえず、地上に出て、向かいましょうかね。」


そういって、いつも通りに地上に出て、大樹に向かうとする。

最近、この時間だと、誰かしらいるのよね。


すると思ってた通り、誰かいるというか、いつもの面々に加え、長官様もいる。


「おはようございます。ルーシェ様、レイティア様、シャイン様。お三方も大樹さまへの挨拶ですか?」


「おはよう。アニス。あら?後ろのお二方はどちら様かしら?」


レイティア様が、私の後ろに付いてきたお二方に気付き、誰か聞いてくる。


「えっと、このお二方は、レムちゃんとシェイド君です。」


「ここでは見れない方々だったから。ところで、お二方とも精霊力が異様に高いのですけど…。」


「それは、そうよ。レイティア。この方々は、光と闇の大精霊ですもの。」


「ルーシェ様、本当ですか? 大精霊様がなぜ、この地にいらっしゃられるのですか? まさか、アニスが何かしたのでしょうか?」


「レイティアは、アニス様を呼び捨てされるのですね。まぁ、それはいいとして、何かしたというよりも、この方々と友達になったのですよ。」


ルーシェ様が私とレイティア様との話に割って入るように、私の代わりに答える。

そういえば、今更ながら、レイティア様って中央は中央でも、中央管理局の上位管理官だったんだっけ。

だから、長官たるルーシェ様との面識もあるのよね。レイティア様の後ろで、シャイン様はしどろもどろしてるのに…。


「アニス、大精霊を友としたのですか!?」


「えぇ、まぁ、昨日、いろいろとありまして…。レムちゃんとシェイド君、この方々に挨拶を。」


「はい、アニス様。皆さま、おはようございます。私は光の大精霊、アニス様に戴きし名をレムと申します。」


「おはようです。僕は闇の大精霊で、アニスに貰った名前はシェイドっていいます。」


「名前を戴いたっことてことは、それは心友ということですか?」


「そうです。アニス様は心友です。」

「そうだよ。アニスちゃんは心友だよ。」


レイティア様が名前に関して、咄嗟に質問し、そして、二大の大精霊が声を揃えて、答える。


「ルーシェ様、アニスは事の重大さを解ってるのですか?」


「たぶん、知らないと思うわよ。凄い友達が出来たと思ってるんじゃないのかしら?」


「ルーシェ様、それは私に対して失礼だと思うんですけど。確かに素敵な友が出来ましたけど、何かあるのですか?」


「ほら、やっぱり理解しておっしゃらないですか。アニス様、二大の大精霊でしてよ。普通の精霊と違うんですよ。解っておりますか?」


「光と闇をある意味、自由自在に操ることを言ってるのですか?それとも、眷属を率いて、事を構えることですか?」


「アニス様、最初に言われたことだけで充分ですわ。あとに言われたことの方がある意味、怖いんですけど…。」


私が何も知らないような雰囲気で答えたので、念押しするかのようにルーシェ様が言ってきたので、悪ふざけで返してみる。

すると、ルーシェ様の綺麗な顔から笑顔が少し消えて、少し怖がられている様子が伺える。

レイティア様は笑顔が消えて、私の一言に軽く脅えてしまった様子。


「レイティア様、大丈夫ですか?」


「えぇ、大丈夫よ。最近、アニスがさらっと真顔で冗談をいうから、少し怖いのよ。」


「アニス様は、事の重大さはしっかり理解されてるようね。さすがは大精霊師エレメンタルマスターです。」


「アニスって、大精霊師エレメンタルマスターだったの?」


驚いたように突然、シャイン様が聞いてくる。


「はい。私も最近になって知ったんですけどね。普通の精霊士エレメンタラーだと思ってたんで。」


「私もレイティア様も高位精霊士ハイ・エレメンタラーだけど、アニスはもっと凄かったのね…。」


レイティア様とシャイン様は、エルフ族なので、精霊士エレメンタラーは有していると思ったけど、高位ハイだとは思ってなかった。

特にシャイン様は、あまり精霊さん達とお話しされている所を見たことが無かったので、驚きでした。


「お二方とも高位精霊士ハイ・エレメンタラーだったんですね。」


「そうよ。アニス。私もシャインも高位精霊士ハイ・エレメンタラーよ。ただ、シャインは精霊とお話を始めると仕事が飛ぶから、仕事中は話さないように精霊達にお願いしてあるのよ。お仕事に関する頼み事だけ聞くようにしてねって。」


「レイティア様は、ハイ・エルフなので、私より精霊に対しての権限は同じ高位精霊士ハイエレメンタラーでも上なのよ。」


「だから、シャイン様は、お仕事中は精霊さん達と会話されてないんですね。」


「アニスが来る前は、何でも精霊から聞いて、視察や査察で来る際に風の精霊の噂話まで事前報告書に上げてくるから、会話厳禁にしたの。」


「レイティア様、何もアニスやルーシェ様がいる前で、その話をしなくてもいいじゃないですか…。」


レイティア様がシャイン様の昔話をして、ため息を吐かれつつ話し、シャイン様が動揺されてる。

ルーシェ様もその話に興味を持ったようだが、上からの視線に気づかれた様子で、それ以上、突っ込もうとしていない。

私の後ろのお二方とも上からの視線に気づいたようで、少し、緊張した様子がみられる。


「そうそう、アニス様は、二大だけじゃなくて、四大の高位精霊とも友になってるから、今日の午後にこの丘に顕現すると思うわ。」


「「ルーシェ様、今、何と言いましたか?」」


レイティア様とシャイン様が声を揃えて、聞き返す。


「だから、四大の高位精霊がこの丘に来るのよ。特異点での事後処理がそろそろ終わると思うから、一時的にアニス様に会いに来るそうよ。」


「高位精霊って、大精霊に次ぐ精霊ですよね? しかも、四大ですか?」


「だって、そこに光と闇の二大の大精霊がいるのよ。それに比べたら、驚くことは無いでしょ。」


「アニス、どうしたら、そんなにいろいろな精霊と仲良くなれるの?」


「私は、普通に接しているだけですよ。」


レイティア様とシャイン様は、四大の高位精霊さん達が来ることに驚きつつ、シャイン様から私への質問を素っ気ない返事で返す。

するとルーシェ様が思い出したかのようにレイティア様に話しかける。


「そういえば、レイティアはもう少しで高位精霊師ハイ・エレメントになれるのよね?」


「そうですけど、ルーシェ様、急にどうなされたのですか?」


「いや、アニス様に頼んで、高位精霊を紹介して貰えばいいのでは?って思ってね。」


「えっ、確かに高位精霊師ハイ・エレメントになるのに高位精霊の試練は必須ですけど。」


「それとも、そこのお二方に頼んでみる?」


ルーシェ様が、私の後ろで風景を楽しみながら、話を聞いているお二方に視線を伸ばす。


「いえいえ、大精霊様とお話しするのも、大変なことなのにお願いするなんて、とんでもないことです。」


「私達は、別に構わないですよ。それにお二方をきちんと紹介してほしいです。」


レイティア様が恐縮して答える中、レムちゃんが一言、言い返す。


「あぁ、失礼しました。私は中央管理局所属上位管理官及び大樹の丘、管理整備棟上位管理官を務めるレイティアと申します。」


「はい。私はこの大樹の丘で管理整備棟にて、管理補佐官をしているシャインと申します。」


「では、私も中央管理局局長にて光の大庭園ライト・ガーデンの管理整備長官のルーシェと申します。以後、お見知りおきを。」


すぐに挨拶をするお二方に続いて、ルーシェ様も挨拶をする。


「お二方とも高位精霊師ハイ・エレメントになりたいのですか?」


「いえ、私はまだまだ、そのような力はないので、こちらのレイティア様のみです。」


シャイン様がレムちゃんに答える。


「そうなのですか? 私には、貴女にも充分、素養があると思うのですが?」


「えっ、そうなんですか? でも、私に過ぎた力はまだ必要ないので、遠慮いたします。」


レムちゃんの一言にしっかりとシャイン様が答える。

それを横で見ていたレイティア様が少し驚いた様子。


「その言動がいつも身についていれば、貴女にここの管理官を任せられるのに…。」


っとレイティア様が小声で呟く。

光と闇の大精霊は、大樹の精霊にお二方のことを聞いている様子。

ルーシェ様は、そろそろ管理整備棟へ行こうとして、お二方に話しかける。


「さて、お二人さん、アニス様は、まだお二方と御用があるみたいだから、私達はそろそろ管理整備棟に向かうよ。」


「はい。それでは、アニス、また後でね。レム様とシェイド様、失礼します。」


「お二方もまた後で、ゆっくりとお話ししましょうね。アニスもまた後でね。」


そういうとお三方は、管理整備棟へと歩いて向かわれる。

私達は、古竜様へ挨拶をしに、大樹の上に向かうことにする。


「レムちゃん、シェイド君、準備はいいかな?」


「古竜様への挨拶に行くんですね。先程から視線が気になっていたので、準備は大丈夫です。」


「僕も大丈夫だよ。」


私は風の精霊にお願いをして、大樹の上に飛ばして貰う。

お二方は、普通に飛べるので、私の後を付いてくるように大樹の上までやってくる。


「おはよう。クラ爺。」


「おはようございます。はじめまして、古竜様。私、光の大精霊のアニス様に戴きし名をレムと申します。」


「おはようです。お久しぶりになるかな? 古竜様。僕は闇の大精霊で、アニスちゃんに貰った名をシェイドと言います。」


「ほほう。さすがは大精霊。礼儀は中々によいのう。わしはクラルテ。光の大庭園ライト・ガーデンの古竜じゃ。」


威厳をあまり出さずに私達に挨拶をするクラ爺。

なんか、孫が増えたかのように嬉しそうな表情でこちらを見ている。


「特異点での件、何もできずに済まなかったのう。ここからでは、見守ることしかできないのでな。一応、特異点で起こっている件をルーシェに頼もうとした所、アニスと一緒に向かったので、問題解決するだろうと思って見守っておったのじゃ。アニスが一人で解決するとは思ってなかったがな。」


「クラ爺も解っていたなら、もう少し早めに連絡をルーシェ様にください。一歩でも遅かったら大変だったと思いますよ。」


「そうだな。これからは気をつけるとするよ。」


「して、二大の大精霊がここに来たのは、挨拶だけではあるまい。」


「はい。闇の大庭園ナイト・ガーデンの古竜様に連絡を取って頂きたいのです。向こうの特異点の留守は問題ないと思うのですが、僕がこちらにいることや大精霊師エレメンタルマスターの守護をしていることなどは知らないと思うので、連絡をしておいて戴きたいのです。」


「うむ。そうじゃのう。確かにこちらに闇の大精霊がいることは、向こうも知らんじゃろうて、わしから連絡はしておく。まぁ、アニスがいるから、特異点にある特殊転移門パラレルゲートが使えるから、いつでも戻れるのだろう?」


「はい。その通りなのですが、明日から交換研修が始まるとのことなので、特別管理整備補佐官でもあるアニスちゃんに迷惑はかけたくないので。」


「了解じゃ。そういうことにしておこう。アニスはホントに精霊から好かれてるのだのう。」


「はぁ、私には、よくわからないんですけどね。」


「アニスは、そのままでいいんじゃよ。のう、光と闇の大精霊よ。」


「はい。アニス様は、そのままでいいんです。」

「うん。アニスちゃんは、そのままでいいんです。」


声を揃えて、古竜さまに返事する。なんで、こんなに息がぴったりなんだろうって思うくらい。


「わしも、あとで管理整備棟へ出向くのでな。ルーシェとレイティアに伝えておいておくれ。」


「わかりました。クラ爺。それでは、失礼しますね。」


私達は、古竜さまに挨拶を済ますと管理整備棟へ向かう。

到着すると整備室には、人影は一つも無く、皆、庭園の各整備場所へと行ったらしい。

管理棟へ向かうと、管理部はいつもと同じような時間が流れているが、管理補佐官室内では、シャイン様と私の両親が明日からの資料の最終チェック等に追われている様子。管理部内での最終チェックは終わっているので、残るのが、中央のチェックのみらしく、管理補佐官のシャイン様が手伝いをされているみたい。昨日、ルーシェ様が午後から抜けたのが痛手だったみたい。

レイティア様とルーシェ様は、整備部の最終チェックの為に査察に赴いてる様子。


私は、とりあえず、レムちゃんとシェイド君にこの丘の管理整備棟を一通り案内する。

午後くらいに四大の高位精霊が来るから、余計なお仕事も増やしたくないので、大精霊であることは伏せておく。


朝、気になったことをレムちゃんとシェイド君に聞いてみる。


「ねぇ、シャイン様に素養があるというのは、高位精霊師ハイ・エレメントになれるってことなの?」


「はい。アニス様。あのシャインさんという方も精霊にかなり好かれております。特に風の精霊と仲が良いみたいで、風の高位精霊ともすぐ打ち解けると思います。他の精霊にもかなり好かれているようですね。」


「レムちゃんと一緒に大樹の精霊から聞いたんだけど、レイティアさんは、本来なら高位精霊師ハイ・エレメントでいいんだけど、本人が頑なに高位精霊の試練を受けてないから、名乗ることは出来ないって言ってるみたいだよ。」


「ふーん、じゃあ、あとで時間を作って、試練を受けて貰いましょうか。レムちゃんとシェイド君が試練を課してもいいんでしょ。」


「はい。私でも闇の大精霊様でも、試練を課すのはいいんですけど、どの程度の試練を課せばいいのか、私には難しいので、闇の大精霊様か、四大の高位精霊に任せた方が良いかと思います。」


「僕は、別に構わないけど、僕の試練だと、ここでは結構、特殊というか、稀な試練になっちゃうけどいいのかな?」


「レムちゃんは、特異点から外に出たことが無いから難しいか、シェイド君は、闇の大精霊だから稀な試練になっちゃうのか、難しい所だね。四大の高位精霊さん達が来たら、お願いしてみるよ。ありがとうね。」


「いえいえ、お役に立てずに申し訳ありません。」


「同じく、申し訳ないです。」


そんなことを話しながら、一通りの案内が終わったので、管理補佐菅室へと赴く。

両親が、いつにもない真剣な顔で仕事をしている。ある意味で信じられない光景を見ている私が居る。


「アニス、何って顔してるの? これでも仕事の時は、大真面目に仕事をしてるのよ。一箇所でもミスがあれば、大変なんだからね。」


「そうだぞ!アニス、お母さんの言うとおりだ。そんな顔をしてないで、少しは手伝ってくれ。」


「残念ながら、私には別件がありますので、中央の最終チェックのお手伝いはできませんので、ご了承ください。」


「別件と言っても、明日からの研修のことでしょ。それとこれも一緒じゃないの?」


としての別件のお仕事が優先ですので、悪しからず。」


「うぅ、そう言われると何も言えないんですけど…。」


「ところで、長官と管理官はどちらへ向かわれましたか?」


「えっと、ルーシェ様とレイティア様なら、ルーモ主任の所に行ってるはずよ。」


「ありがとうございます。そうそう、あとでクラルテ様がこちらに来るそうなので、宜しくお願いしますね。」


「アニス、今、何て言ったの? クラルテ様が来るって、本当なの?」


「はい。朝、挨拶に行った際にあとで顔を出すと言っておりました。」


「お二方、古竜さまが来る前に少しでも多くチェックを終わらせましょう。」


シャイン様のやる気に火が付いたみたい。こういう風に火が付くと管理力が上がり、作業効率が倍以上に上がって正確さに早さが増すのよね…。

それ以上に効率よく仕事を熟している両親もすごいと思うけど…。

シャイン様に併せているようで、実際はその倍以上のスピードで仕事してるのよね。この両親は…。

この速度だと、午前中に書類関連の最終確認は、終わりそうね。


さて、ルーモ主任の所に顔を出しに管理整備棟を後にし、庭園整備部へと向かう。

庭園に着くと、光と闇の大精霊が庭園の散歩をしてきたいと言うので、自由にお散歩してきてもらうことにする。

何かあったら、念話テレパシーで呼んでもらうように声を掛けて、お二方と別れる。


「お、アニス、重役出勤かぁ?」


「主任、その言い方は止めてください。今は、一応、ここの整備士であって整備士では無いんですから。」


「おっと、そうだった。すまんすまん。んで、後ろのお二方はって、野暮なことを聞いても仕方ないか。女王さんに嬢ちゃんなら、ここの整備部のどこかの視察をしてるはずだぜ。」


「女王さん?ルーシェ長官のことですか?」


「あぁ、すまんすまん。昔、長官さんは、七大魔族の女王様だったんだぜ。」


「ルーモ主任、昔のことを勝手に話さないでください。」


「なんでい、査察終わったのかい。」


「はい。特に問題ありませんでした。さすがはルーモ主任の整備部ですね。」


査察から戻った、レイティア様とルーシェ様がこちらに来られる。

ルーシェ様は、昔のことを色々と知られることが恥ずかしい様子。


「女王と言っても、お飾りの女王ですわ。七大魔族の頂点に居たのが我が家であって、私の実力ではありませんわ。」


「何を謙遜してるんじゃ、いつもの傲慢はどうした? それに七大魔族の一人がここで整備士として、働いているのを忘れてるのかい?」


「先程、久しぶりに会ったわよ。そして、いつもの通りに断られてきたわ。あれだけの技能があれば、中央管理局で様々な所に派遣できるのにとても残念なことだわ。」


「まぁ、あいつは、ここだけが気に入っている色欲だからな。仕方ないことじゃ。」


「えっ、ここにそんな方が働いていたんですか?」


「ん、アニスは知らなかったのか? アスっていう魔族の姐さんがいるだろ。」


「アス姐が七大魔族のお一人なのですか? 確かに整備の腕は主任以外で、ここでトップの方じゃないですか!」


「実際にあの方は、管理整備官の実力と資格を持っているんですが、ここの一整備士として働いてる方が良いとのことで、私の方からも何も言えないのよ。だから、偶にルーシェ様が来て、勧誘するんですけど、いつも断られているのよ。」


「アス姐の奴、ここ以外だとやる気がでないし、ここが一番気持ちいいから、絶対に他は嫌だの一点張りなのよ。」


「アス姐は、皆に慕われてますし、私もいろいろと日頃、整備作業で教えて貰ってますからね。仕方ないと思いますよ。」


まさか、七大魔族のお一人がこの丘にいるなんて知りもしなかった…。勉強不足なのかしら?

でも、七大魔族に関わることなんて、あると思ってなかったからなぁ~。まぁ、いっか。


「あの方も立場は伏せてますし、一整備士として、ここで働ているので、私もあまり口出しはできませんので。」


「レイティアは、いつもそう言って、私任せにするんだから。」


やっぱり、立場は伏せているのか、私も知らなかったことにしておこうかしら。

ルーシェ様が思いついたように私を見る。


「アニス様から言って、アス姐を中央に行くように言ってくださいよ。」


「アス姐が居なくなると、この丘にとっては損失になるので、お断りいたします。」


「アニス、よく言った。さすがは、この丘の整備士だ。」


「ルーモにも中央に来るように言ってるのに、ここの整備士は皆、頑固で困るわ。」


ここの整備士の1位、2位を持ってかれたら、この丘の整備が成り立たなくなるから止めて欲しい。

主任も私の一言を気に入って、笑ってるし…。


「なら、せめて、ルーモ、アス姐のどちらか、ここの整備官になって頂戴。整備官が居ないのは、ここだけなんだから。」


「主任してるんだから、そこは面目躍如してくれよ。やらせるなら、アスの姐さんにお願いしな。」


「まぁ、ここに居ない方を整備官に無理強いするのは、良くないかと思いますが。」


「わかったわ。じゃあ、アス姐を呼んでくるわよ。」


そう言うとルーシェ様は、一瞬にして転移し、アス様を連れて戻ってくる。


「ルーちゃん、いきなり現れたと思ったら、こんな所に連れてくるなんてなによ。」


「いい、アス姐。よく聞いて、明日から交換研修が始まるのは知ってるわよね?」


「うん、知ってるわ。天族の管理整備官の夫婦が来るんでしょ。だから、ご夫婦に整備作業を手取り足取り教えればいいんでしょ。」


「そうなんだけど、アス姐。貴女に整備官としての任に就いてもらいたいの。この丘だけ整備官が居ないのは、もう困るの。今回は長期の交換研修だし、何かあった場合の上位管理官たるレイティアに報告してもらいたいのよ。」


「それなら、主任がすればいいことじゃないの。私が役職なんてする意味ないわ。」


「主任は主任業務で忙しいの。整備官業務は、この丘の全整備の要だから、アス姐にお願いしたいの。」


「ルーちゃん。一つ聞きたいんだけど、もし、これを受けたら、中央に配属の話は今後、一切無しになるの?」


「えぇ、いいわよ。ここの整備官職をしてくれるなら、中央管理局への配属の勧誘は今後、一切しません。但し、この丘の整備官として、しっかりと整備に励んで頂戴。但し、役職的には、主任より上にはなるけど、これ以上の譲歩はできないわ。」


「うーん、面倒だけど、ここじゃないと気持ちよく仕事できないから、整備官職の任を受けるわ。でも、管理業務は滅多なことが起こらない限り、絶対にやらないけど、いいかしら?」


「いいわ。交渉成立ね。では、管理整備長官の命にて、本日付でアスを大樹の丘、管理整備棟整備官職に任じます。」


アス姐さんって、普段、こんな話し方なんだ。整備業務を行ってる時とは別人みたい。

しかし、なんだかんだで、ルーシェ様も巧いこと言って、整備官職に就けちゃうんだから、怖いなぁ~。


「アス整備官様、以後、宜しくお願いしますね。」


「アス整備官殿、何かあったら、命じてくれ。主任として動くからな。」


「レイちゃんも主任も気持ち悪いから、いつも通りにアスって呼んでよ。整備官って言っても名前だけだから。お仕事はちゃんとやるわよ。アニスちゃんもいつも通りにアス姐でいいからね。あっ、でも、今はアニス様って呼んだ方がいいかしら?」


「アス姐、様呼びは止めて、私も気持ち悪いですから。あっ、でも、アス姐のサポートできることは、何でもするから言ってね。」


「よし、これで一番の難関だった整備官職が決まったわ。これで明日から交換研修で向こうにきちんと対応できるわ。」


レイティア様も主任もホッとした様子。ルーシェ様も一番の悩みを解消できたみたいで笑顔がみられる。

アス姐は、仕方ないなぁ~って感じで観念したみたい。あとでこっそり勧誘に関して聞いてみたら、来る度にずっと傍で言い続けて仕事の邪魔になって仕方がなかったらしい。それもここ最近、勧誘の頻度が多くなってたみたいで、いい加減、うんざりしてたので、これで解消されるならということで、一つだけ交渉権を使ったとのこと。


「じゃあ、夕方の臨時集会で、発表するので宜しいかしら?」


「皆の前で、きちんと整備官の任は受けるけど、挨拶とかは期待しないでね。」


「別にいいわよ。ルーモ主任の時だって「宜しく!」の一言だったし。」


ルーシェ様とアス姐の間で、話が進んで行く。

それを見て、レイティア様とルーモ主任は夕方の臨時集会に向けて、一応の再準備にかかる。

光と闇の大精霊さん達は、まだ庭園を散歩してるみたいで戻ってこない。

そろそろ、お昼休みか、アス姐の為に整備官室の片づけでもしておこうっと。

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